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2020年03月16日

【てら先生コラム】第24回:2020年首都圏中学入試とこれからの学校選び

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「2020年首都圏中学入試とこれからの学校選び」についてお届けします。

 2020年の中学入学者選抜が終わりました。森上教育研究所の発表によると、首都圏の中学受験率(公立小学校6年生に占める私立中学受験生の割合)は5年連続増加し、14.3%となりました。また、2月1日の私立中学受験者数は1312人増加しました。2009年以来のことですが、2月1日の私立中学受験者数は1都3件の私立中学募集定員を上回り、中学受験人気が継続していることがわかります。*¹  

 

 

◇難関校・大学付属校の人気

 

 2020年は、いわゆる「難関進学校」の多くで志望者が増加しました。例えば、開成(2019年から2020年で志望者が1231⇒1266人)・駒場東邦(548⇒605)・武蔵(579⇒601)・聖光学院(657⇒746)・桜蔭(529⇒555)・雙葉(375⇒417)・洗足学園(288⇒339)・豊島岡女子学園(1074⇒1096)・浦和明の星女子(2043⇒2098)などです。また、海城(508⇒539)・攻玉社(383⇒453)・巣鴨(508⇒766)・世田谷学園(252⇒356)・城北(366⇒436)といった男子進学校も、志願者が増加しました。これらの男子校は大学合格実績が堅調なだけではなく、グローバル教育に力を入れているという共通点があるように思います。

 

 大学付属校については、大学入試制度改革の不透明感・大規模大学の入学定員の厳格化の影響や高大接続教育の取り組みが評価されたのか、主な大学付属校の志望者数は全体ではやや増加しました。

 

【主な大学付属校の志望者数の変化】

2020年首都圏私立中学校317校 中学校入試結果速報(首都圏模試センター)と、

各校のHPをもとに東京個別指導学院が作成

帰国生入試などの特別入試を除く4科入試(複数ある場合は1回目)の出願数

 また、上表以外で、大学がスーパーグローバル大学に指定されている芝浦工業大学附属は(344⇒448)、東洋大学京北は(229⇒272)と志望者を増やしている点も注目されます。

 

 

◇偏差値で測定できない入試の増加

 

 中学受験に限らず、どの受験においても、これまで世間では偏差値上位校に合格することが良いという風潮があったように感じます。

 しかし、現在の中学受験では学校選びの指標としての偏差値の重要性は絶対的ではなくなりつつあるのです。以前の、「中学入試は4科入試が基本で、一部の学校では2科入試」が行われていた時代では、4科や2科の模擬試験を受験すれば偏差値が出て、合格可能性判定を調べることができましたが、偏差値による合格可能性判定やランキングを出すことができない入試が年々増加しています。

 

 

◇入試の多様化(1科入試・得意科目選択型入試)

 

 いわゆる「難関進学校」や大学付属校の多くは4科で入試を行いますが、今年は「1科入試」や「得意科目選択入試」がさらに広まりました。鎌倉学園・世田谷学園・高輪・巣鴨などの男子校で、従来から算数1科入試は行われてきましたが、今年は、田園調布学園(新設した算数入試で356人)、富士見(算数1教科入試に199人)、湘南白百合学園(算数1教科入試147人)といった女子校などでも多くの志願者を集めました。また、横浜女学院の特別奨学入試のように①国語・算数②国語・算数・理科・社会③英語・国語④英語・算数から1つ選択するような得意科目選択型入試も多くの志願者を集めました。*²

 

 

◇入試の多様化(適性検査型入試・英語選択入試)

 

 また、公立中高一貫校で出題される「適性検査型(思考力型)」入試や、私立中学校の「英語(を選択できる)入試」は、今年も増加しました。*³ 首都圏の私立中学校は約300校ですので、およそ半数の中学校が「適性検査型」入試や「英語選択入試」を実施していることになります。中には、聖学院中学校のように「思考力入試」を2月1日午後は「ものづくり思考力」、2月2日午後は「M型思考力」、2月4日午前は「難関思考力」と観点の異なる3種類の入試として実施するとともに2月1日午前に「英語選抜」を実施した中学校もあります。

 「適性検査型」の入学者選抜は、私立中学校だけではなく、国立中学校でも2020年度入学者選抜から千葉大学教育学部附属が取り入れました。更に、2021年度入学者選抜からは、お茶の水女子大学附属中学校が、現行の4科入試から、思考力・判断力・表現力等を一層重視した教科横断・総合的な学力を見る新しいタイプの入試へと変更することを発表しています。*⁷

