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2019年06月17日

【てら先生コラム】第16回:「結果期待」と「効力期待」

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「結果期待」と「効力期待」についてお届けします。

 多くの保護者は、「頑張って!」「あなたはやればきっとできる!」と、子どもの力を信じ、応援する気持ちで子どもに接していると思います。しかし、保護者の中には、願い通りに子どもが動いてくれないと悩まれる方も少なからずいらっしゃると思います。今回は、そんな保護者のヒントになる考え方をご紹介します。

◇「自己効力感」

 

 カナダの心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、人が行動を起こす際に大きな影響を及ぼす要素に「自己効力感」があると提唱しました。自分ならば「きっとできる!」と思っていれば、行動を起こしますが、「どうせできない!」と感じていれば、なかなか行動には移れないものです。「自己効力感」は、ある行動を起こす前に「自分にはこれだったらできるのではないか」「やればできる」「なんとかできそうだ」と思う気持ちのことなのです。

 「自己効力感」は、目標を実現するために必要な行動を起こすひとつのきっかけになります。これは学習においても同様なのです。

 「自己効力感」が高い子どもは、困難な問題に直面した時でも「自分ならなんとかなりそう」「きっと自分ならできる」というように、自分を信頼し、モチベーションを上げ、行動に移すことができます。そうすると、目標を達成する可能性が高まりますので、「自己効力感」がさらに強まります。

 

 一方、「自己効力感」の低い子どもは、問題に直面した時に、「自分になんかできるわけがない」「きっと失敗する」と感じてしまいます。うまくいく自分を想像することができないため、どうしても問題に立ち向かう気持ちが湧かず、行動も後回しにしてしまったり、行動を始めても些細な困難に直面すると、「やっぱり自分にはだめだ」と、すぐに諦めてしまったりします。

「激動社会の中の自己効力」金子書房(アルバート・バンデューラ 編,本明寛, 野口京子 監訳)を元に東京個別指導学院が作成

◇「結果期待」と「効力期待」

 

 ところで、バンデューラは人を行動に駆り立てる動機を「結果期待(Outcome expectation)」「効力期待(Efficacy expectation)」の2つに分類しています。「結果期待」とは、こういう行動をしたらこういう結果になるだろうという予測で、「効力期待」とはその目的を達成するための行動を自分ならうまくできるだろうという予測です。前述の「自己効力感」とは「効力期待」のことを指します。

 

 「αという問題集をマスターしたら、きっと良い成績がとれる」という「結果期待」があったとします。「よし、それならできそうだからやってみよう」と子どもが思えば、しめたものです。この時、「結果期待」も高く、子ども自身も「自分ならできそうだ」と「効力期待」をもっているわけですから、実際に問題集に取り組むことができて、その結果、学習成果が見込めます。「自分なら、成功するまで頑張れる」と思える状態が「効力期待」のある状態なのです。「結果期待」と「効力期待」の両方がそろうことで、実際の行動に結びつくのです。(図のⒶの状態)

 

 しかし、子どもが「そんな難しいα問題集なんか自分には出来るはずがない」と感じていれば(「効力期待」が低い状態)、α問題集での学習をやりさえすれば素晴らしい成績がとれるとわかっていても(「結果期待」が高い状態)、なかなか実際にα問題集に取り組んでくれません。この場合は、せっかく良い結果が期待できるのに、それができないのは自分に能力がないからだと考え、劣等感に陥ったりしがちになります。(図のⒷの状態)

 

 一方、「自分は頑張れると思っている(「効力期待」が高い)」にもかかわらず、実際の行動に移れなかったり、真剣にとり組もうとしなかったりする子どももいます。頑張っていても成功に結びつくかは分からない(「結果期待」が低い)と感じている状態の子どもです。例えば、子どもが「αという問題集を解くのは自分にとって難しくはないと思うけれど、α問題集が出来るようになっても、試験で良い点数がとれるようには思えない」といった場合です。このような場合、うまくいかないのは「指導する先生が悪いからだ」とか、「α問題集なんて悪い問題集だ」などと考え、不満や不信感をもったりしがちになります。(図のⒸの状態)

 

 また、そもそもα問題集を頑張ってマスターすることで成績が上がるという「結果期待」も低く、問題集に取り組み続ける「効力期待」も低い子どもはどうでしょうか。この場合が、最も深刻な無気力の状態にあるといえます。(図のⒹの状態)

◇「効力期待」を高めるために

 バンデューラは「効力期待」を上げる4つの情報を示しています。

  ㋐成功経験:自分自身が何かを達成したり、成功したりした経験

  ㋑代理経験:自分以外の他人が何かを達成したり成功したりすることを観察すること

  ㋒言語的説得:自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし

  ㋓生理的情緒的高揚:気持ちの切り替え。音楽を聴いてテンションを高めるようなこと

 

 ㋐の成功経験は、先週も先々週も英単語を150個覚えることができた(という成功体験がある)から今週も自分は150個覚えることができるだろうといったもので、㋐~㋓で最強といわれています。東京個別・関西個別では個々の生徒のできるところまで戻って学習したり、スモールステップ式で学習したりしますが、これも生徒にひとりひとりが「できた」という成功体験を得る機会が多くなるようにするためです。

 

