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2020年02月03日

【教育改革】第23回:『⼤学⼊試英語成績提供システム』導入見送りと『大学入学共通テスト』

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第23回目は『⼤学⼊試英語成績提供システム』導入見送りと『大学入学共通テスト』をお届けします。

 前回のコラム*¹ では、『⼤学⼊試英語成績提供システム』導入見送りと英語資格・検定試験結果の大学入学者選抜への活用について述べました。今回は、『大学入学共通テスト』での英語についてみていきたいと思います。

 

 

◇『⼤学⼊試英語成績提供システム』導入見送りの影響はあったのか

 

 これまでの『大学入試センター試験』では、英語(筆記)問題で、発音、アクセント、語句整序の問題という形式で、「話すこと」「書くこと」の力を間接的に測ろうとする工夫がなされてきました。

 これに対して『大学入学共通テスト』は、「英語の資格・検定試験の活用を含め、四技能を評価する別の枠組みが設けられる方針であることを踏まえ、発音、アクセント、語句整序の問題は出題せず、「読むこと」の力を把握することを目的とした問題構成」で出題する予定になっており*² 、『大学入学共通テスト』の実施に向けた2018年実施の試行調査問題も、その方針に沿う出題になっていました。*³ また、英語の各技能をバランスよく把握することが英語教育改革の方向性の中で求められていることや、多くの英語資格・検定試験では各能力の配点が均等になっていることから、英語の「筆記(リーディング)」と「リスニング」の配点を均等にして実施する方針が示されていました。*²

 

 しかし、2019年11月1日に文部科学大臣が英語資格・検定試験結果を活用して大学入学者選抜で英語四技能の評価をする『大学入試英語成績提供システム』の導入を見送ると、発表しました。*⁴ この『大学入試英語成績提供システム』導入見送りの決定により、「四技能を評価する別の枠組みが設けられる方針」が崩れてしまったため、『大学入学共通テスト』の英語の出題方針が変わるのではないかとの予測が一部からありました。

 これに対して、大学入試センターは、2019年11月15日に、2021年1月実施予定の『大学入学共通テスト』について、「発音、アクセント、語句整序等を単独で問う問題を出題しないことについては、英語教育の観点から大学入学共通テストの導入を機に改善を図るものである」「英語のリーディングとリスニングの配点を均等にした趣旨は、高等学校学習指導要領が英語4技能のバランス良い育成を目指していることを踏まえたものである」ことから、『大学入学共通テスト』の出題方法や問題作成方針は2019年6月7日に公表した内容から変更しないとする発表を行いました。*⁶

 

 

◇『⼤学入学共通テスト』英語はどう変わるのか

 

 この発表を受けて、英語の『大学入試センター試験』と『大学入学共通テスト』とでは、どのような違いがあるのかを、以下のような表にまとめてみました。

 

【表1】英語(筆記)問題の比較

 

【表2】英語(リスニング)問題の比較

大学入試センター発表資料(*⁶ ~*¹² )より東京個別指導学院が作成

 『大学入試センター試験』から『大学入学共通テスト』へと受験生に課される試験が変わっても、2019年度の高校2年生から中学2年生は、出題のもとになる学習指導要領が同じなので、学習すべき内容は変わりありません。「解答のしかた」は『大学入試センター試験』と同様に、全てマークシート形式で解答します。

 ところが、重視される力や問題の問われ方が変わっているのです。上表のように『大学入学共通テスト』の「リーディング」では、様々な素材から素早く概要や要点を把握する力や必要とする情報を読み取る力などが重視されます。また「リスニング」では身近な暮らしや社会での暮らしに関わる内容について、概要や要点を把握する力や必要とする情報を聞き取る力が重視されます。 『大学入学共通テスト』の試行調査問題では、「本文に同じことが書かれているから、これが答え」ではなく、書かれている内容を解釈し・判断する解答プロセスが正答するためには求められる問題や、正答の根拠が本文だけではなく、イラストから判断して解答を導く問題も出題されています。

 このようにみていくと、『大学入試センター試験』から『大学入学共通テスト』へと名称が変わっただけなのではないのだと、わかります。

 

 

◇「リーディング」 と「リスニング」の配点変化で気をつけたいこと

 

 『大学入学共通テスト』では、「リーディング」 と「リスニング」は各100点満点で出題されます。ただし、各大学の入学者選抜において、具体的にどの技能にどの程度の比重を置くかについては、各大学の判断となります。*¹²

 例えば、北海道大学では、『大学入学共通テスト』のリーディングを100点満点、リスニングを100点満点とする発表を行いましたが、大阪大学や名古屋大学、東北大学では、『大学入学共通テスト』のリーディングを150点満点、リスニングを50点満点に換算すると発表しています。また、神戸大学は、『大学入学共通テスト』のリーディングを160点満点、リスニングを40点満点に換算すると発表しています。

