FEATURES東京個別チャンネル

FEATURES一覧に戻る

2019年11月15日

【てら先生コラム】第21回:高等学校等就学支援金制度

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「高等学校等就学支援金制度」についてお届けします。

 少子高齢化対策として教育支援に関するさまざまな取り組みが始まっています。

2019年10月から幼児教育・保育の無償化が始まり*¹、話題となりましたが、「大学等における就学支援に関する法律」*²により、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校に対しても2020年4月から授業料などの減免と給付型奨学金の拡充が図られます。そして「高等学校等就学支援金制度の改正*³により、2020年4月より私立高等学校の授業料無償化に向けた制度改革も行われることが決定しています。

 

 今回は、この私立高等学校の授業料無償化に向けた制度改革についてとりあげたいと思います。

従来の制度の課題

 

 これまでも高等学校に通う生徒に対しては、全国共通の「高等学校等就学支援金制度」がありました。年収約910万円未満の世帯を対象に、年収(ここでいう年収とは、正確には、所得等要件である世帯の市町村民税所得割額と各県の県民税所得割額の合算額で判断)に応じて支援金額が定められていました。この就学支援金は国から学校へ支給され、国公立高等学校では各世帯からの授業料の支払いが実質不要になりました。加えて、私立高等学校では授業料が国公立高等学校に比べて高額であるため、国から支給される支援金と授業料の差額に関しては世帯が負担する必要があるため、世帯年収が590万円未満の世帯については、年収に応じて段階的に1.5倍から2.5倍の加算支給がされていました。

 

 しかしながら、私立高校に通う生徒についてはまだ支援が十分ではない状況にありました。そこで、国の支援制度を拡充する形で、各自治体が支援制度を設けていました。*⁴ 各自治体が設ける支援制度は、各自治体にある全日制私立高等学校の平均授業料が異なることもあり、授業料の支援対象世帯や支援金額が異なっていました。また、授業料以外の施設費や入学金に対する支援策も異なっていました。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/10/30/1343868_06_1_1_1.pdf

 そして、現在在住の県以外の私立高等学校等へ通う場合でも助成が受けられる自治体があったり、受けられない自治体があったりと様々でした。*⁵

 例えば、東京都に居住する子どもの場合は、神奈川県・埼玉県・千葉県など近隣県の私立高等学校に通う場合でも助成対象となっていましたが、神奈川県に居住する子どもの場合は、神奈川県内に設置されている高等学校、中等教育学校(後期課程)及び専修学校高等課程が対象。千葉県に居住する子どもの場合は、千葉県内に設置されている高等学校、中等教育学校(後期課程)及び専修学校高等課程が対象。埼玉県に居住する子どもの場合も、埼玉県内に設置されている高等学校、中等教育学校(後期課程)及び専修学校高等課程が対象でした。交通機関が発達した都市部では、居住地以外の都府県の学校に通うケースは少なくありませんが、どの自治体に居住しているかによって、支援対象となる場合とならない場合が出ていることも、課題となっていました。

新制度では何が変わるのか

 

 2020年4月からはこれまでの「高等学校等就学支援制度」が変わります。変更点は、主に2点です。

 

  1.年収約590万円未満世帯の上限額の引き上げ

  2.判定基準を「地方税の所得割額」から「課税所得」に変更

 

 1の上限額の引き上げは、現在、就学支援金の対象となっている学校に適用されます。 引き上げ後の支給額は、在校生(2020年度よりも前に入学した生徒)にも適用されます。これまで段階的だった支援加算額が私立高等学校の平均授業料を勘案した水準まで引き上げられるので、進学を希望している、もしくはすでに在学している私立高等学校の授業料が平均授業料程度であれば、授業料の実質無料が実現することになる見通しです。この制度は、国の施策ですから、居住地によって県外の高等学校に進学・在学する場合支援対象外となることはありません。

 

 また生活保護世帯、住民税非課税世帯のご家庭の子どもは、教科書、教材費などの、授業料以外の教育費支援となる「高校生等奨学給付金」も同時に受けることができます。

 

 2の所得の判定は「地方税の所得割額」から変更され、保護者等の「課税所得」を基準として判定されることになります。文部科学省HPの制度概要に記載されているモデル世帯は、年収約910万円未満の世帯(両親のうちどちらか一方が働き、高校生一人(16歳以上)、中学生一人の子供がいる場合)となっていますが、所得控除等の金額により住民税の所得割額は変わってくるので、あくまでも、年収ではなく課税所得で判断されるという点に注意する必要があります。

 

 今回の私立高等学校の授業料無償化に向けた制度改正により、経済的な問題から国公立高等学校を選択せざるを得なかった世帯でも、子どもの希望に応じて私立高等学校に進学する選択肢を取れるようになるケースが増えてくるのではないでしょうか。

