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2018年05月15日

【てら先生コラム】第3回:『ケアレスミス』というミス

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「ケアレスミス」について。

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試験返却時に保護者がショックを受ける事態とは

 

 新年度が始まり、1学期に中間テストを実施する学校では、そろそろ定期試験の期間を迎えたり、新たな学年の模擬試験がスタートしたりする時期となりました。 

 保護者にとっては、お子さんの試験の結果が気になることでしょう。試験を終えて帰宅したお子さんに「試験はどうだった?」と声をかける保護者は少なくないと思います。「良くできた」「バッチリ」といった声が返ってくれば安堵し喜び、「あまりできなかった」といった声や無言の返事が返ってくれば心配してしまうのが保護者の心情として当然でしょう。

 

 ここで、試験を終えてのお子さんの『手応え』と実際に返却された試験結果が一致している場合は、その結果が良かろうと悪かろうと、保護者にとって想定内といえます。しかしながら、お子さんの試験直後の『手応え』と、実際に返却された試験の『結果』が異なる想定外の事態が頻繁に起きているのです。

 

『手応え』は芳しくなかったが結果が案外良かったような事態(これも「運良く正解を記入してしまったのではないか」といった点検が必要ですが)よりも、『手応え』は良かったが結果が想定外に悪かったような事態の方が、頻度としては圧倒的に多いように思います。保護者からすれば、思わず「なぜなの?」と、お子さんに問い詰めたくなってしまうショッキングな事態といえましょう。

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いにしえより言い伝えられる『ケアレスミス』と称される誤答

 

 このような事態で、しばしば持ち出されるのが、「本当はわかっていたがたまたま試験では○○だった」という解釈です。○○の中には、「焦って書き間違えた」「時間が足りなくなってしまった」「緊張して間違えた」「勘違いしてしまった」「違う解答欄に答えを記入してしまった」「試験中に正答を思い出せなかったが、試験後には思い出せた」といった言葉が入ります。これらの「本当はわかっていたのだがたまたま試験で間違えた」誤答を子どもだけではなく保護者や先生も『ケアレスミス』と呼び、「惜しかった」「もったいなかった」、「ケアレスミスさえしなかったら本当は●●点だったのに」と感じるようです。

 

 この『ケアレスミス』とは一体何なのでしょうか。小学館の大辞林 第三版によれば、《〔careless mistake から〕 注意していれば防げたはずの間違い・失敗》と、されています。この『ケアレスミス』と称される誤答は、『うっかりミス』『単なる不注意』『凡ミス』などとも称されています。『ケアレスミス』には、大辞林の記載からも、「本当はわかっていたり本当は知っていた、本来は間違えないはずの問題をたまたま不注意によって試験では間違えてしまっただけだ」という意味合いが私には感じられます。そして、この『ケアレスミス』という単語は、私が教育業界にかかわるようになった三十数年前も現在も広く流布しています。

 

 子どもは本当はわかっていたのであり『学力』はあるのだが、『ケアレスミス』により『たまたま』試験で『学力』を発揮できなかったので『結果』が振るわなかった、『学力』が足りないのではなく『注意力』が足りないのだと解釈したとしましょう。そしてもし、「あなたは本当におっちょこちょいなのだから・・・次の試験では問題文を注意深く読んで、落ち着いて解こう」「問題を解き終えた後で、『ケアレスミス』をしていないかどうか、しっかりと見直しよう」と保護者や先生が子どもにアドバイスしたとしても、次の試験でも同じ事態が生じる可能性は極めて高いように思います。

 

それは何故でしょうか。

『ケアレスミス』の正体は何か

 

 子どもは、㋐『(問題の)答えや解き方を知らない』段階と、㋑『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階の2段階でとらえがちです。

 

 これに対して、学習指導をする立場からすると、㋐『(問題の)答えや解き方を知らない』段階、㋑『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階の次には、㋒『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階と㋓『(試験やテストなどでも)得点できる』段階の計4つの段階があり、それらの間には大きな習熟度の差があると考えているのです。

 

 ㋐『(問題の)答えや解き方を知らない』段階

 ㋑『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階

 ㋒『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階

 ㋓『(試験やテストなどでも)得点できる』段階

 

