PICK UP

PICK UP 一覧に戻る

2019年05月15日

【てら先生コラム】第15回:模擬試験をためらう子ども

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は『模擬試験をためらう子ども』についてお届けします。

 中学受験・高校受験・大学受験を問わず、受験を目指す子どもにとって、模擬試験の受験は必須であると言われています。しかし、模擬試験の受験をためらう子どももかなりの割合存在します。

 

 そこで今回は、模擬試験の受験をためらう子どもからよく出てくる言い分と、模擬試験を受験する必要性について考えてみたいと思います。子どもに模擬試験の受験を促す参考にしていただければと思います。

【1】今の時点で模擬試験を受けても意味がない

 

「受験勉強を始めたばかりだから」

「まだ基礎的なことも勉強できていないし、今模擬試験を受けたところで良い結果はでないから無駄だ」

 

は、特に春先や受験学年以下の子どもから聞かれます。

 受験勉強が進んでいない時点で模擬試験を受けた場合、良い成績や合格可能性判定が出る可能性は確かに高くはないと思います。しかし、模擬試験を受験することで、今の実力を知ることができます。

「模擬試験の試験範囲の学習が終わっていない」ということは、周囲の受験生に比べて学習が遅れているというアラートです。入学試験は、その学校に出願した全ての受験生が同一日に受験することが一般的です。受験準備学習が順調な受験生でも、そうではない受験生でも入学試験日は同じです。ですから入学試験まであと1年の場合、「あと1年」という条件は、他の同学年の受験生と同じなのです。その同学年の受験生と比較して、自分の学習が進んでいるのか、遅れているのかを模擬試験を受験することで知ることができます。その上で、今後の伸びしろがどこにあるのかを模擬試験は指し示してくれます。「基礎が身についてから模擬試験を受けたい」気持ちはわかりますが、「基礎が身についているかどうか」を調べ、「基礎が身についていないところはどこか」を明らかにするのが模擬試験なのです。模擬試験の結果により、志望校の合格有望圏に入るには、あと何点伸ばせばいいのか、どの科目で伸ばしていくかの作戦を立てることができます。

 

 このように、模擬試験を受けることで志望校合格までの最短距離を走るには今の成績から、何を強化したら良いのか、何を優先的に強化したらよいのかがわかるのですから、受験勉強のスタートが遅かった子どもほど、積極的に受験した方が良いのです。

【2】模擬試験結果が悪いと、やる気がなくなる

 

「成績が悪いとジョックを受けてしまい、勉強へのモチベーションが低下するから」

「自分が理想とする成績がとれると思えないから」

 

という子どもは多いようです。もし、自分が理想とする成績がとれることが確実だとしたら、模擬試験の実施日が待ち遠しくて仕方ないことでしょうが、そのような状態の子どもの方が少数派です。そして、自分なりに頑張っているのに、志望校の合格可能性の判定が低ければ、現在の成績と志望校との距離の大きさを目の当たりにしてしまうことになり、落胆することもあるでしょう。

 

 しかし、それは直視しなければいけない現実です。自分の主観(頑張っている)ではない、客観的なデータはやはり必要なのです。厳しい現実を直視する最初の機会が入学試験本番であってはいけません。厳しい現実こそ入学試験「本番前」に知っておく必要があります。

 

 そして、「本番前」の出来るだけ早い時期に知っておいた方が、これからの学習の内容やペースを修正しやすくなるのは言うまでもありません。成績が振るわなかったり、志望校の合格可能性が低かったりしたということは、今のままの学習では目標を達成できないというアラートが発せられたと言うことなのです。ですから、現実を受け入れて、反省をし、志望校合格に向けてどうやって勉強計画を修正していくかが重要になります。志望校の合否を決めるのは、入学試験「本番」での成績であり、模擬試験の成績ではありません。ですから、入学試験本番までの日数が多ければ多いほど、修正できる可能性が高くなりますので、模擬試験は早期から受験しておいた方が良いのです。

【3】模擬試験を受験する時間がもったいない

 

「模擬試験を受けると丸一日つぶれてしまうし、だったら自分に必要な勉強をしたい…」

 

