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2019年11月28日

ソフトアクチュエーターって何? 次世代ゴムがロボットの筋肉にも皮膚にもなる。

「柔らかいロボット」を実現させるソフトロボティクスの分野で注目されているのが次世代ゴムによる人工筋肉「ソフトアクチュエーター」です。次世代ゴムとは何か、そしてソフトアクチュエーターとはどのようなものなのかをご紹介します。

1.人工筋肉として注目されるソフトアクチュエーターとは?

次世代ゴムが今後の主流になると考えられている、ソフトアクチュエーターとはどのようなものなのでしょうか。

 

1-1 従来のアクチュエーターの特徴

 

アクチュエーターとは機械を動かすための駆動源のことです。工業用ロボットや医療用マシン、自動車などにも用いられています。

 

その駆動部分を動かす動力源としては小型モーターや電磁モーター、油圧や空気圧といったものがあります。主流となっている動力源は電磁モーターですが、エネルギー効率の観点からこれらのモーターの効率向上が地球規模の環境改善に大きな役割を果たすと言われています。(※1)

 

油の圧力を動力源とする油圧アクチュエーターは建設機械や自動車のパワーステアリングなどに利用されます。空気圧を動力源とする空圧アクチュエーターは駆動部が滑らかな動きをするので、電車やバスのドア開閉装置や人間型ロボットの顔の表情のリアルな動きなどで用いられています。アクチュエーターの場合、動力源は動力エネルギーを伝えるモーターや油圧などを意味し、実際に動く部分を駆動源と表現します。

たとえば電車のドアの動力源はモーター、駆動源は回転するスクリュー状のネジ部分となります。(※1)

 

1-2 ソフトアクチュエーターはロボット開発などへの利用で注目されている

 

ソフトアクチュエーターは従来の電気や油圧・空気圧を利用した動力源とは異なり、材料そのものが変形する性質を利用した動力源且つ駆動源であるという特徴があります。モーターや空気圧といった動力源から駆動源に動力エネルギーを伝える形とは異なり、材料そのものが動力源であり駆動源にもなります。人工筋肉とも呼ばれ、これまでのアクチュエーターにはない利点があります。(※2)

 

たとえば小型軽量化が可能であること、無音で作動すること、極限状態や水中でも駆動することなどが挙げられます。近年開発が進んでいるリハビリや介護といった作業補助のロボットに応用したり、医療手術支援ロボットなどに応用したりできることで注目されています。(※2、※3)

2.ソフトアクチュエーターに利用できる次世代ゴムとは

ソフトアクチュエーターへの利用で注目される、次世代ゴムとはどのようなものなのでしょうか。

 

2-1 次世代ゴムは通電により伸縮する

 

2019年1月16日から18日まで開催された「第3回ロボテックス」で、次世代ゴム素材を使ったロボットアームが展示されました。電動モーターによるアクチュエーターとは異なり、滑らかな動きをするものですが、柔らかなモノを潰すことなくしっかりとつかめることでも注目を集めました。(※4)

 

このロボットアームで使用されているのは、次世代ゴムを利用したソフトアクチュエーターです。次世代ゴムを開発したのは、大手自動車メーカーグループですが、通電することによってゴムそのものが伸縮する仕組みになっています。(※4)

 

2-2 次世代ゴムが皮膚の代わりに?

 

ソフトアクチュエーターに使用できる次世代ゴムは、単に伸縮する動力源かつ駆動源となるだけが特徴ではありません。圧力を検知して電気信号に変換できるので、センサーとしても利用できます。(※4)

 

この圧力を検知する性質を利用することで、たとえば脈拍を検知するといった使い方もできます。次世代ゴムをセンサー代わりに手首の位置に押し当てると、その電気信号を受けた次世代ゴムも脈動に連動して動きます。

 

これにより、皮膚感覚フィードバックという触覚技術に応用できます。たとえばロボットアームに次世代ゴムを使用する場合、次世代ゴムの伸縮により駆動します。さらに指先の次世代ゴムのセンサーにより、柔らかいパンなどをつかんだ時には、その圧力を駆動部にフィードバックしてつかむ力を加減できます。

 

つまり次世代ゴムは駆動装置としても、感覚を持った皮膚代わりにもなるということです。

3.次世代ゴムによるソフトアクチュエーターが切り開く未来とは

次世代ゴムを使ったソフトアクチュエーターが普及すれば、これまでのアクチュエーターにはなかった「感覚」という要素を加えていろんなことができるようになります。

 

たとえば医師が遠隔地から手術を行える手術支援ロボットでは、圧力をフィードバックすることにより医師はまるでその場で手術をしているかのような感覚が得られます。あるいは医師がいない地域にもソフトアクチュエーターを装備した遠隔操作ロボットを置いておくことで、遠く離れた医師がロボットを通して触診をすることも可能です。(※3、※4)

 

また職人技が必要な細かな作業も、職人が実際に作業する際の触感のデータを収集することにより、ソフトアクチュエーターを使ったロボットが職人技を再現できるようにもなるでしょう。(※3)

さらに介護などの現場でも、介護ロボットは力加減をコントロールできるので、被介護者が安心できるサポートができると考えられます。(※4)

 

このように、触覚というセンサーを備えた次世代ゴムを皮膚の代わりにすることで、これまでは難しかった細やかなサポートをするロボットの実現が期待できます。

 

 

次世代ゴムを使うことにより、ソフトアクチュエーターは滑らかに動くようになります。それに加えて、次世代ゴム自体が圧力センサーの役割を持つので、ロボットの皮膚として使用すればこれまで以上に繊細な動きが期待できます。その結果、医療や介護の幅広いサポートや、職人技を必要とする作業もできるようになるでしょう。

 

 

参照資料

※1 「新しいアクチュエータへの期待」 鈴森 康一

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic/77/778/77_778_2412/_pdf

 

※2 「ソフトアクチュエータの材料・構成・応用技術」 新社会システム総合研究所 (2016/11)

https://www.ssk21.co.jp/repo/R_R07S0001.html

 

※3 「“e-Rubber”電気と力で機能する次世代ゴム」 豊田合成

https://www.toyoda-gosei.co.jp/pdf/e_rubber.pdf

 

※4 「次世代ゴムはロボットの皮膚や筋肉になる 感じて動くゴム「e-Rubber」 豊田合成・慶應大が共同開発、ロボデックスで展示へ」 ロボスタ (2019/1/15)

https://robotstart.info/2019/01/15/e-rubber-keio-demo.html