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2018年10月02日

【教育改革】第8回:学習指導要領とICT

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第8回目は『学習指導要領とICT』の評価についてお届けします。

◇『情報活用能力』が学習指導要領に明記された

 

 2018年3月30日、文部科学省は、2022年度の高校入学生から適用される高等学校学習指導要領を公示しました。*¹ 2018年4月時点で小学6年生の子どもだちからが対象となります。学習指導要領は、小学校、中学校、高校などで教える学習内容の基準を定めたものです。教科書はこれを元にして作られます。また、国公立、私立といった設置者にかかわらず、学校教育法で認められた学校と呼ばれる教育機関で教える際には、この学習指導要領にしたがって指導しなければなりません。

 

 学習指導要領は、時代の変化にあわせて、おおよそ10年に1回の割合で改訂を続けているのですが、2022年度以降の高校の学習指導要領はどのように改訂されるのでしょうか。今回は、ICT教育との関係について考えてみたいと思います。

 

 今回の学習指導要領では、「情報活用能力」を、言語能力と同様に学習の基礎となる資質・能力と位置付けました。*²

「情報活用能力」とは、文部科学省の定義では『課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力』とされています。*³ この「情報活用能力」が学習指導要領に規定されたのは、今回の改訂がはじめてのことです。

◇ICTの積極的な活用を促す

 

 今回の改訂で、全ての高校生が学ぶ必修科目に『情報Ⅰ』が設置されました。これにより、全ての高校生が、プログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベース(データの活用)の基礎等について学ぶことになります。

 

 2018年5月17日に、総理大臣官邸で開催された第16回未来投資会議で、安倍総理大臣は「人工知能、ビッグデータなど、IT技術、情報処理の素養は、もはやこれからの時代の読み書きそろばんではないでしょうか。その認識の下に小学校から大学まであらゆる子どもたちに対する統計・情報教育の抜本強化し、大学入試においても、国語、数学、英語のような基礎的な科目として情報科目を追加、文系理系を問わず理数の学習を促していく」と発言しました。*⁴  この方向性は、未来投資戦略2018*⁵ にも盛り込まれ、閣議決定されました。

 この動きをうけて、大学入試センターでは、情報関連学会の大学教員及び高等学校教員から,『情報Ⅰ』科目について、CBT(試験をコンピューター上で行うこと)*⁶を活用した試験の開発に向けた問題素案を募集しました。*⁷

 このため、2018年度の小学生以下の子どもたちが国立大学を志望する場合は、大学入学共通テストで『情報Ⅰ』を受験することになるかもしれません。

 

 『情報Ⅰ』での学習だけではありません。新たに学習指導要領で新設される『公共』という必修科目では、『情報の収集、処理や発表などに当たっては、学校図書館や地域の公共施設などを活用するとともに、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用し、指導に生かすことで、生徒が主体的に学習に取り組めるようにする。

その際、課題の追究や解決の見通しをもって生徒が主体的に情報手段を活用できるようにするとともに、情報モラルの指導にも配慮する』*⁸ とあります。

 

 また、

 『理数探究』という新設科目でも『観察、実験などの過程での情報の収集・検索、計測・制御、結果の集計・処理などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用する』*⁹と書かれています。

 

 『理科』では、『各科目の指導に当たっては、観察、実験の過程での情報の収集・検索、計測・制御、結果の集計・処理などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用する』*¹⁰

 

 『英語』では『生徒が身に付けるべき資質・能力や生徒の実態、教材の内容などに応じて、視聴覚教材やコンピュータ、情報通信ネットワーク、教育機器などを有効活用し、生徒の興味・関心をより高めるとともに、英語による情報の発信に慣れさせるために、キーボードを使って英文を入力するなどの活動を効果的に取り入れることにより、指導の効率化や言語活動の更なる充実を図るようにする』*¹¹、

 

 『総合的な探究の時間』でも、『探究の過程においては、コンピュータや情報通信ネットワークなどを適切かつ効果的に活用して、情報を収集・整理・発信するなどの学習活動が行われるよう工夫する』*¹²

 

と書かれています。このように各教科・科目でのICTの積極的な活用という新たな要素も加わることになりました。

◇学校での情報端末の導入は遅れと格差が

 

 このように、新しい学習指導要領では情報端末の積極的な活用を求めているのですが、学校での情報端末の配備状況はどのようになっているのでしょうか。

 