と言う子どももいます。特に大学受験の模擬試験ですと、受験パターンによっては朝から夕方までかかります。

その後帰宅してから、自己採点・復習までやると、せっかくの休日が丸一日潰れてしまいます。

 

 しかし、「自分に必要な勉強は何なのか」「自分に必要な勉強の学習成果が出ているのか」を知ることができる最も有効な手段が模擬試験を受験することなのです。

 

 また、模擬試験会場という普段と異なる環境で、大勢が集まった中で普段通りの精神状態で問題を解く、入学試験本番の予行演習の機会でもあります。ぶっつけ本番で入学試験に挑むと、会場の空気に飲まれてせっかく養った学力を出し切れないこともあります。入学試験当日の精神状態は不安定になりがちです。そのような精神状態でもインプットされた正答や解き方を、いつでもどこでも正確に迷わずアウトプットできたり、制限時間内にマークミスなどをせずに正しく解答が出来たかどうかといった「得点力」*¹ の状態を確認したりすることができるのも、模擬試験を受験するメリットなのです。

【4】模擬試験の合格可能性判定はあてにならない

 

「A判定だったのに不合格になってしまった」

「E判定だったが合格した」

 

という事例があるのは確かです。A判定であっても、模試受験後に油断して合格するための努力を怠ってしまったり、入学試験本番でマークミスをしてしまうなど大きな失敗をしてしまったりすれば不合格となってしまうことがあります。また、倍率の急激なアップや入試科目の配点・入試科目の変更といった要因によって前年度と入試環境が異なる場合もあります。ですから、模擬試験の合格可能性判定は100%確実ではありません。

 

 しかし、模擬試験の合格可能性判定基準は前年度の入学試験後の合否追跡調査を元にして定められています。2018年度高校3年生の進研模試(6月実施マーク模試)の受験者数は約44.8万人*²でしたが、これは実際の2019年のセンター試験受験者数54.6万人*³と比較すると約82%の規模にあたるのです。模擬試験受験者の入学試験後の合否追跡調査を行った結果で設定されている合格可能性判定基準の精度は高いと言えます。

 

 合格可能性80%(A判定)とは模擬試験を受験した時点で同じ成績だった受験生10人が同じような努力をした場合、8人が合格するという目安を示したもので、10回受験したら8回合格するという目安ではありません。A判定が出れば「油断せずに、このまま頑張れ!」、判定が悪ければ「このままでは厳しいゾ」というメッセージなのです。

 

 また、「今入学試験を実施したらどのような結果になるか」「今入学試験を実施したらどのような学校に合格することが可能なのか」を把握する目安となります。これは、併願校を選ぶ際にも役立てることができます学校説明会やオープンキャンパスは春から秋にかけて開催されますが、中には年に1回しか開催しない学校もあります。第一志望校だけではなく、第二・第三志望校や安全校も含めて幅広く受験校を検討するには、早期から模擬試験を受験しておけば、計画的に学校説明会やオープンキャンパスに参加することができます。

【5】お金がかかる

 

 模擬試験の受験料も1回5,000円前後かかり、往復の交通費も合わせると、その金額は安くはありません。費用をかけて模擬試験を受験しても成績が上がらなければ、模擬試験の受験料は高いと言えるでしょう。

 

 確かに模擬試験は受験するだけでは、成績は上がりません。健康診断を何回受けても受診するだけでは、健康状態が良化しないのと同じです。しかし、模擬試験を受験する前や模擬試験を受験した後で、これまで述べてきたように、志望校との距離をはかったり、今の成績から、何を強化したら良いのか、何を優先的に強化したら良いのかを把握したりすることで、その後の学習内容を点検・見直しすることができれば、志望校合格に向けた効率的な学習ができるでしょう。

 

 また、模擬試験を受けることで、他の学習費用を無駄にする可能性を低下させることができます。模擬試験を受験することで現状の学力レベルがわかるということは、現状の学力にあっていない教材を購入してしまう危険性を低下させることができますし、模擬試験を受験していれば、出願予定の学校との距離をはかることができますので、併願校の見直しや追加をして、受験した全ての学校に不合格となってしまうリスクも軽減できます。このようにみていくと、模擬試験を受けることで「もっとお金がかかる」「これまでかけてきたお金が無駄になる」危険性を低下させることができます。

