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2019年01月15日

【てら先生コラム】第11回:大学一般入試の多様化

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は『大学一般入試の多様化』ついてお届けします。

本記事の掲載内容は、本記事執筆時点の情報に基づいています。

ご留意の程よろしくお願い申し上げます。

 

 

 新年を迎えると、2019年度大学入学者選抜試験(一般入試)もいよいよ始まります。一部の大学では2018年12月から出願の受付を開始します。*¹

 

 ご存じの通り、少子化の影響で1990年代前半以降は18歳人口が年々減少しています*²。このため、優秀な受験生を確保したい私立大学では入学者選抜に関して様々な取り組みを行ってきています。

その結果、大学入試は保護者が経験した大学入試とは、大きく変わっています。今回は、この点についてご紹介したいと思います。

◆近畿大学の一般入試

 

 近畿大学は、2018年度一般入試時点で、のべ志願者数が5年連続日本一となった大学*³です。最初に、この近畿大学の経済学部経済学科の2019年度の入試要項をみてみましょう。*⁴

 

 一般入試は、1月26日と1月27日に一般入試・前期(A日程)が、まず行われます。都合の良いどちらかの日に出願することも、両日とも出願することもできます。

 

 英語・国語・選択科目の3科の試験を各100点満点で実施する(『スタンダード方式』)ですが、この『スタンダード方式』の入試得点のうち、最高得点科目の点数(選択科目は得点調整後)を2倍に換算し、他の科目との総合点で合否判定する『高得点科目重視方式』も併願できます。

 

 更に、『文系学部学部内併願方式』という、同一学部内の他の学科・専攻・コースを併願できる制度もあり、この『文系学部学部内併願方式』にも『高得点科目重視方式』を併願することができます。

 

 それだけではなく、他の学部の学科・専攻・コースを併願して受験することができる『文系学部他学部併願方式』も設けられています。

 

 2月11日と2月12日には、一般入試・前期(B日程)が行われ、A日程と同様に『スタンダード方式』『高得点科目重視方式』『文系学部学部内併願方式』があるだけはなく、『PC方式(前期)』という一般入試前期B日程(3科)と大学入試センター試験(3科)の合計点で合否を判定する方式も併願出来ます。そして、『文系学部学部内併願方式』でも利用することができます。

 

 3月8日と3月9日には一般入試・後期が行われ、『文系学部学部内併願方式』『文系学部他学部併願方式』『PC方式(後期)』も併願できます。

 

 また、大学入試センター試験の結果のみを利用する入試もC方式前期(外国語が150点・選択科目2科は各100点満点)、C方式中期(3科均等配点)、C方式後期(高得点の2科目で判定)と3方式あります。

◆一般入試の方式の多様化

 

 この近畿大学は、2008年入試の志願者数が71,127人だった*⁵のに対して2018年入試の志願者数が156,225人と約2.2倍にも増やしています。のべ志願者数の増加の要因は、受験生の現役志向の高まり、国公立大学入試日程の前期集中化(国公立大学の後期募集縮小・廃止による入試機会減少)といった環境変化だけではなく、受験生に対して多様な入試機会を提供して受験しやすい制度を積極的に取り入れていることも要因のひとつであるといえます。

 

 ここでは、その一例として近畿大学を挙げましたが、現在では近畿大学だけではなく、法政大学・明治大学・早稲田大学・東洋大学・日本大学・立命館大学・関西大学・中央大学など*⁶ ほとんどの大学で複数の入試方式による一般入試を取り入れています。

 

 保護者世代が大学受験をした時代は、私立大学でも一般入試は各大学各学部の入試機会が年に1回の大学が多数でしたが、現在では、年に1回しか一般入試の機会が設けられていない私立大学は慶應義塾大学や早稲田大学などの大学の一部の学部に限られるようになりました。

◆一般入試の方式の多様化による影響

 

 このように一般入試の方式の多様化が多くの大学でみられるようになったことで、「どの大学・学部に出願するのか」に加えて、「どの方式で出願するのか」も重要になってきます。

 