「高等学校等就学支援制度」の注意点

 

①支援額には上限が設けられている

 

 支給される額の上限は、私立高等学校の平均授業料を勘案した額となっています。全国の私立高等学校の授業料平均は、入学初年度で399,152円とのことですから*⁶、そこまでは対象になると思われます。しかし、具体的な支援上限金額については、文部科学省から2019年10月末段階では発表されていません。

 

 そして、授業料で私立高等学校の平均授業料を勘案した額を超える部分については自己負担となるのは、従来通りです。私立高等学校の場合は、各高等学校によって授業料も大きく異なります。東京都が発表した「平成 31年度 都内私立高等学校(全日制)の学費の状況」によると、玉川学園高等部IBクラスの場合年額授業料は1,338,000 円なのに対して、 日本体育大学荏原高等学校は336,000 円 と約100万円の差があるのが実情です。*⁷

 

②支援対象は「授業料」に限定される

 

 また、「高等学校等就学支援制度」の対象は授業料のみという点に注意が必要です。修学旅行費、遠足・見学費、PTA会費、学用品費、通学費など授業料以外のこれら学校教育費を支援する「高校生等奨学給付金」という制度がありますが、「高校生等奨学給付金」の給付対象となる子どもは、「高等学校等就学支援制度」の給付対象となる子どもよりも限定され、生活保護受給世帯と非課税世帯となります。*⁸

 

 入学(在学)する私立高等学校の授業料が、「高等学校等就学支援制度」による給付上限額を下回る場合でも、その差額を授業料以外に振り替えることはできません。

 

③申請しなければ給付されない

 

 2020年度入学生は、原則、入学時の4月に書類を高等学校等に提出しなければ支援を受けることができません。マイナンバー(個人番号)で所得要件を確認する場合は、学校を通じて配布される受給資格認定申請書と、マイナンバー通知カードの写し、マイナンバーが記載された住民票等のマイナンバーカードの写しが必要です。課税証明書等で所得要件を確認する場合は、学校を通じて配布される受給資格認定申請書と、市町村民税税額決定通知、納税通知書、課税証明書等の市町村民税所得割額・道府県民税所得割額が確認できるものの提出が必要です。

 

 この「高等学校等就学支援金」は学校が生徒本人に代わって受け取り、それを授業料に充てることになります。制度を利用する場合では、申請の時期との兼ね合いから、入学金や授業料は一旦先に納める形になります。特に初年度の1年生の場合は、教育費のやりくり計画を立てておく必要があります。また、申請手続きや支給の方法に関することは、学校から配布される書類や案内をしっかり確認しておくことが大切でしょう。

「高等学校等就学支援制度」改正の影響

 

 国税庁が行った、平成30年分民間給与実態統計調査の年齢階層別の平均給与によると*⁹45~49歳で502万円、50~54歳が529万円ということですので、目安年収約590万円未満世帯の生徒を対象に支援上限額を引き上げるという今回の私立高等学校の授業料無償化に向けた制度改正により、経済的な問題から国公立高等学校を選択せざるを得なかった世帯でも、子どもの希望に応じて私立高等学校に進学する選択肢を取れるようになるケースが増えてくるのではないでしょうか。

 

 東京都では、2017年から都内在住の私立高等学校生を対象に従来はモデル年収250万円以上350万円未満が13,500円、350万円以上760万円未満が107,100円だった「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」を大きく拡充しました*¹⁰が、高校受験においては、東京都が2019年の1月に発表した「平成31年度都内私立高等学校入学応募者状況【一般入試・中間】」によると、2018年の応募人員が50,538人(中間倍率2.39倍)に対し、2019年の応募人員は60,835人(中間倍率2.85倍)と増加しました。*¹¹

https://www.shigaku-tokyo.or.jp/parents_index.html

 一方で、東京都では私立高等学校の私立高等学校等授業料軽減助成金事業の拡充の影響からか、都立高等学校の学力検査による選抜の全日制最終応募者は、2017年度以降48,152人⇒45,216人⇒44,160人と3年連続減少しています。*¹²

 

 また、2018年度入試では、2月の全日制学力検査に基づく入試(第一次募集・分割前期募集)では、定員割れとなった都立高等学校が172校中47校に上り、前年の17校から大幅に増加し、話題となりました。*¹³

 

 定員割れとなった都立高等学校の多くは、進路多様校や専門学科、通学の便が良好ではない高等学校です。そのことから、受験生の志向が「経済的な理由から公立高等学校を選択する」から、「支援額が改定されたので、より自分にあった高等学校を選択する」に変化した結果、一部の受験生が私立高等学校に流れたと思われます。