 この4段階のうち、㋐の段階から㋑の段階にステップアップさせることにより、問題の解き方がわかり『学力』がつきます。これは解き方や正答をインプットする学習で身につける力といえます。次に、㋒の段階から㋓の段階へステップアップさせることによって、試験やテストで得点できる『得点力』がついていきます。これは、インプットされた正答や解き方を、いつでもどこでも正確に迷わずアウトプットできるようにする学習で身につける力と言えます。㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階にあっても、マークミスなどで解答欄に正しく記入していなかったり、「正しいものを二つ選べ」という問題で答えを一つだけ記入したりする場合も、㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階にあるとはいえません。

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 ところで、子どもが『わからない』と答えるのは、㋐の『(問題の)答えや解き方を知らない』場合に限られています。子どもは『わからない』問題を正解できなくても、「『ケアレスミス』をしたから正解できなかった」「『本当はわかっていた』のだが『たまたま』間違えてしまった」とは言いません。「『学力』が足りなかった」「知らなかった」と答えます。

 「『ケアレスミス』をした」と答えるのは、㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階や㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階であっても、㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階に至らなかった場合です。こうしてみると『学力』はあるが『得点力』が不十分な状態が誘発する誤答が『ケアレスミス』の正体であるといえます。

 

 子どもにとっては㋑㋒㋓の3段階とも『(問題の)解き方や正答を知っている』段階という認識なので、㋑㋒㋓ともテストでの『手応え』があります。ところが、返却されたテストで得点になっているのが㋓の段階の問題のみであれば、試験後の『手応え』と返却された試験『結果』に大きな差が生じるのは当然といえましょう。そして、その主原因は、㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階や㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階から㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階にステップアップさせる『得点力』をつける練習の不足だといえます。

 

 ですから、不本意な試験結果の原因が『得点力』不足にあるにもかかわらず、『注意力』不足と判断して、『注意力』を向上させる入念な対策をとったとしても、『得点力』不足の課題が解決されないままでは、次回の試験でも不本意な結果に終わってしまう可能性が極めて高いと判断せざるを得ないのです。

 

 もし、普段の学習で英文法が『わかっていて』、Iplay the piano.と書けたとしても、試験でI am play the piano.と書いてしまう子どもは、『ケアレスミス』をしてしまうような『注意力が欠けている』のではなく、㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階にある『得点力』を身につけるトレーニングが欠けているのだと解釈した方がよいと思います。九九の暗唱で7×8=56と言えても、焦って問題を解く際に7×8を54としてしまうような場合も同様でしょう。この『ケアレスミス』と称される誤答の原因のほとんどは、練習不足から十分な習熟度に達していないだけなのだと私は考えています。

『学力』をつけることがゴールなのか

 

 ここで、ピアノを習っている子どもの場合を考えてみましょう。ピアノ演奏法を解説した映像を観れば、ピアノの弾き方はわかります。しかし、実際に自分で鍵盤を叩き練習しなければ弾けるようにはなりませんし、聴衆が見守る発表会といった緊張する場面でもミスなく弾けるようになるには、単に「弾ける」だけではなく「本番の舞台でミスせずに弾ける」くらいの習熟度に上げる必要があります。このように、ピアノの演奏でも、弾き方を知らない段階(㋐)があり、弾き方はわかる段階(㋑)を経て、間違えないで弾ける段階(㋒)、発表会でも間違えずに弾ける段階(㋓)へと習熟度の4段階があります。ピアノ教室に子どもを通わせている保護者の多くは、ピアノの弾き方はわかる段階(㋑)ではなく、子どもが発表会でも間違えずに弾けるようになる(㋓)ことに関心を持たれることでしょう。

 

 これに対して、勉強に関してはどうでしょうか。保護者は子どもが(学校や塾の)授業内容が『わかる』かどうかに強い関心を寄せている場合が極めて多いのです。つまり、㋐の『(問題の)答えや解き方を知らない』段階と、㋑『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階の2ステップでとらえがちです。『(問題の)答えや解き方を知っている』かどうかという『学力』の有無への関心が高く、㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階・㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階・㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階の間の習熟度の差を重要視していない方が案外多いのです。

