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2019年10月31日

ARではあらゆるものがエンターテインメントに。子どもたちに必要なのは個性と想像力

AR(拡張現実)とVR(仮想現実)― 使われ方はこう違う

近年、急激に市場を拡大しつつあるAR技術は、子どもたちにも大きな影響を与えています。特に教育界では、子どもたちの個性や想像力を伸ばし、より深い学びが得られる手助けになる技術として注目されています。ではARとは何で、VRとはどこが違うのでしょうか。娯楽や教育面における(もしくは「に見られる」)子ども向けARの活用事例や、ARを導入するに当たって(もしくは「導入する際に」)クリアしなければならない課題について解説します。

 

AR(Augmented Reality:拡張現実)とは、今、私たちが見たり聞いたりできる現実世界に、実際には感知できない情報をプラスしていく技術のことです。視界を透過するゴーグルやスマホ、タブレットなどで見える実際の映像に、位置を重ね合わせてCG情報などを追加します(※1)

 

一方、VR(Virtual Reality:仮想現実)は、視界を覆う没入型のゴーグルを使い、創り上げられた仮想の空間を、まるで現実のように体験できる技術です。ゲームなどのエンターテインメント分野で活用されて話題を呼んでいますが、広告や各種の職業訓練、遠隔地からの医療支援・教育支援などでの利用も進んでいます。ARとの違いは、ARがあくまでも現実世界をベースとしているのに対し、VRは別の仮想空間に自分自身が飛び込んでいくという点です。

 

なお、仮想のデジタル空間に現実世界のデータを重ね合わせるMR(Mixed Reality:複合現実)や、現在見ている映像と過去の映像をすり替えることで、実在しない出来事を現実のように錯覚させるSR(Substitutional Reality:代替現実)といった技術も開発が進んでいます。これらを総称してXR技術と呼びますが、ここでは主にARについてご紹介します。

エンターテインメントではすっかりお馴染みのAR

ARの活用事例としてポピュラーなのは、やはりゲームなどに代表されるエンターテインメントの分野でしょう。ある特定の場所に行くと人気アニメのキャラクターが現れ、それらを捕獲したり撮影したりして楽しめるスマートフォンアプリが爆発的な人気となったのは記憶に新しいところです。

 

ARによって作り出される仮想空間では、想像力ひとつであらゆるエンターテインメントが楽しめると言っても過言ではありません。敵を倒したりペットを育てたりすることはもちろん、料理やスポーツを楽しむことさえできます。実際、ARエンターテインメントの市場規模はここ数年で100億円を超え、2030年には4,900億円近くに達すると見込まれています。(※2)

 

また、ARの利用はエンターテインメントの分野だけにとどまりません。位置情報や空間情報を認識し、ある場所に近づくと、特定の言語で音声や動画コンテンツが再生される機能は、美術館や博物館で、あるいは各種イベントの配布物や観光ガイドマップなどに活用され、利用者の母国語で必要な解説や道案内を行っています。さらには、危険度の高い場所に対する注意喚起用のビーコンとして使われている事例もあります。

ARは教育分野とも相性抜群

AR技術は、教育分野でも大きな注目を集めています。例えばあるアプリでは、星空にスマホを向けると、その方位にある星座の名前や位置を即座に調べることができます。教科書にスマホをかざすと実験動画が見られるアプリや、人体の内臓を3Dで見せてくれるものもあります。また、算数や数学といったイメージしにくい世界を、具体的に表現できる教材もあります。

 

さらに、ARのリアルな映像は、子どもたちの感情をも動かすことができます。例えばある教材では、戦争被害を仮想体験することができ、それによって犠牲者の心に寄り添い、戦争の悲惨さを実感することができます。また、ARを利用すれば、まだ起きていない事故や災害についても、リアルに学ぶことができます。すでにある学校では、洪水や火災時の状況をARで再現することにより、防災時の正しい行動や心構えを学ぶバーチャル避難訓練が実施されているそうです。

子どもにARを活用する上でのメリットとデメリットとは

このように、ARは文字情報だけでなく、3Dデータやビジュアルを軸とした教育を可能にしました。それらによってもたらされる情報は、時に教科書の中の文字や写真だけで得る情報より多くのことを伝え、理解を促すでしょう。実際、ある大学が行ったテストでは、「ARを学習に取り入れることで、子どもたちにやる気を起こすことができ、それによって効果的な学習方法を提供できる可能性がある」との結論が出されています。(※3)

 

今後、このようなビジュアルを中心としたARによる学習技術がさらに活用されることで、子どもたちのより深い学びと理解、そして個性に基づいた創造力を伸ばす教育が実現することが期待できます。

 

一方で、AR機器や使用環境にかかる予算、教師がAR技術をどこまで使いこなせるか、現在のカリキュラムとどう置き換えるかといった課題も残ります。また、ARの映像には文章や写真以上のリアリティがあるだけに、子どもたちの心理面や健康面に対する影響を懸念する声もあり、教材によっては導入に当たって、より慎重であることが求められるかもしれません。

 

(まとめ)

これまで単なる文字情報でしかなかったものが、ARの登場でリアルに感じられるようになりしました。ARは今後、さらに様々な分野で活用されることが見込まれています。子どもたちにとって非常に身近な技術だけに、学校であれ家庭であれ、よく検討して上手に取り入れることで、子どもの創造力や学習意欲を高めていくことができるでしょう。

 

参考資料

※1

日経ビジネスオンライン

「Mixed Reality(複合現実)とは何か」

https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/17/microsoft0419/p5/

 

※2

Forbes Japan(寄稿:John Koetsier

「ポケGO効果で拡大の「ARエンタメ」市場、今後10年間の予測」

https://forbesjapan.com/articles/detail/28120

2019/7/1

 

※3

EurekAlert!(ヘルシンキ大学:Hannu Salmi)

「Augmented reality advances learning especially in informal science education context」

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-11/uoh-ar112816.php

2016/11/28

 

※3の日本語概要は以下の通り

TIME & SPACE(幸野百太郎)

「VR、ARを活用した体験型教育がすごい」

https://time-space.kddi.com/digicul-column/world/20170106/

2017/1/6