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2020年05月15日

【てら先生コラム】第26回:2020年度と2021年度の大学入学者選抜

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「2020年度と2021年度の大学入学者選抜」についてお届けします。

本記事の掲載内容は、本記事執筆時点の情報に基づいています。
記事をお読みいただく際は、十分ご留意の程よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

◆2020年度の大学入試センター試験

 

 2020年3月高等学校等新規卒業見込者は、1,057,018人から1,043,359人へと13,659人減少して、前年対比98.71%でした。*¹ 

 2020年度大学入試センター試験の高等学校等新規卒業見込者の出願数は、452,235人と、前年の 464,950人より12,715人減少しました(前年対比97.27%)。*¹ 高等学校等新規卒業見込者に占める大学入試センター試験への出願者の割合は43.99%から43.34%と低下しています。

 旺文社の調査*³ では、大学入試センター試験を課さない推薦入試合格者の前年対比は100%、私立大学の公募推薦入試の合格者数は前年対比111%、国公私立大学のAO入試合格者前年対比が102%ということですので、大学入試センター試験前に合格が決まった受験生が増加したことが理由にあると考えられます。

 

 

◆2020年度の国公立大学入学者選抜

 

 2020年度国公立大学の一般入試の志願者数は、前年の469,836人から30,271人減少し、439,565人の前年対比93.56%と、大きく減少しました。平均志願倍率も4.7倍から4.4倍へと低下し、志願者数、倍率とも大学入試センター試験の導入以来、最も低い数字となりました。*⁴

 

主な国公立大学の志願数

文部科学省「令和2年度国公立大学入学者選抜確定志願状況」及び

「平成31年度国公立大学入学者選抜確定志願状況」*⁴ より東京個別指導学院が作成

 2020年国公立大入試に影響を与えた要因として、あくまで推測ですが、①2021年度からの新大学入試制度への不安感 ②大学入試センター試験の難化 が挙げられます。

 ①について、2021年度から導入される大学入学共通テストでは、既卒者(2020年度高等学校卒業見込み生も該当)への別の問題を作成するなどの配慮はしない方針が大学入試センターより示されていました。*²¹ また、文部科学省からの2019年11月1日の大学入試英語成績提供システムの導入見送り発表、2019年12月17日の大学入学共通テストの記述式問題の導入見送り発表などの、大学入試改革の相次ぐ方針転換*²² もありました。

 このため、2021年度に再度国公立大学に挑戦することになれば大学入学共通テストを受けなければならない国公立大志望者は、“安全志向”となったと推測されます。旧帝大や一橋大学・東京工業大学の9大学はすべて前年より倍率低下しています。一方、公立諏訪東京理科大学のように、志願者が1369人から2870人と約2.1倍にもなった大学もあります。 *⁴

 ②は、2020年度の大学入試センター試験の平均点が低下したことです。「英語(筆記)」、「英語リスニング」、「数学Ⅰ・数学A」、「数学Ⅱ・数学B」、「国語」の全ての平均点が、前年を下回ったのは2009年以来なかったことです。*⁵

 

大学入試センター試験の平均点の推移

(赤は前年度よりも平均点が下降した科目)

大学入試センター 「センター試験志願者数・受験者数・平均点の推移」*⁵

より東京個別指導学院が作成

 

 また、この影響で、900点満点の自己採点結果平均点は、文系・理系とも昨年よりも大きく低下しました。大学入試センター試験(2020年1月17~18日実施)の受験者数は、2019年度の546,198人から2020年度は527,072人へと19,126人減少しましたが*²、大学入試センター試験の自己採点後に出願する(2020年1月27日~2月5日)国公立大学志願者は、それを上回る30,271人減少しています*⁴。このため、国公立大への出願をあきらめるか、1~2ランクダウンする弱気な出願となった可能性があるのです。

 

センター試験900点満点予想平均点の推移

データネット実行委員会 「センター試験900点満点予想平均点」*⁶

から東京個別指導学院が作成

 

 

◆2020年度の私立大学入学者選抜

 

 一方、私立大学はどのような入試だったのでしょうか。

 最終的に私立大の一般入試志願者数も7~8%減少という結果になりそうです。*⁷

 国公立大学と同様の①2021年度からの新大学入試制度への不安感 ②大学入試センター試験の難化 の他に、③大都市圏の大規模大学に対する「定員管理の厳格化」の影響が一部にあったと考えられます。

 ③の、大都市圏の大規模大学に対する「定員管理の厳格化」は、補助金が交付されなくなる定員超過率のラインが、大規模校(収容定員8千人以上)で「1.10倍」、中規模校(同4千人~8千人)で「1.20倍」に、2019年入試から据え置かれ*⁸、難関大学を中心として合格者絞り込みが緩和され、合格者が増加する大学も見られましたが、今度は中堅大学の志願者増・合格者数絞り込みによる難化傾向が、ここ数年みられました。

各大学発表の志願者数・合格者数から

東京個別指導学院が作成

 