2020年首都圏私立中学校317校 中学校入試結果速報(首都圏模試センター)をもとに

東京個別指導学院が作成*²

◇入試の多様化(プログラミング入試)

 

 そして、駒込・大妻嵐山・聖徳学園・相模女子大などに続き、2020年度入学者選抜では八王子実践や聖和学院でも「プログラミング入試」が行われました。

 この中で、八王子実践は、従来の2科・4科入試を廃して、①適性検査型入試 (都立中高一貫校適性検査に準じた作文+総合問題) ②自己表現入試 (事前に記入した「エントリーシート」を基にした発表と面接) ③英語入試(英検3~4 級程度の筆記試験とネイテイブとの面接) ④プログラミング入試(タブレットを使ってプログラミングした作品をプレゼンテーションする) の4種の入試を行っています。*⁴

 

 

◇入試の多様化が中学受験生増加の一因

 

 「中学入試は4科入試が基本で、一部の学校では2科入試が行われる」というのが従来の中学入試でしたが、近年は入試の多様化が進んでいることがわかります。

 従来の「4科入試」を目指して小学校3~4年生から中学受験対策教材で受験準備をしてきた生徒だけではなく、「英語選択入試」「適性検査型入試」「プログラミング入試」など「新しいタイプの入試」の受験生の存在が、中学受験生人数増加の後押しをしていると考えられます。首都圏模試センターでは、「新しいタイプの入試」のうち、「適性検査型入試」や「英語選択入試」の志願者は、のべ15200人にのぼり、昨年よりも(のべ)900人増と集計しています。*⁵ 

 「新しいタイプの入試」の受験生たちは、必ずしも全員が「4科・2科入試」受験生のように小学校の中学年から、中学受験塾に通って受験準備に取り組んできたわけではありません。高学年になってから(中には6年生になってから)中学受験を考えだした子どもも含まれています。このような受験者の増加が、中学受験生の総数を増加させている一因でしょう。

 そして、2020年度の新学習指導要領開始により、プログラミング教育が小学校で必修化され、外国語(英語)が教科化されますので、「プログラミング入試」や「英語選択入試」を実施する学校はさらに増加しそうです。

 

 

◇志望者が増えた学校はどんな学校だったのか

 

 確かに「新しいタイプの入試」が増加していることが、中学受験生の総数を増加させている要因のひとつではありますが、「新しいタイプの入試」を実施した全ての中学校で志望者を増やしているというわけではありません。中には、志望者を減らしている学校もあります。一方、本コラムの前半で触れているように、従来型の「4科入試」を実施している中学校の中にも、志望者を増やしている学校があります。これは、どういうことなのでしょうか。

 個々の中学校の志望者数の増減をみていくと、「選抜のしかた(入試方式)」ではなく、入学した後の教育の中身に共通点があるように思われます。志望者を増やしている学校に共通して言えることは、新しい学習指導要領で示された、「主体的・対話的で深い学び」を既に行っている学校がほとんどだということです。

 「主体的・対話的で深い学び」とは、一方的な講義形式ではなく、生徒たちが校内外の様々な人とコミュニケーションをとりながら、調査学習やグループワーク、討論などを通して主体的、能動的に参加する学びです。「Peer Instruction Lecture(PIL)」、「Project-Based Learning(PBL)」、「Problem-Based Learning(PBL)」、「双方向型授業」、「アクティブ・ラーニング」、「ICT授業」などと呼ばれる新しいスタイルの授業を取り入れながら、自ら問題を発見し、自ら考え、課題解決に向けて行動し、将来にわたって学び続けるような、今後の社会で必要とされる力を育む教育に取り組んでいるのです。*⁸  入学後の教育内容の従来型教育(知識・技能の教え込みが中心となりがち)からの変更や、「主体的・対話的で深い学び」のブラッシュアップに熱心で、それら入学後の教育について学校説明会やHPで分かりやすく伝えることができている学校が、偏差値の高低や入試方法を問わず、志望者を集めています。

 このことから、受験生や保護者が、受験する中学校を選ぶ際に、2科入試・4科入試・新しいタイプの入試といった「選抜のしかた」以上に学校での教育の内容を重視している姿勢がうかがえます。

 

 

◇保護者にできること

 

 中学受験は、高校受験のように同級生のほとんど全員が臨むものではありません。中学受験をしないという選択をして、地域の公立中学校に入学するという選択肢もあります。それにもかかわらず、子どもに中学受験させるという選択をするのは、子どもにとってより良い学校で学んで欲しいという保護者の願いが込められていると思います。

