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2020年02月21日

【てら先生コラム】第23回:SDGsと学校教育

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「SDGsと学校教育」についてお届けします。

◇ SDGsとは

 

 近年、17色の円形のバッジを装着している人が目につくようになりました。このバッジはSDGsに関連した事業に取り組んでいることを示すものです。

 このSDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な世界の実現に向け2015年9月に国連に加盟するすべての国が採択した2030年までの国際的な目標です。

 国際社会では、2000年に国連で採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成に向けた努力を行い、極度の貧困や飢餓の撲滅といった点で成果を上げてきました。一方で、教育、母子保健、衛生といった未達成目標があったり、環境汚染や気候変動への対策や頻発する自然災害への対応など、MDGsにはなかった課題も顕著になったりしました。

 そこで、『誰も置き去りにしない(leaving no one left behind)』を共通の理念に、先進国、開発途上国を問わず、すべての国連加盟国がこの目標を遂行するために、2015年に17の実行目標が定められたのです。*¹ この中には、当然MDGsで達成できなかった課題、MDGsには含まれていなかった課題、や新たに浮上してきた課題も含んでいます。*²

 バッジの17色が、17の実行目標を示しているのです。

 そして、これらの目標を達成するために必要な具体目標(ターゲット)が、合計169設定されています。*¹

 この、SDGsの目標17項目では、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人々が平和と豊かさを享受し、ずっと地球に住み続けられるように開発・発展することを目指しています。これらの目標は単なる「こうだったら良いね」という理想論や遠い未来のイメージではなく、非常に現実的で、喫緊の課題でありながら、いまだに解決策を見出し切れていない内容になっています。これらの目標を達成することは、今の時代に生きる私たちの役割でしょう。

 しかし、目標を達成するためには、別の目標と広く関連づけられる問題にも取り組まねばならないこともあります。また、目標はすべて相互に繋がっているので、一つの目標を達成しようとすると他の目標の実現を阻害してしまうことが起きかねません。

 

 日本政府でも2016年5月に、安倍晋三首相を本部長とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を発足させ、2016年12月に、『持続可能な開発目標(SDGs)実施指針』を発表しました。*³

 

 朝日新聞社が実施している『SDGs認知度調査』でも、「あなたはSDGsという言葉を聞いたことがありますか」という質問に「ある」と答えた人は第1回調査(2017年7月実施)の12%以降から増加し続け、第5回調査(2019年8月実施)では28%までになりました。特に学生の認知度は前回(第4回2019年2月実施)の20%から32%へと大きく上がっています。*⁴

 

 

◇ SDGsでは、子どもたちは変化の担い手でもある

 

 SDGsを定めた文書『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ』*¹の中で、SDGsが目標とする世界は、”子供たちに投資し、すべての子供が暴力及び搾取から解放される世界”(日本語訳3p)となっています。子どもは、障害者、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民などと共に、能力強化がされなければならない”脆弱な人々”にも含まれていますが(同6p)、同時に、“子供たち、若人たちは、変化のための重要な主体であり、彼らはこの目標に、行動のための無限の能力を、また、よりよい世界の創設にむける土台を見いだすであろう”(同12p)重要な変化の担い手と位置付けられているのです。

 前掲の169のターゲットのうち、「4.7」には“2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。”とされています。子どもたちがSDGsについて学び、SDGsの実施に主体的に関わっていくことが期待されているのです。

 

 

◇ 学校での取り組み

 

 このため、公立小学校から国立高等学校、私立中学高等学校まで、教育現場において様々な取り組みが始まっており、その様子は文部科学省のHPでも公開されています。子どもたちが好奇心を持ってイキイキと主体的に学び、調べ、理解し、これまで学んだ知識や経験も取り入れながら、自分の言葉で語り、問題を解決しようとしている姿が読み取れます。*⁵

 例えば、名古屋国際中学・高等学校では、学校設定教科「サステイナビリティ」の設置・高校2年次の国際理解海外研修、地域と連携した課外学習の面から持続可能な開発目標(SDGs)を意識した取り組みを行い、「世界と日本の未来を担う国際人の育成」を目指しています。