 マイクロソフト社の教育ICTリサーチ*¹³ によると、公立校で1人につき1台の端末を整備した自治体(教育委員会)は2018年調査では約2%(2016年調査では約1%)です。今後3年以内の目標ベースでは、約7%に拡大するようです。一方、私立校では、1人1台端末の自治体(教育委員会)は2018年調査では約7%(2016年調査では約3%)です。今後3年以内の目標ベースでは、約22%に拡大するようです。現在・将来とも公私立間の差が大きいのですが、『コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用』するには、整備が遅れていると言わざるを得ません。

 

 また、40台以下の端末設置校の割合は、公立は2018年で約80%ですが、3年以内の目標ベースでも約63%が該当します。私立は2018年で約69%ですが、3年以内の目標ベースでも約53%が該当します。私立では今後3年間で1人1台の学校が約7%から約22%と3倍以上に増加する見込みですが、一方で40台以下の端末設置校の割合は、3年後でも過半数を超える約53%が該当し、二極化が進行しそうだということがわかります。

◇保護者ができることは何か

 

 このことから、子どもが上級学校に進学する際の学校選びも重要になってきます。先に述べた通り、学校での情報端末の整備状況は、公私立間格差だけではなく学校間格差も非常に大きいのが現状です。今までは一般的には偏差値の高い学校が大学入試に強い学校と言えました。

 しかし、新しい学習指導要領で行われる大学入試では、今回の改訂点(情報Ⅰや英語四技能評価、探究型の学習など)にいち早く対応している学校の方が有利になると予想されます。現在、子どもやご家庭が目指している学校が、このような変化に対応している学校なのかどうか、実際に学校に足を運び、学校側の説明を聞いて自分の目や耳で判断する必要があるのではないでしょうか。

 

 しかし、それ以上にご家庭で配慮していただきたいことがあります。

これだけ急激に発達したIT社会に対して学校教育は、追いついていないという現実がありますが、これからは「知らなかったではすまされない」時代になります。2022年4月1日からは18歳・19歳は「成年」となり、「未成年者取消権」は行使できなくなります。親権者の同意無しに消費者ローンやクレジットも利用できることにもなりますので、高校3年生で多重債務となったり、ネットを使った詐欺商法の被害に遭ったりすることも起こりえます。今から、情報モラル教育、情報セキュリティ教育、情報リテラシー教育の3点は大切な子どもを守るためにもご家庭でも教育しておく必要があります。情報モラル教育は、SNSの書き込みなどで意図せずとも他人を傷つけてしまうことがないように必要でしょう。

 情報セキュリティ教育は、個人情報やパスワードの管理をする必要があります。そして、フェイクニュースを見極めたり一見もっともらしい情報に騙されたりしない情報リテラシー教育も重要でしょう。いずれも学校任せにするのではなく、保護者自身もネットやスマートフォンに対しての正しい使い方や、ネット上のトラブル・危険性、安心して使用できる方法をご家庭でも子どもに教え、知っておかないとこれだけの損をする、人を不幸にする、という事実を理解してもらうことが大切でしょう。

 

 教育は、子ども自身はもちろんですが保護者や学校の役割が重要です。ご家庭では、保護者が楽しそうにしていれば、子どもも興味を持ちます。保護者が適切に情報端末を利用する姿を子どもに見せたり、テレビや新聞で気になる言葉や事柄が出てきたら、親子でタブレットやスマートフォンで調べてみたり、関連事項も検索してみたりするような日頃からの接し方でお手本を子どもに見せていくことも重要になるでしょう。

 

 

*¹ 平成30年文部科学省告示第68号

*² 高等学校学習指導要領 総則5P

*³ 文部科学省「教育の情報化に関する手引」より

*⁴ 首相官邸HP:https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201805/17mirai_toshi.html

*⁵ 2018年6月15日 閣議決定

      https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf

       大学入学共通テストにおいて、国語、数学、英語のような基礎的な科目として必履修科目「情報Ⅰ」

      (コンピュータの仕組み、プログラミング等)を追加する

*⁶ Computer Based Testing(CBT) とは試験における工程を全てコンピュータ上で行う事

*⁷ 大学入試センター 「情報」の問題素案 作成要領:https://www.dnc.ac.jp/research/sonota/cbt.html

*⁸  高等学校学習指導要領110P

*⁹  高等学校学習指導要領594P

*¹⁰   高等学校学習指導要領167P

*¹¹ 高等学校学習指導要領639P

*¹² 高等学校学習指導要領643P

*¹³ マイクロソフト社 教育ICTリサーチ

2016年版 https://www.microsoft.com/ja-jp/business/education/campaign/ict-survey-2016.aspx

2018年版 http://download.microsoft.com/download/7/D/2/7D239418-DAA3-4FBF-BD10-4F099A5E1BC5/ict_research1806.pdf

*¹⁴  2018年6月13日に民法の成年年齢を18歳に引き下げる等の民法改正法案