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2018年10月15日

【てら先生コラム】第8回:合否を分ける力とは

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「合否を分ける力とは」。

◇合格・不合格は紙一重

 

 入学試験においては合格者と不合格者とが明確に分かれてしまいますが、「入学試験をもう一度やると合格者の約半数が入れ替わることもある」とも言われています。実際、合格ライン付近には多くの受験生が集中しています。

 例えば、関西大学商学部の2018年度入学試験では7057人の受験者の中で、合格最低点プラス10点以内の合格者は293人で、合格最低点マイナス10点以内の不合格者が406人にものぼりました。さらに細かく見ると、合格最低点での合格者が41人に対して、文字通りわずか1点差で涙をのんだ受験生が37人もいました。*¹ 

このような合否ボーダーライン付近の合格者と不合格者の力の差異はほんのわずかであると言えるでしょう。

◇合格するには「知力」「気力」「体力」が必要

 

 実は、入学試験は「学力」だけでは合格できません。問題を解く力(「学力」)があっても、正解を正しく解答欄やマークシートに記入していく力や時間配分といった「得点力」の面での差異が合否を分けてしまうこともあるでしょう。

このような「学力」や「得点力」といった「知力」の面だけではなく、試験日当日の受験生の体調(「体力」の面)や精神状態(「気力」の面)によっても、受験生が最高の力を発揮できるかどうかを左右するのです。

ですから、合格には「知力」だけではなく、「気力」も「体力」も必要な要素なのではないかと考えています。

◇最後は「気力」の闘い

 

 実は、この「気力」の勝負は既に始まっているのです。受験生にとって天王山と言われる夏休みが終わり、夏休みの学習の成果が問われる模擬試験の結果も次々に返却されてくる時期になりました。

 これからのこの時期 「勉強に手がつかない」「自信をなくした」「合格できるのかどうか不安」「このままでは不合格になってしまうのでは」「夏にもっと頑張っていれば良かった」「学校の先生の教え方がもっと自分にあう教え方だったら良かったのに」「もっと早くから受験勉強を始めていれば良かった」「この問題集が悪いから成績が上がらないのかもしれない」と後悔したり、不安に思ったり、焦ったり、諦めたりといった様々な感情と闘っていくことになります。

 

 しかし、過ぎ去った時間を悔やんだり、無い物ねだりをしたりしても何も改善はされません。上記のようなマイナスの感情は、結局のところ、受験生自身が不安に思う要素を一つ一つ消していくような努力をすることでしか、解消されないのではないでしょうか。

 受験勉強においては、適切な方法で努力をすれば努力しただけ「学力」(問題を解く力)は必ずつきます。たとえば、「日々目標を持って自己の学習を振り返る」、「すらすら解けるかを確認をする」、「弱点やニガテ克服に時間をかける」、「問題の解き直しをして反復演習をする」、「単語や漢字を暗記する」、「なぜその答えになるのか根拠が言えるようになるまで考えてわからない問題は先生に質問しに行く」、などの方法です。子どもによってそれぞれ優先順位は異なるものの、志望校の合格を目指して受験勉強に取り組みます。塾や学校の先生は優先順位をつけたり、学習配分の目安を提示したり、日々の目標・週や月の目標を指し示したりすることで、取り組みやすくしたり、励ましたりすることはできますが、気持ちを奮い立たせて実際に勉強に取り組むのは子ども自身です。

 

 では、実際に子どもが受験勉強に取り組む原動力は何なのでしょうか。それは「絶対に合格したい」という子ども自身の気持ちだと思います。

「どうしても合格したい」という子どもの強い気持ちがまずあってこそ、不安や諦めや焦りといった負の感情に打ち勝って、コツコツと集中して勉強する原動力になり、それが入試問題で合格点をとれる学力のアップにつながるのではないでしょうか。