 また、成蹊中学高等学校でも、タンザニアとの学校交流や「鉛筆贈ろうプロジェクト」を行ったり、スカイプによる会話を通じて「アートマイルプロジェクト」(互いに英語が母国語ではない2校の生徒が協力して共通テーマについての絵画を制作することを通じて国際理解を深めるプロジェクト)を企画・実施したりして国際交流活動に力を入れている様子がうかがえます。

 初等中等教育だけではなく高等教育についても、大学教育のグローバル化を進めて、日本の大学の国際競争力の向上を進め、グローバルな舞台で活躍できる人材の育成を目的にしているスーパーグローバル大学*⁶ で各ゴールの達成に繋がる研究・活動が数多く行われており、取り組み内容が紹介されています。*⁷ 

 とはいえ、先の朝日新聞社の調査結果で、約3分の2の学生は「SDGsを知らない」と回答している通り、SDGsへの取り組みに熱心な学校と、そうではない学校があるようです。

 

 2020年を迎え、SDGsで掲げた17の目標達成年(2030年)まであと10年となりました。あと10年と言いますと、2019年度の小学6年生が4年制大学を卒業して社会に出る頃までということになります。” 重要な変化の担い手”として、子どもたちがSDGsについて学び、SDGsの実施に主体的に関わっていく力をつけていくことは大切でしょう。

 ですから、学校がSDGsについてどう捉え、実行しようとしているのかで、その学校が何を目指し、在校生にどんな教育をしようとしているのかを知る一助となります。

 

 

◇ 入学者選抜試験にもSDGs関連の出題

 

 そして、学校が何を目指し、どんな生徒・学生を募集しようとしているのかを示すメッセージのひとつが入学者選抜試験問題です。

 SDGsに関連した入学者選抜試験問題を出題する学校は年々増加しているようです。

従来ですと、「持続可能な世界の実現に向け2015年9月に国連に加盟するすべての国が採択した2030年までの国際的な目標を何と言いますか、アルファベット4文字で書きなさい」「SDGsで定めた17の実行目標に含まれない目標を、以下の選択肢からひとつ選びなさい」といった知識を問う形で出題されたでしょうが、出題のされ方が異なってきています。

 例えば、女子学院中学校では持続可能な社会の実現のための「国連持続可能な開発サミット」に触れながら、日本で生活する自分たちがチョコレートや衣料品などの商品を購入するときにどのようなことを考えて選べばよいかを述べさせる問題が出題されました。*⁸

 大宮開成中学校では、SDGs『目標 2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する』をふまえて、世界では9人に1人が飢餓に苦しんでいますが、もし自分が国連の食糧問題の担当者だとしたら、日本の中学生に対してどのような活動をするのかを50字以内で書かせる問題を出題しています。*⁹

 また、千葉明徳中学校の「ルーブリック評価型入試」でも「持続可能な開発目標(SDGs)の 17 分野の中から 1つをゴールとし、あなたが感じる現状と改善するためのアイディアを提案してください。」というテーマが出されました。*¹⁰

 

 湘南学園中学校では、「湘南学園ESD入試」で、「質の高い教育をみんなに」というSDGs「ゴール4」に関する出題を行い、「質の高い教育」とはどのような教育のことだと思うかを答えさせ、そのような教育を受けられない場合にはどのようなことが起きると考えられるかを、受験生のこれまでの経験にもふれながら、説明させる問題が出題されました。さらに、「4 質の高い教育をみんなに」を達成するために関わりがあると考えられる「ゴール」を上の17個のゴールの中から理由を説明させながら1つだけ選択させ、「質の高い教育をみんなに」というゴールと、受験生の選んだゴールを両方とも達成に向かわせることのできる「アイデア」を考え、説明させる問題も出題されました。*¹¹

 SDGs の17の目標は相互に関連しているので一つを達成しようとすると他の目標とトレードオフが生じかねないことにも気づかせる出題になっていました。 

 

 このように「SDGs=持続可能な開発目標」といった知識の暗記ではなく、「あなたならどう考えますか」ということを考えさせる問題が目立ちます。これは、SDGsに対して、課題を「自分ごと化」して考えることができる受験生に入学して欲しい、そのような受験生を預かって育てていきたい、という学校からのメッセージだとも読み取れます。

 

 

◇ご家庭でできること

 