 これに対して、京都大学は「大学入学共通テストにおける外国語「英語(リーディング、リスニング)」の配点については、検討のうえ、後日公表します」としています(2020年1月16日)。

 また、東京大学は、『大学入試センター試験』では「リスニング」の成績は合否判定に使用していませんが、『大学入学共通テスト』での「リスニング」の成績の活用に関して、2020年1月19日段階では発表していません。

 

 では、私立大学はどのような対応をしているのでしょうか。明治大学と中央大学の『大学入学共通テスト』を利用した入学者選抜での英語「リーディング」と「リスニング」の入学者選抜で使用する配点をまとめてみました。

 

【表3】明治大学と中央大学の『大学入学共通テスト』を利用した

入学者選抜での英語のリーディングとリスニングの点数

明治大学、中央大学発表資料*¹⁴ *¹⁵より東京個別指導学院が作成

 同じ大学であっても、学部によって、「リーディング」と「リスニング」のウエイトが異なることがわかります。明治大学情報コミュニケーション学部のように、「リーディングの配点100点を200点に換算した点数」、または、「リーディングの配点100点を160点に換算し、リスニングの配点100点を40点に換算し、リーディングとリスニングの換算合計点数」のいずれか高得点の成績を合否判定に利用すると発表している(農学部も同じように高得点の成績を合否判定に利用)学部もあります。

 【表3】の明治大学法学部の場合は、リーディング100点、リスニング100点、国語200点、地歴公民や数学などの選択科目100点の500点満点で合否判定を行います。英語以外の教科・科目も含めた合否判定に使用する合計点数の中での「リスニング」のウエイトをみると20%と、選択科目と同じウエイトになっています。2020年実施の『大学入試センター試験』を利用した選抜では、同学部のリスニングのウエイトは8%でした*¹⁶ ので、「リスニング」のウエイトが非常に上がりました。明治大学法学部の『大学入学共通テスト』を利用した選抜に出願を検討する受験生は、「リスニング」の対策の重要度が増すと言えるでしょう。

 また、同じ文学部でも、明治大学は「リーディング」と「リスニング」のウエイトが各100点(総合点に占めるリスニングのウエイトは17%)なのに対して、中央大学は「英語」の「リーディング」の満点は100点を200点に、「リスニング」の満点は100点を50点にそれぞれ換算した250点を更に200点に換算して英語の配点とします(総合点に占めるリスニングのウエイトは8%)ので、リスニングが得意な受験生は、明治大学の文学部の方が有利になります。

 このように、合否判定に使用する配点の違いにより、学習の優先度(重要度)が変わってきたり、有利な大学・学部が変わってきたりするのです。

 まだ、全ての大学が『大学入学共通テスト』の「リーディング」と「リスニング」の入学者選抜で使用する配点を発表しているわけではありませんので、気になる大学のHPをチェックするなどして、情報収集をしていくことが必要になってくるでしょう。

 

 

◇各大学が個別に実施する入学者選抜問題への注意は必要

 

 『大学入学共通テスト』で、発音・アクセント、語句整序問題などは単独で出題されないことになりました。では、発音・アクセント、語句整序問題などの学習を行う必要がなくなったのでしょうか。『大学入学共通テスト』で単独では出題されない発音・アクセント、語句整序問題も、各大学が実施する入学者選抜では出題される可能性はあります。ですから、各大学が実施する入学者選抜試験問題の現在までの出題傾向がどのようなもので、今後出題方針に変更があるのかどうかには注意する必要があります。

 例えば慶應義塾大学法学部では、発音・アクセント問題が出題されることもありますし、語法問題の出題は頻出ですので、『大学入学共通テスト』で出題されない問題への準備(勉強)も必要になります。このように、受験する大学や入学者選抜方式によっては、『大学入学共通テスト』では出題されない分野の学習も必要になります。

 更に、前回のコラム*¹ で述べましたように、英語資格・検定試験結果を活用する入学者選抜も選択肢に入れるかどうかで、受験準備の方法や優先順位も変わってくるでしょう。

 

 

◇保護者のできることは何か

 

 入試制度の変わり目の時期では、各大学・学部ごとに入学者選抜での対応が異なってきます。受験校の組み合わせは受験生一人ひとりが異なりますが、その対策もこれまで以上に異なってきます。

 

 新しく重視される力を測る問題が出題されますので、従来の受験対策のように、入試過去問(入学試験過去問題)をそのまま利用する学習では通用しなくなります。そして、新しい問題に対応できる準備をするための期間を、余裕を持たせて確保しておくことが必要になってきます。その点から、従来の受験生よりも、新大学受験生は大学受験に向けた準備を前倒ししていく方が良いでしょう。