 「子どもに良い教育を与えたい」という願いは保護者が共通して思うことでしょう。そして、子ども達が社会に出ていく頃には、「自ら問題を発見し、自ら考え、課題解決に向けて行動し、将来にわたって学び続けるような力」が現在以上に求められるだろうという予想に異論を唱える保護者も少ないでしょう。しかし、これらの力は偏差値や大学合格者数のように簡単に数値化できるものではありません。

 では、中学受験(受検)をする場合、学校選びは、どのようにしたら良いのでしょうか。

 ご家庭の方針によって基準を決めていただくのが良いのですが、そこには、「子どもにどんな大人になって欲しいのか」「どんな学校ならば、子どもはイキイキと通えそうなのか」といった視点も加えていただきたいと思います。そうすると、子どもを一般の公立中学校に進ませるのではなく、国私立中高一貫校や公立中高一貫校を受験(受検)させようと考えた理由は何なのかが明確になってくるはずです。まず、この視点を、ご家庭で共有することをお勧めします。

 

 次に、子どもや保護者が気になる学校があれば、その中学校のHPを訪れてみることをお勧めします。大学合格実績や部活動・学校行事に関してだけではなく、教育方針や教育内容・シラバスなどにも目を通しておきましょう。そして、意中の学校以外の学校のHPも積極的に訪れることをお勧めします。これまで全く考えてもいなかった意外な学校の魅力に気づくこともあるでしょう。

 そのような学校も含めて、学校説明会や公開授業や体験学習に積極的に参加することをお勧めします。学校を訪れる際には、そこに通う生徒たちがどんな様子か、先生たちの動きはどんな様子なのかをじっくり観察することをお勧めします。そして、そこで子どもがイキイキと過ごしている姿がイメージできたら、その学校は子どもに合った学校の候補だといえます。

 

 現時点の社会情勢では、学校説明会の日程は流動的ですが、同学年の子どもはみな同じ条件です。説明会の日程が決定したらすぐに行動できるように、今のうちに多くの学校のHPなどで下調べをしておくことは、今から保護者ができることです。また、子どものことを保護者とは別の視点からみている塾の先生などに、どのような学校が子どもに向いていそうなのかを尋ねてみるのも良いでしょう。そのような相談先を確保しておくことも、保護者ができることです。

 

 

*¹  入試状況はどう変化したか-私立中学受験状況 森上教育研究所 2020年2月28日

http://www.morigami.co.jp/nv1_pdf/5e589a1fd5989-nv-7600.pdf?1582935950

*² 2020年首都圏私立中学校317校 中学校入試結果速報  首都圏模試センター  (速報値はすべて2020年2月11日時点の数値)

*³ 英語(選択)入試導入校  首都圏模試センター  2020年2月26日

https://www.syutoken-mosi.co.jp/blog/upload/9ca0d74f5029f7426b8957dc62c4045c.pdf

適性検査型入試実施校  首都圏模試センター 入試要項より  2019年12月16日更新

https://www.syutoken-mosi.co.jp/common/pdf/nyushi_joho/nyushi_yoko_kekka/2020_youkou1216.pdf

*⁴

駒込

http://www.komagome.ed.jp/examinee/data/j-application.pdf

大妻嵐山

https://www.otsuma-ranzan.ed.jp/2019/wp-content/uploads/2020_jsby.pdf

聖徳学園

https://www.shotoku.ed.jp/junior/newexam.html

相模女子大

http://www.sagami-wu.ac.jp/chukou/admission/data/chugaku_bosyu.pdf

八王子実践

http://www.hachioji-jissen.ac.jp/junior/exam/admissions/

聖和学院

https://www.seiwagakuin.ed.jp/build/uploads/juniorhigh2020-for-HP.pdf

*⁵ 2020年、首都圏の中学入試はどうなった? 首都圏模試センター

*⁷ 千葉大学教育学部附属中学校

http://www.jr.chiba-u.jp/image/CEE1CFC2A3B2C7AFC5D9C5ACC0ADB8A1BABAA1D6C1EDB9E7CCE4C2EAA1D7.pdf

お茶の水女子大学附属中学校

http://www.fz.ocha.ac.jp/ft/menu/events/d001957.html

*⁸

「Peer Instruction Lecture(PIL)」講義に学生同士の議論を組み込んだアクティブ・ラーニング型授業の一つ

「Project-Based Learning(PBL)」別名「課題解決型学習」とも呼ばれ、知識の暗記などのような生徒が受動的な学習ではなく、自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とした教育

「Problem-Based Learning(PBL)」答えが一つに決められていない問題を解決する経験を通し、科目について学ぶ学習法

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~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。