 先にご紹介しました近畿大学経済学部で、英語・国語・選択科目の3科で受験する場合でも、各科目の配点が均等な方式(『スタンダード方式』)、英語が重視される方式(C方式前期)、高得点科目が2倍される方式(『高得点科目重視方式』)、高得点2科のみで合否判定を行う方式(C方式後期)と、配点が異なります。

『後期PC方式』に至っては、後期試験科目の中から高得点の1科目と大学入試センター試験の1教科(1科目)の合計点で判定する方式ですので、得意な1科目だけで合格者判定を受けることも可能です。ですから、各科目ともバランス良く得点できる受験生、得意科目がある受験生、3科の中でひとつだけ苦手な科目がある受験生とでは、それぞれ有利な入試方式が変わってくるのです。

 

 このような例は、近畿大学だけではありません。東洋大学*⁷でも、経済学部 経済学科の入試では表のように、一般入試だけで19入試機会・方式 もあります。 実際に、⑥の方式で不合格になった受験生が⑰の方式では合格を勝ち取ったような例が起きているのです。

 ところが、受験するために必要な科目は何かについて調べている受験生は多いのですが、このような入試方式の違いによる配点の違いまで調べている受験生は少ないように思います。受験勉強が追い込みの時期ですから、配点や合格者判定の方法にまで注意する余裕が持てないこともあるでしょう。東京個別・関西個別では、個々の受験生にとって有利な受験方式や日程になっているのかどうかを確認したり、助言したりするしくみがありますので、例年、数多くのご相談に応じています。

◆入試制度を賢く利用する

 

 保護者には、以前ご紹介しましたように*⁸、健康管理面のバックアップをお願いしたいのですが、健康管理にも繋がることとして、受験生の志望校で確認していただきたいのは、『併願制度』と『地方試験制度』です。

 

 先に例示しました近畿大学経済学部では、1回の試験で『スタンダード方式』『高得点科目重視方式』『文系学部学部内併願方式』『文系学部学部内併願方式』など複数の方式を併願することで判定の機会を増やすことができます。4日かけて1方式ずつ受験するのは、受験生にとっては体力的にも精神的にも負担のかかることです。『併願制度』を活用して1回(1日)の受験で複数の学部・学科・判定方式の入試機会を設ければ、受験生の入試日程の過密化を防ぐことができます。

 

 『地方試験制度』は、大学所在地だけではなく地方都市でも試験を受けられる制度です。これも保護者が大学受験を経験した時代には少なかった制度です。

 

 近畿大学の前期A日程では34会場*⁴、日本大学では18都道府県56会場が用意されています。*⁹

MARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)、関関同立(関西学院大学・関西大学・同志社大学・立命館大学)という人気大学群の中で、立教大学以外は福岡県でも受験できるようになっています。*⁶

現在では、約7割の私立大学が『地方試験制度』を設けているのです。*¹⁰私立大学だけではなく、公立大学の都留文科大学は全国16会場、国立大学の室蘭工業大学では5会場で入試を行います。*⁶ 大学入試のために地方都市から上京して不慣れなホテルに宿泊して受験することは、体力も消耗しますし気疲れも多いものです。自宅近辺の試験会場で受験することで、受験生は普段の力を発揮できるのではないでしょうか。

 

 受験生が志望校として挙げている大学・学部が『併願制度』や『地方試験制度』を導入している大学なのかどうかを大学HPなどで確認して、受験生に教えてあげるだけでも、受験生が出願大学を最終決定する際の大きな支援となるでしょう。

◆出願手続きのチェックをする

 

 もう一点、保護者にお願いしたいのが出願手続きのチェックです。入試方式の多様化により併願数も増加傾向にあり、保護者にとっても経済的な面での負担額は気になるところではないでしょうか。

 現在、私立大学では多くの大学で受験料の割引制度を設けています。例えば早稲田大学では、同一学部・同一日・同一試験により実施する複数の試験を出願する場合、減額制度があります。中央大学でも一般入試と大学入試センター試験利用入試等の複数の試験方式を一般入試の1回分の受験料で受験できる制度があります。また、関西外国語大学や近畿大学のように受験料の返還制度を設けている大学もあります。