 

 このように、模擬試験を受けたくないと言う子どもの言い訳は全く根拠のないものではありませんが、模擬試験を受けることにより得られるメリットは大きく、模擬試験を受験しないことによるデメリットは沢山あることがわかります。

 

保護者にできることは何か

 

 では、保護者ができることは何でしょうか。模擬試験を受験する前にしておくべきことが以下の(1)(2)です。

 

(1)定期的に模擬試験を受験する計画を立てる

 

 模擬試験の実施日を知らない子どもや保護者は案外多いものです。「模擬試験実施日が近くなって予定が入っていなければ模擬試験を申し込む」のではなく、春の段階から「○月△日は模擬試験の日」と予定表に書き込ませるなどして、模擬試験を受ける日を子どもと確認しながら決めておくことをお勧めします。多くの模擬試験業者が既に、模擬試験の年間実施日程を発表しています。

 

 模擬試験は健康診断のようなものなので、定期的に受験するのが理想です。(開催されていれば)月に1回のペースで同じ業者の模擬試験を受験するのが理想です。模擬試験によって出題傾向や難易度、模擬試験を受ける人の母集団などの差は少なからずあります。ですから違う業者の模擬試験では、成績の変化を確認できないのです。

(2)模擬試験を軸にした学習計画になっているのかを確認する

 

 定期的に模擬試験を受験する予定が立っていれば、「次の模擬試験までの目標」や「□月の模擬試験までの目標」といった中間目標(Plan)を立てることができます。そのような目標を立てることができてはじめて、「○月は△と▽を克服するための勉強をする。そのために問題集の標準問題をすらすら解けるようにする」といった具体的な学習内容(Do)が決まってきます。保護者が計画を立てたり、学習内容を決めたりしなければならないということではありません。学校や塾での指導が模擬試験を軸とした学習予定と指導になっているのかどうかを個別面談の際に確認しておくことが重要なのです。もし、学校や塾なの対応で不安な点があった場合は、「子どもの学習計画の相談にのってあげてください」と依頼しておくと良いでしょう。

模擬試験を受験して、結果が返ってきた後にすべき点は以下です。

 

偏差値や志望校合格可能性判定に一喜一憂しない

 

 模擬試験の結果帳票が返却されると、どうしても得点や偏差値、志望校の合格可能性判定に目が行きがちです。結果が思わしくないと、つい「ちゃんと勉強しているの?」「もっと勉強しなさい」「このままでは不合格になってしまう」などと口にしがちです。ここまでお読みいただいた方は模擬試験を受験する目的をご理解いただけたでしょう。模擬試験は「結果」をみるためだけに受験するのではないのですから、模擬試験の「結果」に一喜一憂することはないはずです。子どもの受験を心配する保護者の心情を慮ると理解できますが、本来真っ先に注目しなければならないのは、得点や偏差値、志望校の合格可能性判定ではなく、「次の模擬試験までの目標」が達成できたかどうかや、「〇〇と□□を克服する」ために勉強してきたことが、正解できたかどうかなのです。学習結果を確認(Check)することで、次の模擬試験に向けて修正すべき点がみつかり、何をすべきか(Action)が見えてきます。このようなCheckやActionも、保護者が行わなければならないということではありません。学校や塾で行われているのかどうかを個別面談の際に確認しておくことが重要です。

 

 先に述べたとおり、模擬試験は受験するだけでは、成績は上がりません。模試を軸としたPDCAサイクルを回すことが、合格に近付くために必要なことなのです。

仕事柄多くの高校の先生に話しを伺う機会がありますが、大学入試で合格実績を近年着実に伸ばしている高校の多くは、この模擬試験を軸にした指導体制が整っており、特に模擬試験の結果が出てからのフィードバックが丁寧な学校が多いように思います。

 

 

 

*¹ 得点力については、【てら先生コラム】第3回:『ケアレスミス』というミス を参照してください。

*² 進研模試 高校3年生 2018年6月進研マーク模試 成績概況より

*³ 平成31年度大学入試センター試験実施結果の概要

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。