 

 保護者は、「上の子どもは3年生になってから大学受験準備を始めても何とかなったから、下の子どもも大丈夫だろう」といった従来の感覚では、十分な受験準備が出来ない可能性が高まる点を、意識しておくと良いでしょう。

 このことは、子どもと大学受験の話題になった際には、ご家庭でも是非、保護者から話をしていただきたい点です。

 しかし、受験勉強や大学入試について、保護者の話を真剣に聞かない子どもも中にはいます。子どもが保護者のことを受験勉強や大学入試の専門家だと捉えていない場合には、保護者のことを信頼している子どもでもそのようなことがあります。このような場合は、保護者が信頼できる学校や塾の先生から子どもに話をしてもらうと良いでしょう。

 また、保護者にとっては、子どもに必要な学習内容が何で、どのような優先順位になるのか、子どもに必要な入試情報をどのように収集したらいいか、子どもにとって有利な受験方法は何なのか、といった点は知りたいところではないでしょうか。

 変化する入試について、子どもに話してくれる先生や相談に乗ってくれる先生を確保しておくことも、保護者が子どもに出来る支援のひとつではないかと思います。

 

 

*¹ 【教育改革】第22回:「⼤学⼊試英語成績提供システム」導入見送りと大学入学者選抜 東京個別指導学院 2020年1月10日

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3155

 

*² 大学入学共通テストの導入に向けた試行調査(プレテスト)(平成30年度(2018年度)実施)の結果報告 独立行政法人大学入試センター 2019年4月4日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035897.pdf

 

*³ 平成30年度試行調査 問題、正解等 英語 筆記〔リーディング〕 独立行政法人大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html

 

*⁴ 受験生をはじめとした高校生、保護者の皆様へ 文部科学省大臣 萩生田光一 2019年11月1日

https://www.mext.go.jp/content/1422381_01.pdf

 

*⁶ 大学入試英語成績提供システムの導入延期に伴う令和3年度大学入学者選抜大学入学共通テストの出題方法等について 独立行政法人大学入試センター 2019年11月15日

https://www.dnc.ac.jp/news/20191115-01.html

 

*⁷ 大学入学共通テスト英語におけるイギリス英語の使用について 独立行政法人大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00037500.pdf

 

*⁸ 令和 3 年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等 独立行政法人大学入試センター 2019年6月7日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035970.pdf

 

*⁹ 令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針 独立行政法人大学入試センター 2019年6月7日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035971.pdf

 

*¹⁰ 平成30年度試行調査_問題、正解等 独立行政法人大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html

 

*¹¹ 平成 31 年度大学入試センター試験出題教科・科目の出題方法等 独立行政法人大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00009660.pdf

 

*¹² 平成31年度本試験の問題 独立行政法人大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/center/kako_shiken_jouhou/jisshikekka/index.html

 

*¹³ 英語認定試験の活用方針についてのお知らせ 北海道大学 2019年11月25日

https://www.hokudai.ac.jp/admission/R03_kyoutsu_20191202.pdf

 

2021年度入学者選抜からの変更について 大阪大学 2020年1月

https://www.osaka-u.ac.jp/ja/admissions/faculty/general/files/2021henkou_202001.pdf

 

令和3年度(2021年度)以降の大学入学共通テストにおける外国語「英語」の配点について 名古屋大学 2020年1月16日

http://www.nagoya-u.ac.jp/admission/applicant/report/2021_7.html

 

令和3年度(2021 年度)入試における大学入学共通テスト 外国語の配点について(予告) 東北大学 2019年12月24日

http://www.tnc.tohoku.ac.jp/images/news/20191224yokoku.pdf

 

令和3年度入学者選抜に係るお知らせ(追加) 京都大学  2020年01月16日

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/admissions/events_news/office/kyoiku-suishin-gakusei-shien/nyushi-kikaku/news/2019/200116_1.html

 

*¹⁴ 2021年度(令和3年度)入学者選抜の概要について  明治大学 2019年11月21日

https://www.meiji.ac.jp/exam/info/2019/6t5h7p0000237crm-att/6t5h7p0000237csk.pdf

 

*¹⁵ 2021年度入試の主な変更点 統一入試・一般入試・英語外部検定試験利用入試・大学入試共通テスト利用入試  中央大学 

https://www.chuo-u.ac.jp/admission/faculties/modification/

 

*¹⁶ 5-3 大学入試センター試験利用入学試験  明治大学 

https://www.meiji.ac.jp/exam/information/guidelines/pdf/2020-p25-31.pdf

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 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110