 

 このため、保護者面談をしていると「うちの子どもは『(塾で習った問題の解き方が)わかっている』でしょうか」という質問や、「『(問題の)答えや解き方がわかる』ようにしてください」という要望が多く寄せられます。4つの段階にあてはめると、㋐の『(問題の)答えや解き方を知らない』段階から、㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階にステップアップして、『学力』がつけばよいと考えている方が多いのです。

確かに『学力』は必要なのですが、『学力』がつけば十分なのでしょうか。

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筆記試験では『得点力』の有無で『学力』が判断される

 

 中学校や高等学校で行われる定期試験などでは、学校の先生が「この生徒はこのような問題については普段は理解しており、試験の時に『たまたま』間違えてしまったのだろう」と解釈する場合があるかもしれません。

 

 しかしながら、入学試験や模擬試験では『学力』があったとしても、解答欄に記されている答えが正しくなければ『わかっていない』『学力』がないと判定され、得点になりません。公立高校入試問題の名称は多くの都道府県では「入学者選抜学力検査問題」なのですが、実際に検査しているのは『得点力』の有無といえます。

 

 たとえば、関西大学商学部の2017年度一般入学試験「学部個別日程」「全学部日程」における合格ライン付近の人数分布をみますと、450点満点の入学試験の合格最低点は276点です。この276点の上下10点の幅に総受験者の約11%にあたる741人が集中しています。そして、合格最低点の上10点以内に合格者の約28%にあたる317人が集中しています。※1

 

 こうしてみると、入学試験における「1点の重み」は大きく、『本当はわかっていた』『ケアレスミス』として看過することはできません。試験では、何をどれだけインプットされているかではなく、どれだけアウトプットできるかが問われるのです。㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階で求められる『得点力』をつけることこそが、合格への十分条件なのです。

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お子さんの努力が適切に評価されるために必要なこと

 

 お子さんの学習に対する努力が適切に評価されるためにはどうしたらいいでしょうか。

それは㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階から、㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階に、さらには㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階まで習熟度を上げるための「演習」を重ねることが重要になってきます。

 

 ㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階まで、つまりインプット学習だけならば、ネット上にあふれている解説動画を視聴すれば足りてしまうお子さんも大勢いるでしょう。配信されている動画には無料のものもあります。

 そのような環境の中で、東京個別・関西個別が「解説中心」ではなく、講師が生徒の問題を解く様子を点検しながら「演習中心」の学習指導を大切にしているのには、理由があります。

 

 生徒の隣で講師が問題を解いてみせて㋐の『(問題の)答えや解き方がわからない』段階から㋑の『(問題の)解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階にするインプット学習だけでなく、生徒の問題を解く様子を観察して学習を指導し、㋒の『(問題の)解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階からさらに演習中心のアウトプット学習を繰り返し行い、㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階にまで引き上げることがねらいなのです。そこには、生徒にインプットされている『学力』を十分にアウトプットできるように『得点力』を引き上げることが、試験での好結果につながるというノウハウがあり、そのことにより生徒の成功体験や目標達成に近づけたいという思いが込められています。

 「ケアレスミスに注意して解きましょう」とアドバイスするよりも、「まだ解くスピードが不十分だから、テストでは時間不足になってしまうことになるので、●分で解けるようになるまで練習しよう」というように生徒の課題を明らかにして、具体的な対処トレーニングの結果、『ケアレスミス』という㋑㋒段階の誤答が退散していくのです。

 このように子どもが㋐『答えや解き方を知らない』段階、㋑の『解き方や正答を知っており、ゆっくり落ち着いて解けば正解できる』段階、㋒の『解き方や正答を知っており、制限時間内でも正解できる』段階、㋓の『(試験やテストなどでも)得点できる』段階のどこに今あるのかという視点を加えていただくことで、今までと違った試験の振り返りをお子さんと一緒に行うことができるのではないでしょうか。

 

※1. 2018年度関西大学入試ガイドp52より

~【てら先生】プロフィール~

 

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。