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2019年12月11日

変わる宇宙の常識!?はやぶさ2のミッション、パンスペルミア説とは

2019年12月、JAXAが打ち上げた探査機はやぶさ2は地球帰還に向け、機体を加速するためのイオンエンジンの連続運転を開始、2020年末に帰還を予定しています。(※1) はやぶさ2は2019年7月に小惑星リュウグウに着地し、その地表の岩石をサンプルとして採取しました。(※2) その岩石を調べることで、地球の生命誕生に必要な物質が宇宙から運ばれてきた可能性があると証明されるかもしれません。今回はその生命誕生に関するパンスペルミア説についてご紹介します。

地球の生命の起源は宇宙から?パンスペルミア説とは

地球上の生命はどのようにして誕生したのか、これははるか昔から議論されてきました。そして現在でわかっているのは、地球上で初めて生命が誕生したのは40億年ほど前の海の中であるということです。

 

そして生命を生み出したのはアミノ酸や核酸塩基、糖などの有機物であると考えられています。当時の地球にこれらの有機物が存在し、さらにいかにして結合し生命の元が誕生したのかを科学的に解明しようと多くの科学者によって取り組まれてきました。(※3)

 

しかし、二酸化炭素や水蒸気などが主成分の原始地球の大気の中では、アミノ酸や核酸はほとんど存在できないということが実験によりわかりました。ではこれらの生命誕生に必要な有機物はどのようにしてできたのかという議論が起こります。その中の1つに、地球に落ちた隕石に付着していたのでは、という説があります。(※3

 

これがスウェーデンの物理化学者アレニウスが唱えたパンスペルミア説です。(※3

 

たとえば1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石には、アミノ酸などの有機分子が発見されています。あるいは1986年のハレー彗星の探査においても、この彗星の核には大量の有機物が発見されました。(※3

はやぶさ2が岩石を採取したリュウグウとは

はやぶさが小惑星イトカワを探査し、その表面の物質を持ち帰ったことは記憶に新しいでしょう。それを受けたはやぶさ2が探査目的としたリュウグウとは、どのような小惑星なのでしょうか。

 

イトカワが岩石質を主な材料とするのに対して、リュウグウは表面の岩石の中に有機物などを多く含むとされています。大きさは900メートルほどの、だんごのような形をしていると考えられています。(4)

このリュウグウは炭素を含む化合物である有機物のほかに、水も含んでいると考えられています。この炭素と水は、生命の最も基本的な要素であり原材料です。

 

はやぶさ220186月に1度リュウグウに到達して、観測を行っています。そのデータによると、リュウグウの表面に含水鉱物があることが発見されました。(※58)

 

ただし、これはあくまでもリモートセンシング観測や重力計測といった、いわば間接的な測定によるデータにすぎません。数値的には水や有機物を含んでいることが確認できたわけですが、直接的にそれを確認できているわけではないということです。(※8

 

しかし、20197月にはやぶさ2はイトカワに着陸し、表面のサンプル採取に成功しました。これを持ち帰り、詳しく分析することで計測結果を検証できます。(※8

 

ところで、リュウグウのサンプルを分析することで、なぜパンスペルミア説を検証できるのでしょうか。これはリュウグウと同じような時期に誕生した小惑星が地球に落下したことにより、当時の地球にはあまり存在しなかった有機物がもたらされた可能性があるからです。

リュウグウの岩石からパンスペルミア説が証明できる理由

はやぶさ2が持ち帰るサンプルを分析すれば、リュウグウに水とアミノ酸が存在するか否かを確かめることができます。しかし、これだけで地球の生命誕生は宇宙からもたらされた物質によるものとするパンスペルミア説を証明することになるのでしょうか。

 

リュウグウは46億年前、つまり地球に生命が誕生したとされるより以前の天体から分離した小惑星だと考えられています。(※6) そのリュウグウに生命誕生のために必要なアミノ酸や水などが含まれているとすれば、46億年前にはほかの小惑星にも同様に、そのようなアミノ酸や水などが含まれていた可能性が考えられます。そしてそのような小惑星が地球に落下し、生命誕生のために必要となるアミノ酸などを届けたと考えられるのです。

 

このリュウグウの親となる天体は、火星と木星の間にある小惑星ポラナかオイラリアのいずれかである可能性が高いとされています。(※5、6、7)

 

これはリュウグウと親天体と考えられる小惑星の軌道の整合性を調べ、さらにそれぞれの惑星に含まれる鉱物をリモートセンシング測定により調べることで検証できます。ほかにも親天体と考えられる軌道を持つ小惑星はありましたが、それは含水鉱物の特徴を持たないことが測定結果で得られていたのです。(※7)

 

そしてこのリュウグウの親天体と考えられているポラナもオイラリアも、ともに地球へ多くの破片を供給しています。ポラナもオイラリアも45億年ほど前に形成され、14億年あるいは8億年ほど前に別の天体と衝突した際にリュウグウが形成されたと考えられています。(※5、6、7)

 

つまりリュウグウから採取したサンプルを分析することによって、この親天体であるポラナあるいはオイラリアから地球に降り注いだ破片から生命誕生に必要なアミノ酸などがもたらされた、と立証されたならばパンスペルミア説が成り立つことになります。

 

 

はやぶさ2はすでに地球への帰還を開始しています。約8億キロの距離を1年ほどかけて、地球に戻ってくる予定です。(※1、8) その採取した物質を調べることで、太陽系の成り立ちや生命誕生のパンスペルミア説を立証することになるかもしれません。

 

 

参照資料

※1 「はやぶさ2、帰還へ加速 主力エンジンを噴射」

日本経済新聞 (2019/12/3)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52884950T01C19A2CR0000/

 

※2 「はやぶさ2は小惑星リュウグウへの2回目の着地に成功」

TechCrunch (2019/7/12)

https://jp.techcrunch.com/2019/07/12/2019-07-11-hayabusa2-lands-on-an-asteroid-and-sends-back-amazing-pictures-to-prove-it/

 

※3 「生命の起源」

岐阜大学教育学部地学教室 (2002)

http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/Rika-B/htmls/origin_of_life/index.html

 

※4_「小惑星Ryuguとは?JAXAはやぶさ2プロジェクト」

JAXA

http://www.hayabusa2.jaxa.jp/mission/ju3/

 

※5 「リュウグウにはやはり水があった」

AstroArts (2019/3/26)

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10555_ryugu

 

※6 「小惑星リュウグウに太古の「水」 はやぶさ2が発見」

朝日新聞DIGITAL (2019/3/20)

https://asahi.com/amp/articles/ASM3J675HM3JULBJ00V.html

 

※7 「リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化」

宇宙科学研究所 (2019/3/20)

http://www.isas.jaxa.jp/topics/002089.html

 

※8 「「はやぶさ2」ミッションスケジュール暫定版 JAXAはやぶさ2プロジェクト」

JAXA (2019/11/13)

http://www.hayabusa2.jaxa.jp/news/schedule/