 その結果、中堅大学・地元大学のAO・推薦入試といった特別選抜入試を利用して大学進学を決定した受験生が多かったことが考えられます。例えば、共栄大学国際経営学部では、AO入試で予想以上に多くの受験生からエントリーがあり、予定されていた【4期】~【10期】(エントリー期間10月15日以降)のAO入試の実施をとりやめました。*⁹

 そして、2020年度一般入試では、早慶上智・GMARCH・関関同立・日東駒専・産近甲龍といった大学群が大学群計では志願者を全て減らし、立教大学、法政大学や同志社大学などは志願者数減にもかかわらず*¹⁰、合格者数は増やしたため、「安全志向」の中で強気で受験した生徒にとっては、合格のチャンスが広がった入試でした。 

 

各大学群の志願者数の昨年対比

大学通信オンライン 「2020年 入学志願者速報」*¹⁰

をもとに東京個別指導学院が作成

 

 一方、千葉工業大学は、志願者を90,876人から103,269人へと約12,000人増やした*¹¹ ほか、拓殖大学、東京工科大学、高千穂大学、関東学院大学、神奈川工科大学、愛知学院大学、大和大学、九州産業大学などの地元大学では志願者数を増やし、厳しい入試となりました。

 

 

◆2021年度大学入学者選抜

 

 では、2021年度入試はどうなるのでしょうか。

 一般に、入試制度が変わる年の入学試験は「安全志向」が強まると言われています。

 2015年度入試は、新課程入試(2020年度の高校生が学んでいる課程)と言われ、理科と数学の出題内容が変わりました。2015年度は、2014年度よりも高等学校等卒業見込者が増加したにもかかわらず、大学入試センター試験志願者が減少しました*¹³ し、数学ⅡBの大学入試センター試験の平均点が39.31点(前年は53.94点)と大きく低下した*⁵ ことも影響してか、国公立大学志願者も減少しました。*¹² また、私立大学でも、私立大学専願者の「一般入試→推薦入試・AO入試」へのシフトや「センター利用入試」の志願者数が前年度入試よりも減少する傾向が見られました。*¹⁹

 2021年度入試では、大学入学共通テストが導入され、新しい入試制度が開始される予定ですので、2015年度と同様に、国公立大学志願者数減少や大学入学共通テスト志願者数減といった減少が生じる可能性もあります。また、私立大学でも、早めに合格を確保しようと、一般選抜→学校推薦型選抜・総合型選抜へのシフトや、「大学入学共通テスト利用入試」への志願者の減少の可能性があります。

 

 一方、新型コロナウイルスによる影響も考慮しなければなりません。感染拡大の沈静化の時期にもよりますが、経済の失速状況によっては、国公立大学志向が強まるかもしれません。2008年秋のリーマンショック後、不況の深刻化により、受験生に「安全志向」と「地元志向」が強まった結果、難関校を敬遠して志願先をランクダウンする出願傾向が見られました。

 経済面の影響が小さかった場合でも、高等学校などが休校した影響で一般選抜の出題範囲の学習が終わらなかったり、模擬試験の中止で志望校判定情報を得られなかったりなどの不安感からも、難関大学を敬遠し「安全志向」が強まる可能性があります。

 そして、萩生田文部科学大臣は4月17 日の会見で、「私案」ながら、2021年度の総合型選抜、学校推薦型選抜について募集時期を遅らせたい意向を示しました。*¹⁴

 試験日程の問題だけではなく、英検などの資格・検定試験の実施が中止となり*¹⁵、インターハイも中止が決まりましたし、97%の高等学校でも休校期間がある*¹⁶ことから、学習成績の状況(評定平均)のつけ方も例年通りにいかないと思われ、出願資格を含めた選抜内容の見直しが必要になってくる可能性があります。

 一般選抜での全ての入試方式で、英語資格・検定試験の活用を予告している上智大学では、今後、新型コロナウイルスの影響によって、入学試験実施(出願要件・試験日程・試験内容等)について変更する可能性があると表明しています。*¹⁷ また、福井大学や大分大学も新型コロナウイルス感染拡大の状況により、入試日程等が変更になる可能性について言及しています。*¹⁸

 

 

◆2021年度入学者選抜に向けて保護者のできること

 

 2021年度入学者選抜は、かつてない情報戦となります。新型コロナウイルスの影響によって、春のオープンキャンパスはどの大学も中止になっています。春だけではなく、東京大学や明治大学は、2020年実施予定だったオープンキャンパスの中止を発表 (当初、東京大学は2020年7月11~12日開催予定、明治大学は2020年8月18・19・22・23・24日開催予定)しました。*²⁰ しかし、多くの大学では、HPでWEBオープンキャンパスや説明会を実施しています。中には、事前に登録していなければ閲覧できないコンテンツもあるようなので、気になる大学は積極的にチェックしておくことをお勧めします。

 子どもが低学年のうちに参加した大学のオープンキャンパスの情報で、2年次までに志望校候補にしていた大学をそのまま志望校としている場合は特に注意が必要です。新大学入試制度下での入試要項の詳細の発表は、これから行われる大学が多いこともありますが、今般の状況により、当初発表されていた出願基準や入試日程等の変更の可能性もあるからです。

