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FEATURES一覧に戻るいまやVRやARの業界は、日々新製品のニュースでにぎわいを見せています。その上、それらの次の技術である「MR」が、すでに大きな注目を集めてきています。VRやARよりもさらにリアルな仮想体験を提供し、教育の分野にも多大の影響を与えると期待されているMRとはいったいどんな技術でしょうか。
まだまだ発展途上の分野ではありますが、現時点で、MRでできることやその活用事例について解説します。
1.VRやARを超える! 現実と仮想を融合するMR(複合現実)

MRは「Mixed Reality」を略した言葉で、日本語では「複合現実」と訳されます。MRとよく似た言葉に、VR(Virtual Reality=仮想現実)やAR(Augmented Reality=拡張現実)がありますが、MRはVRやARをさらに発展させた技術だと言えるでしょう。
アメリカの大手半導体素子メーカーによると、VRは「コンソールやPCに繋がったヘッドセットなどを着用して、実際の環境とは別の環境や世界に自分がいるかのように感じさせる」技術。ARは「現実世界をデジタル情報で拡張し、新しい知覚層を重ねて現実、または環境を補完する」技術と定義されています。(※1)
一方、MRでは現実とデジタル要素がさらに融合され、前述の企業によると「その間の概念が消失」します。次世代のセンサーや画像テクノロジーを使って、「片方の足や手は現実世界に、もう片方は想像の場所に置くこと」ができますし、現実の世界に重なって浮かび上がったCG映像に触れることや操作することも可能です。また情報を固定することで、同じ空間に入り込んだほかのユーザーと同一の仮想体験ができることも、MRの大きな特徴です。(※1)
VRやARが生活の中で身近な技術になりつつあり、ヘッドセットなどのVR用デバイス製品やAR用のソフトが日々開発・発売されるなか、MRは研究途上の新技術とあって、実際に経験できるシーンはまだまだ多くはありません。しかし次世代を担う技術として、各企業・各分野から大きな注目を集めています。
2.すでに各国で本格化―MR(複合現実)技術の研究
MRを語るうえで欠かせないのが、マイクロソフト社のシステム「ホロレンズ(HoloLens)」です。ワイヤレスのゴーグルを付けると、視界全体がディスプレイとなり、シースルー型の3D映像、いわゆる「ホログラム」が現実世界上に現れます。(※2)
ゴーグルにはセンサーやカメラ、スピーカーが内蔵されており、視線や声、さらに手や体を動かすことで映像を拡大・縮小する、回転・分解するなどの操作ができます。ゴーグルにはOSが搭載されているので、PCやスマートフォンに接続する必要さえありません。また自分がHoloLensで見ているものを、ほかの人もそれぞれのHoloLensで見ることができるので、複数人で1つの「ホログラム」を囲んで議論することもできます。(※3)
また、日本でもMRを活用した技術の開発が進んでいます。例えばある大手メーカーの作り出した「複合現実」は、実寸大で非常に臨場感があると話題になりました。普及すればユーザーの生活を大きく変革するであろうMR技術の研究は、すでに各国で本格化しています。(※3、※4)
3.見えないものを「見せる」MR(複合現実)―各界から大きな期待

MR技術は、具体的に社会やくらしの中でどのように活用されるのでしょうか。まず期待されているのが、製造業・建設業の分野です。たとえば自動車や旅客機、建築物などの大型製品を作るにあたり、実物大の模型を作ることはかなり困難でしょう。しかしMR技術を使えば、低コストで実寸大の3D映像を作り出せるので、事前に完成品のイメージを把握して検証できます。(※1、※3)
医療分野での活用も期待されています。目の前にいる患者さんの患部に、本人の血管や神経などの映像やX線写真などのデータを重ね合わせることで、より精確な治療が可能になります。すでに歯科では、MR技術を使った手術のトレーニングシステムが開発されています。(※5、※6)
製造・作業での現場でもMRは活躍します。新人作業員がベテラン作業員のお手本動画を現場で再生し、それを見ながら作業することで、人手不足の中であっても技術を伝承することができます。現地でマニュアルを呼び出し、確認しながら作業することもできます。すでに大手企業ではこの技術を、整備や操縦の訓練として取り入れています。(※7)
4.教室の風景が一変?!MR(複合現実)は教育界をも変革

MR技術は、教育分野での活用も期待されています。人体など内部構造を知ることが重要な分野では、3Dで再現できる映像は大いに役立つでしょう。また、博物館や美術館でなければ見られなかった展示物を、いつでも好きな場所に映像として再現できれば、そうした場所に行く機会が少ない子どもたちに新たな体験を提供できます。(※7)
MR技術を使えば、現実では見ることの不可能なものも「見る」ことができます。歴史上のシーンを再現したり、恐竜など絶滅した生き物を間近に見たり、数学や物理の演算などを視覚化してイメージしやすくすることも可能です。(※7)
もちろんMRは開発途上の技術であり、学校で使用するには大量のデータ管理や、高額なデバイス価格などが課題となるでしょう。それでもMR技術の進歩によって、教室の光景は大きく変わると考えられます。ゴーグルを付けた生徒たちが、MRによる映像を囲んで討議する光景が一般的なものになる日は、意外と近いのかもしれません。
ますますリアルに、便利になっていくバーチャル技術。MRは、操作のしやすさや複数人で利用できることなどから、ほかの技術にもまして教育分野での活用事例が増えると考えられます。まだまだ研究段階ではありますが、子どもの好奇心と探求心を育成し、理解を深めるための有効なツールとなることを期待したいものです。
参照資料
※1 「仮想現実と拡張現実と複合現実の違い」 intel
※2 「ホロレンズについて」 FUJISOFT Technical Report (2018/9/28)
https://www.fsi.co.jp/blog/995/
※3 「time&space」 KDDI (2017/03/16)
https://time-space.kddi.com/ict-keywords/kaisetsu/20170316/
※4 「MR(Mixed Reality:複合現実)システムMREAL」 キヤノン
https://global.canon/ja/technology/interview/mreal/
※5 「【VR医療】10選!VRを使った最先端の医療事例や技術をご紹介します!」 スペースリー (2018/8/1)
https://tips.spacely.co.jp/vr_medical_dental/
※6 「AR、VR、MRに続く「xR」とは? 医療や教育でどう活用されるのか」 ビジネス+IT (2019/01/28)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/35945
※7 「VR・MR技術利用教育システム」 東芝システムテクノロジー
https://www3.toshiba.co.jp/tst/solutions/vr-learning.htm#h2_02