 

 受験の動向はさまざまな社会的影響を受けるものです。私立大学の付属高等学校の倍率上昇がみられましたが、要因は、大学入試制度改革の行方が不透明であることへの不安感だけではなく、いわゆる私立高校の授業料無償化の影響が一部にあったということは確かに言えそうです。このような志望動向の変化は、今回の「高等学校等就学支援制度」の給付対象の改正により、他の道府県にも生じる可能性があります。

 

「高等学校等就学支援制度」の給付対象の改正は、確かに授業料に限られますが、初年度納入金全体で公立高等学校よりも高額であったとしても、一般的には、私立高等学校の方が公立高等学校よりも課外教育が充実していたり、施設・設備が充実していたりする傾向が強いようです。私立高等学校への入学も検討しているご家庭では、保護者も検討している高等学校に実際に足を運び、教育内容や施設内容等と比較し、その金額が妥当かどうか、検討することも必要でしょう。

 

 多くの私立高等学校では、従来から独自の奨学生・特待生制度を設けてきました。中には授業料だけではなく、入学金や施設費などの一部または全部が免除される制度があります。また、共立女子第二高等学校のように2020年度入試に向けて、奨学金制度をよりチャレンジしやすくリニューアルした学校もあります。*¹⁴

 

 そのような制度情報も加味したうえで、子どもに合った高等学校を探していくことが、今後ますます必要になってくるのではないでしょうか。

 

 

*¹ 「幼児教育・保育の無償化」 内閣府

 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html

 

*² 「大学等における修学の支援に関する法律の公布について(令和元年5月17日総合教育政策局長・初等中等教育局長・高等教育局長通知)」文部科学省 2019年5月17日 

 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/28/1418531_01.pdf

 

*³ 「高校生等への修学支援」 文部科学省

 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342674.htm

 

*⁴ 「都道府県別私立高校生への授業料等支援制度」 文部科学省

 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/10/30/1343868_06_1_1_1.pdf

 

*⁵ 「私立高等学校等授業料軽減助成金事業」 公益財団法人東京都私学財団

 https://www.shigaku-tokyo.or.jp/pa_jugyoryo.html

「私立高等学校等生徒学費補助金について」神奈川県

 http://www.pref.kanagawa.jp/docs/v3e/jyosei/gakuhisien/gakuhihojyo.html

「授業料減免制度のお知らせ」千葉県 

 https://www.pref.chiba.lg.jp/gakuji/shiritsutou/gakuhi-josei/genmen/documents/gennmennsin.pdf

「私立学校の父母負担軽減事業について 」埼玉県

 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0204/fubofutan2.html

 

*⁶ 「平成30年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果について」文部科学省 平成30年12月26日

 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/12/1412179.htm

 

*⁷ 「平成 31年度 都内私立高等学校(全日制)の学費の状況」東京都 平成30年12月13日

 http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/shigaku/press/files/0000001061/181213_1.pdf

 

 各校ごとの費用は、一般財団法人 東京私立中学高等学校協会に掲載  

 http://h.tokyoshigaku.com/knowledge/about-fees#gakuhi

 

*⁸ 「高校生等への修学支援」文部科学省

 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1344089.htm

 

*⁹ 「民間給与実態統計調査」国税庁 令和元年9月

 https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/001.pdf

 

*¹⁰ 「私立高校等に通う生徒の教育費を支援 授業料軽減助成金を大幅拡充」 東京都生活文化局, (公財)東京都私学財団 2017年05月25日

 http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/05/25/24.html

 

*¹¹ 「平成31年度都内私立高等学校入学応募者状況【一般入試・中間】」東京都生活文化局 2019年02月04日

 http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/02/04/14.html

 http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/shigaku/press/files/0000001061/190204_1.pdf

 

*¹² 「平成31年度東京都立高等学校入学者選抜応募状況(全日制)
[一橋高校・新宿山吹高校・浅草高校・荻窪高校・八王子拓真高校・砂川高校・六本木高校・大江戸高校・世田谷泉高校・稔ヶ丘高校・桐ヶ丘高校]」 東京都 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/admission/high_school/past/first_application/files/release20190214_06/01_31.pdf

 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/admission/high_school/past/first_application/files/release20180215/01_30.pdf

 

*¹³ 「都立高入試、最多31校定員割れ 募集人員見直しへ 私立実質無償化影響も?」産経新聞 2018年4月2日 

 https://www.sankei.com/life/news/180402/lif1804020005-n1.html

 

*¹⁴ 共立女子第二中学校・高等学校

 https://www.kyoritsu-wu.ac.jp/nichukou/h_exam/scholarship/

 

 

 

【てら先生コラム】バックナンバーはこちらから

 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2111

 

 

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。