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【てら先生コラム】第6回:なぜ私は勉強しなければならないんでしょうか?
教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「勉強する理由とは?」
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◇なかなか勉強に取りかかろうとしない子ども
夏休みも後半となりました。長期休暇期間外と比べて、在宅している時間が長い子どもも多いと思います。そうすると、テレビの前でぼんやりとしていたり、スマートフォンやゲームに夢中になっていたりする様子を目にする機会も増えてしまい、思わず「いい加減にしなさい!」と口を出したくなる保護者もいることでしょう。夏休みの宿題がまだ終わっていなかったり、夏休み明けに実力テストや定期試験があったりする場合は、なおさらです。一方で、もう「小学生高学年なのだから(中学生なのだから高校生なのだから) いつまでも親がいちいち叱っていては…」と思い悩む気持ちもあるでしょう。
本コラム第1回*¹ では、勉強に取りかかっていない子どもが「勉強しなさい!」と、保護者から言われて勉強することは、「やらされ感」が強く逆効果になりやすいという話を紹介しました。*²
また、学んでいる内容が理解できていない場合も、勉強に手をつけたがらないようになります。ですから、学んでいる内容を子どもが理解できるように支援したり、勉強のやり方を指導したりする工夫を東京個別・関西個別で行っている点にも触れました。
今回は、子どもがなかなか勉強に取りかかれない別の理由について考えてみたいと思います。

◇なぜ私は勉強しなければならないんでしょうか?
インターネットのQ&Aサイトに中学2年生から次のような相談がありました。
「私は、はっきり言って勉強が嫌いです。特に嫌いなのが英語と数学です。一生外国に行くつもりなんかないし、日本では日本語が使えれば生きていけるのに、なぜ使う必要もない外国の言葉を、こんなに一生懸命勉強するのかわかりません。
数学もそうです。買い物をするのに方程式や図形はいりません。なぜxやyを長々と書きまくるのか、全然理解できません。他の科目もいっぱい覚えさせられるので嫌いです。(でも体育や音楽は楽しいから好きです。)
この悩みをお父さんに言っても、ただ勉強しなさいと言うだけです。でも、正月におじさんに聞いたところ、お父さんも中学の時は全然勉強しなかったそうです。なぜ私は勉強しなければならないんでしょうか?」
さて、皆さんならこの相談者にどのようなアドバイスをしますか。
上記は2017年に大阪大学の前期入学試験で出題された問題です。*³
入試問題でも扱われるほど、子どもにとって、「何のために勉強しなければいけないのかわからない」「だから勉強のやる気が出ない」というケースが実は少なくないのでしょう。実際、「学ぶ理由」について書かれた書籍は多数出版されていますし、インターネットで検索しても古今東西様々な回答に溢れています。
保護者にしてみれば「高学年(中学生、高校生) なのだから、勉強するのは当たり前」と思うかもしれませんが、子どもが、「勉強して意味があるの?」という疑問を持っている状態で「勉強しなさい」と言われるだけでは、勉強は苦痛にしかなりません。目的が見えなければ、子どもにとっては「無駄」なものとしか思えないのではないでしょうか。
しかし、このタイプの子どもは、勉強する意味、目的さえ明確になれば、自ら学習に向かうようになるはずなのです。

◇勉強する理由として多かったもの
あるインターネットでの調査*⁴ によると、「なぜ勉強するのか」に対する大人の回答は、
「将来何かの役に立つから」
「生きることは学ぶことだから」
「良い高校、良い大学に行って、それから良い会社に就職するため」
の順に回答が多いようです。
子どもが考える「勉強する理由」をみると、学校段階が上がるにつれ「新しいことを知るのがうれしいから」「問題を解くことがおもしろいから」といった動機で勉強する子どもが徐々に減る反面、「自分の希望する高校や大学に進みたいから」という理由で勉強する子どもが増え、中高生では8割近くとなります。*⁵
保護者も子どもも「合格するため」というのが、勉強する理由のひとつになっていますが、保護者が子どもに与えたいのは、学歴だけでしょうか?
「将来こんな職業に就いて活躍したい」「こういう研究に取り組みたい」「このようなことをして社会に貢献したい」などといった目標を子どもが見つけていけるように、子ども自身の世の中に対する興味・関心のアンテナを大きく広げさせる働きかけをすることも必要です。
テレビやインターネットのニュースや新聞記事などを話題に、子どもが自分の人生を考えるような視点で、視野を広げるような会話を意識して行い、「合格のため」以外の勉強する理由も見つけることができるように、子どもに働きかけをしたいものです。
例えば、京都大学の瀧本哲史先生*⁶ は、子どもたちは、未来と希望の工場である学校で、あたらしい未来をつくっていくための「魔法の基礎」を学んでおり、もっと大きな、もっと輝かしい未来をつくるために、勉強しているのだと記しています。*⁷ 興味がある方は参照してみると良いでしょう。

◇子どもが「勉強する理由」を聞いてきた時こそ、コミュニケーションの好機
「なぜ勉強するのか」という質問が出てきた時こそ、子どもと勉強する意味を一緒に考えるチャンスです。
子どもがこのように問いかけるのは、子どもが発するSOSサインで、勉強が辛いと感じている時が多いように思います。勉強は楽しい、面白いと思っている子どもはこのような質問はしません。
信頼している保護者が「私が高校生の時にはねぇ~」と自分が学生時代に思っていたことや今感じていることをもとに答える内容のほうが、偉人の回答を探して伝えることよりも子どもの心に響くこともあるのでしょう。子どもと顔を合わせる機会の多い夏休み中、子どもと向き合い、勉強をする理由・意味を見つけていく会話を意識してみてはどうでしょうか。
*¹ 【てら先生コラム】第1回:保護者がつい口にしてしまうあの言葉
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=281
*² 命令的な言い方をされると反発心が生まれるのは、心理的リアクタンス(自分の選択的自由が外部から脅かされた時に
生じる、自由を回復しようとする反発作用のこと。 ブレーム(Brehm)により提唱された)と呼ばれ、心理学でも立証
されています。
*³ 「70語程度の英語で相談者へのアドバイスを書きなさい。」という英語の問題。
*⁴ http://www.kachijiten.com/questionnaire/enquete003/
*⁵ 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクト 「子どもの生
活と学びに関する親子調査2015-2016」より
*⁶ 京都大学産官学連携本部イノベーションマネジメントサイエンス研究部門客員准教授
*⁷ 「なんで勉強しなきゃいけないの?」と子供に聞かれたら、こう答えよ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49003
瀧本先生が中学生に向けて行った「『なぜ勉強するのか』と題した講演での最後に以下のようなメッセージを遺しています。
『皆さんはまだ若いから、自分たちの物語を作ることができる。自分で脚本を描いて、自分が主役を演じることができる。どこにでもいる女子中学生で、何者でもないからこそ、何者にもでもなれる可能性を持っている。でも『何者か』になるためには、世の中のみんなが知っていることを知る必要があるし、みんなが知っていることを、違う角度から見られるようになる必要がある。そのためにも、今皆さんが取り組んでいる勉強を、がんばってください。』
~【てら先生】プロフィール~
教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。