 そして、学力の上昇(「知力」の上昇)によって、合格したい学校の合格最低点との距離が近付いてくると、まるで山頂が見えてきた登山者が急速に元気になるように「よし、もっと頑張ってやるぞ」と子どもたちの「気力」がみなぎってくるように思います。このように「気力」と「知力」は無関係ではないのです。

◇「体力」が備わっていないと起きるリスク

 

 「体力」面ではどうでしょうか。教室で本番と同じ時間帯で入学試験のプレテストを行うと、次に挙げるような子どもが毎年います。「さっき起きたばかりで、頭が十分働きませんでした」「朝ごはんを食べてこなかったので、馬力が出ませんでした。」「カゼ薬を飲んでいたので、頭がボーッとしてしまいました。」

 

 このような子どもの場合は、いくら「知力」が高くても、本番ではその「知力」を存分に発揮することができません。ですから、一見、入学試験に関係ないと思われる「体力」面も、合否を分ける要素なのだと言えます。

◇保護者が出来ることは何か

 

 このように、「学力」だけでは合格できません。「気力」も「体力」も必要です。ですから是非、保護者の皆様のバックアップをお願いしたいのです。

 

 気力の面では、保護者がかけた「頑張っているね」という声掛けが、ある子どもにとっては「口うるさい」「保護者の期待が重荷になる」と感じることがあり、別の子どもにとっては「応援してくれて心強い」「一緒に受験に向かっている感じがして嬉しかった」と感じることもあります。

これは、子どものパーソナリティによって異なってきます。ある子どもにはプラスに働く声掛けが、別の子どもには裏目にでることがあるという経験は、二人以上の子どもをお持ちの保護者でしたら一度はあるのではないでしょうか。気持ちをプラスに変える言葉を見つけるのは、子どもにとって身近な存在である保護者でもなかなか難しいものです。反応をみながら、子どもが前向きになるうえで効果的な言葉を探していきましょう。

 

 一方で、子どもに投げかけてはいけない言葉というものはあるのです。「このままだと失敗すると思う」「○○クンはもっとがんばっている」などと、ネガティブなメッセージを送り続けると、それが子どもに刷り込まれて自信を失ってしまいます。*² 親子喧嘩になることや子どもを叱ったり注意したりしなければならないこともあるかもしれませんが、その時に、子どもがマイナスに受け取ってしまいそうな表現は控えていただきたいと思います。毎日毎日そう言い聞かせていくと、予言のように本当にその通りになってしまうことがあります。精神的に不安定になっている受験生は多いので、暗示にかかりやすいのです。

 体力面では、保護者のご支援を最もお願いしたい部分です。

ここは、3点あります。睡眠の確保、食事、うがい手洗いも含めた感染症予防の3点です。体力が下がってくると気分も滅入ります。まして、風邪やインフルエンザにかかってしまっては、勉強の計画が狂ってしまうだけではなく、勉強の遅れを心配するあまり余計なマイナスイメージばかりが浮かんでしまいます。しっかりと食べさせ、生活習慣を整え、熟睡させるのも大切な受験対策の一部です。生活習慣と食事面でのご家庭での応援を心からお願いしたいと思います。

 知力・気力・体力の限りを尽くして、「絶対に合格するぞ」と信じて、不安なことがあるならばそれに対してひとつずつ消し込んで、受験の日を迎え、悔いのない実りのある受験を経験してもらいたいと思います。真剣に志望校合格を思い、自分を信じて絶対にあきらめずに、最高の努力をした子どもは、結果にかかわらず、受験を通して一回り成長した姿を見せてくれます。そんな姿を楽しみに、子どもを支えていこうではありませんか。

*¹ 関西大学入試ガイド2019年度:http://www.nyusi.kansai-u.ac.jp/admission/pdf/kandai_guide2019.pdf

*² 受験生の意欲にブレーキをかける、5つの保護者タイプ(ベネッセ教育情報サイト)

  https://www.benesse.jp/juken/201604/20160406-1.html

 

 

 

 

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。