本心では受験機会を増やしたいが、保護者に受験料の追加負担を慮り、保護者に切り出せないでいる受験生を例年数多く見かけます。また、保護者の中にも、受験生の将来のために受験機会を増やしたいが受験料の負担も気がかりな保護者も見かけます。そんな場合、これらの制度を上手に活用することで、受験料総額を抑制しながら受験機会を増やすこともできるのです。

 しかし、これらの制度は、同時に出願しなければ受験料の割引が受けられなかったり、受験料の返還を受けられる要件が定められていたりしますので、受験生任せにせずに大人(保護者)の目で大学HPや入試要項等を確認しておくような支援をしていただきたいと思います。

 

 このように保護者が大学を受験した時代にはなかった多様な判定方式や入試制度が大学入試では取り入れられています。そして年々その内容は変化しています。情報を知らない受験生は不利になることもあります。ですから大学入試は情報戦でもあるわけです。保護者もこのような情報を収集していくことが重要ですが、保護者や受験生が信頼できる相談先を確保しておくことが重要なことであると思います。

*¹ 例えば同志社大学では、2018年12月26日(水)から一般選抜入学試験(2019年度入学者選抜)の出願を受け付ける。

https://www.doshisha.ac.jp/admissions_undergrad/new/general/application_guidebook.html

*² 18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/02/16/1401001_4.pdf

*³ 近畿大学HPより

https://kindai.jp/about/scale.html

*⁴ 近畿大学「平成31年度  入学試験要項」

https://kindai.jp/download/pdf/examguide2019a.pdf

*⁵ 2008年 私立大入試 志願者動向分析(旺文社)

http://eic.obunsha.co.jp/analysis/200805/

*⁶ 各大学の入試要項による

早稲田大学

http://www.admission.waseda.jp/2-1youkou.pdf

東洋大学

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-toyo/index.pdf

日本大学

http://exam.nihon-u.ac.jp/guide/files/3215/4095/5753/nihon-u_2019_youkou.pdf

立命館大学

http://ritsnet.ritsumei.jp/application/general/asset/dl/2019/Ritsumeikan2019.pdf

関西大学

http://www.nyusi.kansai-u.ac.jp/admission/pdf/kandai_guide2019.pdf

明治大学

http://www.meiji.ac.jp/exam/information/guidelines/pdf/2019-meiji_guidelines.pdf

青山学院大学

https://www.aoyama.ac.jp/wp-content/uploads/2018/11/ad_2019_ippan_center.pdf

立教大学

http://exam.52school.com/rikkyo/guideline/

中央大学

http://www.chuo-u.ac.jp/admission/faculties/center/application/guide/pdf/guide2019_01.pdf

法政大学

http://exam.52school.com/guide/files/6015/4087/6341/hosei2019_youkou_all.pdf

関西学院大学

https://www.kwansei.ac.jp/admissions/attached/0000150489.pdf

都留文科大学

https://www.tsuru.ac.jp/fs/2/8/5/2/7/_/22_________1022__1_.pdf

室蘭工業大学

http://www.muroran-it.ac.jp/nyushi/admission/youkou/31senbatsu2.pdf

関西外国語大学

https://www.guide.52school.com/export/sites/default/guidance/net-kansaigaidai/PDF/2019-kansaigaidai-youkou.pdf

 

*⁷ 東洋大学は2008年入試の志願者数が59,702人だった*⁵ のに対して2018年入試の志願者数が115,441人と約1.9倍にも増やした

2018年度入学試験結果(東洋大学)

http://www.toyo.ac.jp/nyushi/pdf/admission/past-exam/toyo2018-nyushikekka.pdf

*⁸【てら先生コラム】第8回:合否を分ける力とは

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=1904

*⁹ 日本大学試験会場案内

http://www.nihon-u.ac.jp/admission_info/wp-content/themes/admission2014/application/general_2015/pdf/2015_map.pdf

*¹⁰ 旺文社入試情報センター

http://eic.obunsha.co.jp/pdf/exam_info/2018/1130_1.pdf

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。