 また、奨学金や授業料減免等、経済支援策の情報の必要性が高まってきます。気になる大学のHPで該当部分をチェックしておくと良いでしょう。

 情報収集の面で、保護者だけで集めていくのは難しい場合もあるかもしれません。その際に信頼できる相談先として、学校の先生や塾の先生を確保しておくことも、保護者のできることです。

 

*¹ 令和2年度大学入試センター試験の志願者数について  大学入試センター  2020年1月16日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038037.pdf&n=%E5%BF%97%E9%A1%98%E8%80%85%E6%95%B0%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf

 

*² 令和2年度大学入試センター試験実施結果の概要   大学入試センター   2020年2月6日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038210.pdf&n=%E5%88%A5%E6%B7%BB2_%E5%AE%9F%E6%96%BD%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf

 

*³ 2020年度 推薦・AO入試結果速報   旺文社  2020年3月26日

https://passnavi.evidus.com/article/analyze/202004_02/

 

*⁴ 令和2年度国公立大学入学者選抜確定志願状況   文部科学省   2020年2月20日

https://www.mext.go.jp/content/20200220-mxt_daigakuc02-000005053_4.pdf

平成31年度国公立大学入学者選抜確定志願状況   文部科学省   2020年1月15日

https://www.mext.go.jp/content/20200115-mxt_kouhou02-000004083_1.pdf

 

*⁵ センター試験志願者数・受験者数・平均点の推移   大学入試センター 

https://www.dnc.ac.jp/center/suii/index.html

 

*⁶ データネット実行委員会 センター試験900点満点予想平均点   ベネッセコーポレーション/駿台予備学校

https://dn-sundai.benesse.ne.jp/dn/center/doukou/index.html#pg-expected-average-point

 

*⁷ 2020年度大学入試志願者数は減少でも10万人超えの大手は顕在「業務改革」で志願者増の大学も   大学ジャーナル   2020年3月12日

https://univ-journal.jp/column/202030849/

 

*⁸ 平成31年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について  文部科学省  2018年9月11日

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/002/002/__icsFiles/afieldfile/2018/09/19/1409177.pdf

 

*⁹ 【国際経営学部】AO入試についての重要なお知らせ   共栄大学   2019年10月30日

https://www.kyoei.ac.jp/news/admission/2019/10301044.html

 

*¹⁰ 2020年 入学志願者速報  大学通信オンライン 

https://univ-online.com/exam/

 

*¹¹ 2020年度入学試験志願者数  千葉工業大学

https://www.it-chiba.ac.jp/admissions/nyushi/ippan/report-77561/

 

*¹² 平成27年度国公立大学入学者選抜確定志願状況  文部科学省  2015年2月19日

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/02/__icsFiles/afieldfile/2015/02/19/1355340_01.pdf

 

*¹³ 平成27年度大学入試センター試験の志願者数(確定)について   大学入試センター  2015年1月13日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00004641.pdf&n=%E5%BF%97%E9%A1%98%E8%80%85%E6%95%B0%EF%BC%88%E7%A2%BA%E5%AE%9A%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf

 

*¹⁴ 萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年4月17日)  文部科学省

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00054.html

 

*¹⁵ 日本英語検定協会  2020年4月27日

https://www.eiken.or.jp/s-cbt/info/2020/0427_03.html

https://www.eiken.or.jp/cbt/info/2020/0427_03.html

 

*¹⁶ 新型コロナウイルス感染症対策のための学校における臨時休業の実施状況について  文部科学省  2020年4月22日時点

https://www.mext.go.jp/content/20200424-mxt_kouhou01-000004520_8.pdf

 

*¹⁷ 上智大学 2020年4月22日時点

https://www.sophia.ac.jp/jpn/admissions/gakubu_ad/ippansenbatsu_gaiyou.html

 

*¹⁸ 

福井大学

https://www.u-fukui.ac.jp/user_admission/examination/essential_point/

大分大学  2020年4月28日更新

https://www.oita-u.ac.jp/06nyushi/coronataiou-matome.html

 

*¹⁹ 旺文社 教育情報センター  2015年5月

http://eic.obunsha.co.jp/analysis/201505/

 

*²⁰ 

東京大学   2020年4月7日

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137648.pdf

明治大学   2020年4月28日更新

https://www.meiji.ac.jp/exam/event/opencampus/index.html

 

*²¹  令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針  大学入試センター  2020年1月29日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038189.pdf&n=%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%93%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E5%AD%A6%E8%80%85%E9%81%B8%E6%8A%9C%E3%81%AB%E4%BF%82%E3%82%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E5%AD%A6%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E5%95%8F%E9%A1%8C%E4%BD%9C%E6%88%90%E6%96%B9%E9%87%9D%EF%BC%88%E4%BB%A4%E5%92%8C2%E5%B9%B41%E6%9C%8829%E6%97%A5%E4%B8%80%E9%83%A8%E5%A4%89%E6%9B%B4%EF%BC%89.pdf

 

*²²  文部科学省 

萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和元年12月17日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1422393.htm

萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和元年11月1日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1423073_00001.htm

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~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。