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2018年06月01日

【教育改革】第4回:新学習指導要領について① 小学生の英語の改革はもう始まっている

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第4回目は「新学習指導要領」について

 2017年3月31日の幼稚園・小学校・中学校の学習指導要領等の改訂告示に続き、2018年の3月30日に高等学校の学習指導要領の改訂が文部科学省から告示されました。*¹  

学習指導要領は、文部科学省が学校教育法などに基づいて定めた学校教育の基準となるもので、全国どの地域で教育を受けても子どもたちが一定の教育を得られるようにするために定められています。そして、教科ごとの目標や大まかな教育内容が定められています。

 学習指導要領は、ほぼ10年に1回のペースで改訂されています。そして、今回は、小学校は2020年度、中学校は2021年度から全ての学年で、高校は2022年度から学年進行*² で、新しい学習指導要領が実施される予定になっています。今回の改訂は、これまで以上に変化が大きいと言われています。では、どのように変わるのでしょうか。そのポイントや背景を数回に分けてご紹介したいと思います。

文部科学省「高等学校学習指導要領の改訂のポイント」より

◇教科や科目が新設される

 

 新学習指導要領では、小学5・6年で「外国語(英語)」が正式に教科となり、成績がつくようになります。また、小学3・4年では「外国語活動」が始まります。さらに「プログラミング」は全ての小学生が学ぶことになります。

中学校では、教科の枠組みについては大きな変化はありませんが、例えば英語では《生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。その際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにする》と、示されました。*³  また目標語彙数が現在の1200語から1600〜1800に増え、現在は高校課程で学習している仮定法や原形不定詞などの文法事項も中学内容に加わり学習内容は増加します。

高校では別掲の通り、「論理国語」「公共」「地理総合」「歴史総合」「理数探究」「論理・表現Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」などの科目が新設されます。

 

 安倍首相は2018年5月17日の未来投資会議で、プログラミングなどに関する「情報科目」を国語や英語と並ぶ基礎的科目として大学入試に追加する方針を表明しました。*⁴  新学習指導要領では「情報Ⅰ」が必修科目となりますので、この科目を履修した子ども(2018年度の小学6年生)が受験する2025年1月実施の『大学入学共通テスト』に科目として取り入れられる可能性があります。

◇新学習指導要領の先取りは既に2018年度から始まっている

 

 最初に述べました通り、新習指導要領は、小学校が2020年度、中学校が2021年度から全学年で実施、高校が2022年度の高校1年生から実施される予定になっていますので、しばらく先の話ではないかと感じる保護者もいらっしゃると思います。

 しかし、既に2018年度から新学習指導要領の内容の授業が、実は小学校では始まっているのです。

特に、小学校における外国語(「英語」や「外国語活動」)については、《新学習指導要領の外国語活動(3・4学年)及び外国語科(5・6学年)の内容の一部を加えて必ず取り扱うものとする》とされています。*⁵ このため2018年度から、全ての小学校で3・4年生は最低でも年に15時間の外国語活動、5・6年生は最低でも年に50時間の外国語(英語)を学習しているのです。

 

 公立学校の場合、今までは教科としての「英語」は中学校1年生から一斉に始まりましたが、中学入学後に英語4技能の学習が一気に始まると、子どもの負担が大きくなるので、小学3・4年生で「聞く」「話す」から始め、小学5・6年生では段階的に「読む」「書く」の活動にも取り組んでゆくことで、中学校での英語学習に無理なくつなげていこうというのが、新学習指導要領の意図するところです。*⁶ その先にある大学入試でも「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能をバランスよく評価していこうという流れがあることは、本コラム第3回*⁷ でご紹介した通りです。

新学習指導要領での小学校「英語」において習得する語彙数の目標は5・6年生合わせて600〜700(現行の中学校3年間の語彙数目標は1200)語です。また、疑問詞、代名詞、動名詞、助動詞、動詞の過去形などを含む表現なども学びます。*⁸ 決して少なくはない学習内容ですが、小学生時代から英語にたくさん触れ、英語によるコミュニケーションを体験することで、子どもの「これは英語で何と言うのだろうか」「英語で表現してみたい」という関心や意欲を引き出し、子どもが楽しく、無理なく英語力を身につけることができるようになると、文部科学省は考えています。

◇2018年と2019年度の小学校の「外国語活動」「外国語(英語)」は注意が必要

 

 2018年と2019年度の小学校の「外国語活動」「外国語(英語)」に関しては、小学校間の対応の違いについての注意が必要です。と言いますのも、公立小学校では、Ⓐ新学習指導要領の内容と時間数(3・4年生は年間各35時間、5・6年生は年間各70時間)で学ぶ小学校と、Ⓑ文部科学省が示した最低限度の学習内容と時間数(3・4年生は年間各15時間、5・6年生は年間各50時間)で学ぶ小学校に分かれているのです。

 例えば、2018年度の5年生の場合、29%の公立小学校がⒶ新学習指導要領の内容と時間数(70時間以上)を実施している一方で、63%の公立小学校はⒷ文部科学省が示した最低限度の学習内容と時間数50時間)のみの実施にとどまっています。*⁹  

ですから、例えば現在の小学5年生は、(通っている小学校によっては)中学校入学時に「英語」の学習時間が既に40時間の差がついた状態、つまり英語に触れた時間、英語によるコミュニケーションの体験が大きく異なる状態でスタートするということになります。

 

 通学する小学校によって英語や外国語活動の授業時間数が異なる場合があるのは2018年度の小学校2年生から6年生になります。その学年の子どもの保護者は、子どもの通う学校がどのような対応をしているのかの確認をすることから始めると良いでしょう。

 

 

 

*¹ 29文科初第1784号「高等学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知)」 平成30年3月30日

 

*² 学年進行とは、高等学校における学習指導要領の実施方法です。1年生で新しい学習指導要領が実施されても2・3年生は古い学習指導要領のままで学習します。例えば、2022年度の高校1年生は新学習指導要領で学びますが、2・3年生は現在の学習指導要領で学びます。2022年度の高校1年生が2年生に進級する2023年度は、高校1・2年生が新学習指導要領で学びますが、高校3年生は現行の学習指導要領で学びます。

 

*³  文部科学省 中学校学習指導要領(平成 29 年告示)第 9 節、 第2 各言語の目標及び内容等 英語、 3 指導計画の作成と内容の取扱い(1)―エ   

 

*⁴ 首相官邸HP /総理大臣総理の一日/平成30年5月17日/ 未来投資会議

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201805/17mirai_toshi.html

 

*⁵ 文部科学省 学習指導要領の改訂に伴う移行措置の概要 平成29年7月7日

 

*⁶ 新学習指導要領の外国語科(英語)では、聞くこと・読むこと・話すこと(やりとり)・話すこと(発表)・書くことの5つの領域別に「何ができるようになるか」の目標が定められています。

 

*⁷ 【教育改革】第3回:大学入試制度改革の大きな柱は英語4技能評価

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=397

 

*⁸ 小学校の外国語科(英語)では、「文法事項」として動名詞や過去形を文から取り出して指導することはしません。例えば、好きなものを相手に伝えたいときに、“I like playing tennis.”と 表現することは指導しますが、playing tennis の部分に注目して、動名詞の使い方を理解させ、“Playing tennis is fun.”などの異なる表現の中で活用することを指導するわけではありません。それに対して、中学校の外国語科(英語)では、動名詞や過去形は「文法事項」として扱われ、使い方の理解を深めると同時に、別の場面や異なる表現の中で活用できるように指導することになっています。

 

*⁹ 文部科学省  移行期間中の授業時数調査の結果について(平成30年05月) より