 ㋑の代理経験は、例えば「同じくらいの成績の他の生徒でも出来た」という達成を観察することで、「だから、自分にもできるだろう」ということです。同じ部活の上級生・先輩の成績や進路実績を下級生・後輩に紹介することは有効であると多くの高校の先生はおっしゃいます。東京個別・関西個別では各教室内での事例の紹介だけではなく、例えば、「6月の模擬試験で偏差値45以上50未満だった生徒でもセンター試験で○%の生徒が8割以上得点できている」といった他教室の事例やデータの紹介によって、「自分にもできそうだ」と感じるようなきっかけを作っています。

 

 ㋒の言語的説得は、信頼するコーチや先生などからの励ましやアドバイスです。信頼や尊敬する人から背中を押されるという事です。東京個別でも、数学が大変苦手だった生徒が、「あなたなら、今から頑張れば最難関大学でも狙えるよ」と信頼する先生から言われたことがきっかけで、合格するための努力を始めて、本当に最難関国立大学(理系)に現役合格してしまった生徒がいました。東京個別・関西個別で担当講師制をとっているのは、この言語的説得の効果を高めるためでもあります。

 

 ㋓の生理的情緒的高揚は、一言でいうとワクワクする感情です。憧れの学校のオープンキャンパスや学校見学に参加することで、模擬講義に感銘をうけたり、学生の様子をみて気分が高揚したりして、自分にもできそうな気持ちになるということです。東京個別・関西個別でも、積極的なオープンキャンパスや学校説明会への参加を生徒に働きかけています。また、必要な生徒に面接練習を行っていますが、面接が苦手な生徒が面接練習を通して、どもったり赤面したりしなくなったような経験も、「効力期待」を高めるのです。

 

◇「結果期待」を高めるために

 

 「結果期待」を高めるために、東京個別・関西個別では、学院の知見や指導経験・ノウハウを元に成果につながる個人別のカリキュラム(学習スケジュールや練習メニュー)を担当講師が作成しています。客観的に「このカリキュラム通りに頑張れば、成果に結びつく」というような、「結果期待」を持てる状況を整えているのです。

 

 このカリキュラムは、担当講師が子どもと話し合いながら、目標とする得点や志望校、子どものやりたいことや強みや弱みを考慮しながら作成します。「この期間は部活の試合があるから学習内容は軽くするけれど、ここからは追い込みをかけていくね」というように、子どもと一緒に、スケジュールや学習メニューをカスタマイズすることにより、子どもの納得度が高まるのです。子どもが「なるほど」と思わなくては、“その子どもの”「結果期待」にはならなのです。せっかく客観的には「結果期待」を持てる妥当なカリキュラムであっても、子どもが納得しなければ「結果期待」が高まらず、やらされ感が高まることにもなりかねません。

 

 こうして出来上がったカリキュラムを、子どもや保護者に説明し、納得してもらうことで、「結果期待」が高まるのです。

 

◇ご家庭での注意点

 

 「効力期待」を高めるために、ご家庭でお願いしたいことがあります。上掲の㋐の成功経験は、子どもがうまくいった時の経験を保護者が覚えていれば、その経験を子どもに話して、成功経験を思い出してもらうことができるのです。

 

 「効力期待」の低い子どもの中には、自分がうまくいった経験を忘れてしまったり、思い出せないでいたりする子どもは案外多いのです。「以前よりも伸びていること」「以前できなかったことができるようになった」「先週できたことが今週も忘れずにできていた」など、一見すると「出来てあたりまえ」と思うようなことでも、声をかけるように心がけると良いでしょう。

 

 忙しいと、つい「この通りにやればいいのよ」と、説明を省きがちになってしまいますが、「何をどう頑張れば成果が出るのか」「何故そうなのか」という客観的に妥当な学習内容を子どもに丁寧に説明して納得してもらうことが、「結果期待」を高めるポイントになります。ですから、子どもが心から納得していないようであれば、その状況を学校や塾の先生に伝えていただくことも、ご家庭にお願いしたい点です。

 

 一方、㋑の代理経験は、子どもへの伝え方によっては、子どもに「他人との比較」と受け止められかねませんので、保護者が話をするときには伝え方に注意が必要です。「お兄ちゃんだって出来たのだから、あなたにだって出来るでしょう」と保護者に言われると「お兄ちゃんと比べて欲しくない」と感じてしまう子どももいることでしょう。

 

 また、㋒の言語的説得は、「どのような人から説得されるのか」によって、「効力期待」の高まりは左右されると言えます。ピアノを習っている子どもが、有名なピアニストから「あなたはピアノのセンスがある」と言われれば言語的説得効果は極めて大きいと言えますが、サッカーの選手から「あなたはピアノのセンスがある」と言われても、言語的説得効果は小さいと言えましょう。ですから、保護者と子どもの間に、信頼関係があったとしても、学習面においては学習面で保護者が子どもに信頼されているかどうか」によるのです。このように、言語的説得が全ての保護者にとって可能であるとは言い切れません。

 

 また、「客観的に妥当な学習内容」を子どもに提示して丁寧に説明して納得感を得ることで、「結果期待」を高めるというプロセスも、難しいと感じる保護者が多いのではないかと思います。

ですから、子どもにとっても、保護者にとっても信頼できる相談先を確保しておき、その相談先との情報交換や情報共有を緊密に行うことをお勧めします。

実は、ご家庭でのサポートをお願いしたいことは、別にあります。それは項を改めてご紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

 

「自己効力感(Self-efficacy)」という概念が登場したのは、1977年、“Psychological Review” (American Psychological Association)誌に掲載された“Self-efficacy:Toward a unifying theory of behavioral change”という題の論文です。

 

「スモールステップ」指導法

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=554

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。