 SDGsの掲げる17の目標の課題は、「こうすれば解決できる」という答えがあるものではありませんし、10年後に解決策がみつかっているとも限りません。また、10年後には新たな課題が生じているかもしれません。そのような時代に社会に出て行く子ども達には、答えのまだ出ていない課題に立ち向かい、解決していく力を身につけてもらい、未来を生き抜いていって欲しいと思います。

 そんな力を伸ばしてくれそうな学校は、今後人気が出てくると思います。従来は、大学合格実績や就職実績などが進学する学校を選択する指標の一つでしたが、これからは、SDGsについての取り組み状況も、学校選択のひとつの指標となるのではないでしょうか。中には、SDGsについての考え方やSDGsについての取り組みの様子を自校のHPで紹介している学校もあります。また、授業公開や学校説明会で案内している学校もありますので、気になる学校のHPをチェックしてみたり、学校の公開行事に参加してみたりするのも良いでしょう。

 また、これからの入学者選抜試験では、先にご紹介したような正解のない問題を出題する学校が更に増えてくると予想されます。それは、今後必要とされる力だからです。ですから、入学者選抜試験で出題されなくても、ご家庭では、「正解はこうなんだから、その通りにしなさい」というような接し方ではなく、「あなたならどう考えるの」と、子どもにも考えさせるような接し方を心がけていきたいものです。

 

 

 

*¹ 「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ(仮訳)」 外務省HP

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

目標 1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる

目標 2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

目標 4 . すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う

目標 6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

目標 7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する

目標 8 . 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する

目標 9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

目標 10. 各国内及び各国間の不平等を是正する

目標 11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する

目標 12. 持続可能な生産消費形態を確保する

目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

目標 14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する

目標 15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する

目標 16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する

目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

169の具体的目標(ターゲット)は、15p以降。目標4に関しては17p~18p

例えば、目標 4の『すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する』に対しては、

4.1  2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。

4.2  2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。

4.3  2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。

4.4  2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。

4.5  2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。

4.6  2030年までに、すべての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。

4.7  2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

4.a  子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。

4.b  2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。

4.c  2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員養成のための国際協力などを通じて、資格を持つ教員の数を大幅に増加させる。

が設定されています。

 

*² SDGs(持続可能な開発目標)と科学技術イノベーションの推進 文部科学省 2018年6月6日

https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405921_001.pdf

*³ 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部 総理発言全文 首相官邸HP 2016年5月20日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai1/zenbun.html

 

持続可能な開発目標(SDGs)実施方針  首相官邸HP 2016年12月22日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai2/siryou1.pdf

 

*⁴ 【SDGs認知度調査 第5回報告】SDGsを「聞いたことある」27%に増。若い世代の認知広がる 朝日新聞社  2019年8月21日

https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey05/

 

*⁵ 教育現場におけるSDGsの達成に資する取組 好事例集【小・中学校 高等学校】 文部科学省

https://www.mext.go.jp/unesco/sdgs_koujireisyu_education/1418147.htm

 大学は以下に掲載

https://www.mext.go.jp/unesco/sdgs_koujireisyu_education/1418146.htm

 

*⁶ スーパーグローバル大学創成支援事業 文部科学省

https://tgu.mext.go.jp/downloads/pdf/sgu.pdf

 

*⁷ 取組から知るスーパーグローバル大学 文部科学省

https://tgu.mext.go.jp/sdgs/index.html

 

*⁸ 2019年社会入学者選抜試験問題 女子学院中学校 

 

*⁹ 2019年社会入学者選抜試験問題 大宮開成中学校 

 

*¹⁰ 2020 年度入試 ルーブリック評価型入試 千葉明徳中学校

https://chibameitoku.ac.jp/chuko/junior/admissions/rubric

2020 年度入試 ルーブリック評価型入試 自己 PR 活動シート  千葉明徳中学校

https://chibameitoku.ac.jp/chuko/quickcode/chuko/uploads/files/自己PR活動シート%20SDGsに挑戦.pdf

 

*¹¹ 2019年「湘南学園ESD入試」問題  湘南学園中学校 

https://www.shogak.ac.jp/highschool/files/2019/05/ESDexam_sample2019.pdf

 

【てら先生コラム】バックナンバーはこちらから

 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2111

 

 

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。