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2019年07月16日

【てら先生コラム】第17回:自己肯定感

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「自己肯定感」についてお届けします。

 多くの保護者は、「頑張って!」「あなたはやればきっとできる!」と、子どもの力を信じ、応援する気持ちで子どもに接していると思います。しかし、保護者の中には、願い通りに子どもが動いてくれないと悩まれる方も少なからずいらっしゃると思います。前回のコラム*¹ では、自己効力感について述べました。今回は自己肯定感について述べたいと思います。

◇自己肯定感とは何か

 

 自己肯定感とは、研究者によって定義が異なりますが、概ね、「自分に対して前向きで、好ましく思うような態度や感情(田中,2008)」*²を指します。この自己肯定感は、自分の良いところも至らないところも受けとめ、良い点も悪い点も含めてどんな自分も受け入れている理屈抜きの無条件な感情です。自分の長所だけではなく短所を含めた自分らしさや個性を受け止めることで、この自己肯定感は身につけることができます。

 

 教育再生実行会議第十次提言には、『親から理解されている、愛されているという感覚を持っている子供は自己肯定感が高い』『乳児期における絶対的な自己肯定感の育成には、保護者又は保護者に代わる存在から愛情を受けることが必要不可欠である』との記述がなされています。*³ 絶対的な自己肯定感の育成に必要不可欠とされる保護者等からの愛情は、「▲▲をすることができたら愛する」「偏差値〇〇以上だから愛する」といった、何らかの条件付きの愛情ではありません。その子どもがどのような存在であれ、ありのままを無条件に受け止め、受け容れるという意味での愛情を指しているのです。保護者などから愛情を受け、自分が無条件に他者から受け容れられているという経験を積み重ねていく中で、子どもが自らの全存在を肯定していくことで育まれる感情が自己肯定感なのです。ですから、無条件の愛をどれだけたくさん注がれたかが、自己肯定感に最も影響するといわれているのです。*⁴

◇自己肯定感の高低と子どもの様子

 

 教室で、子どもたちの様子を見ていると、自己肯定感が高そうな子どもと低そうな子どもがわかります。

自己肯定感が高い子どもは、褒められた時には素直に喜んだり感謝してくれたりしますが、自己肯定感が低い子どもは褒められた時にも、素直に喜べず、何か目的があっておだてているだけでは?と感じてしまう場合もあるようです。

 

 叱られた時はどうでしょう。自己肯定感の高い子どもは、ミスを素直に認めますが、あまり落ち込みません。むしろ、より自分を高めるための機会として捉える傾向があります。これに対して、自己肯定感が低い子どもは、自分はダメな人間だと感じ、必要以上に落ち込んでしまったり、先生に嫌われているのでは?と不安感にさいなまれてしまったりすることもあるようです。

◇日本の子どもの自己肯定感

 

 2015年に独立行政法人国立青少年教育振興機構が、日本を含めた4カ国(アメリカ、中国、韓国)の高校生を対象とした意識調査「高校生の生活と意識に関する調査」を発表しました。*⁵ 今の日本の若者が自分自身をどう捉えているかについて、調査しています。

 

 それによると、「自分には人並みの能力があると思うか」の質問に対して、「そう思う」と回答した者は、日本以外の3か国は68~89%だったのに対して、日本は56%にとどまり、最も低い結果でした。反対に「自分はダメな人間だと思うことがあるか?」の質問に対して、「そう思う」と回答した者は、日本以外の3か国は36~56%だったのに対して、日本は73%にものぼり、最も高い結果でした。

 

 また、2014年に、同じく独立行政法人国立青少年教育振興機構が、実施した調査*⁶ によると、自己肯定感の高い子どもの割合は、小学4年生で61%、小学5年生で57%、小学6年生で55%、中学2年生で33%、高校2年生で28%となっており、日本の子どもの「自己肯定感」は、年齢が上がるにつれて低くなっていることがわかっています。

◇自己肯定感と学校教育・入試

 

 このように、様々な調査から、日本の子どもたちの自己肯定感が他国の子どもたちに比べて低いという調査結果が示されている中で、2017年6月1日の教育再生実行会議で、国は子どもたちの自己肯定感を高めるために、『各学校において主体的・対話的で深い学びを視点とした授業改善などに係る様々な取り組みを行う中で、自己肯定感を高めていくための取り組みを推進する』(第十次提言)*³としています。

 

 2020年度から小学校で実施される新しい学習指導要領でも、知識・技能を身につけるだけでなく、それらを自分らしく、自在に活用して様々な問題解決に役立てる力を新しい時代に必要となる「資質・能力」としており、そのために必要な学びのあり方を「主体的・対話的で深い学び」としています。*⁷

 

 これまでのように、先生が一方的に説明し、生徒達がそれを受け身で聞く授業から、生徒が能動的に学習に取り組む授業に学校での教育も変わっていきます。そして、2021年度大学入学者選抜からは、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価するものへと改善することが予告されています。*⁸ 特に「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」は、自己肯定感や(前回ご紹介した)自己効力感が高い子どもの方が伸びるといわれています。

*¹⁰ 学習指導要領改訂の方向性(案) 平成28年7月7日教育課程部会総則評価特別部会資料 を参考に、東京個別指導学院が加筆し作成

◇自己肯定感と自己効力感

 

 自己肯定感と自己効力感は、似ている言葉ですが、違いがあります。前回ご紹介した自己効力感は、先に述べたように、「成績が上がったから」「〇▽ができるから」といった条件付きの承認がもとになっています(条件付きの愛)。これに対して、自己肯定感は、身近な人の無条件の承認がもとになっています(理屈抜きの愛)。

 

 そして、安定した自己肯定の土台の上に、「やればできる」という気持ち(自己効力感)が乗っている状態が理想的な状態*⁹ なのですが、そのような子どもばかりではありません。

 

 自己効力感が高くても、自己肯定感が低ければ、何かを達成することで自信をつけようとするが、自己肯定感が少ないので、「いままでは良い点がとれていたけれど、次回のテストで良い点数がとれなかったらどうしよう」と失敗におびえたり、小さな失敗でも自信喪失してしまったりしがちです。反対に、自己肯定感が高くても自己効力感が低い子どもは、自分の存在を認める気持ちが大きく、根拠のない自信を持っているので、失敗してもそれが成長へのきっかけにならないことが多いようです。裏付けもないまま「自分は大丈夫」と感じているので、現状維持を続けがちになります。それは、その子どもの成長の停滞や衰退を生む可能性すらあります。

東京個別指導学院が作成

◇ご家庭ですべきこと

 

 先に述べましたように、自己肯定感は、周囲の人たちなどから愛情を受け、自分が無条件に他者から受け容れられているという経験を積み重ねていく中で、子どもが自らの全存在を肯定していくことで育まれる感情です。子どもに最も無条件に愛情を注ぐことができるのは、子どもの家族、とりわけ保護者ではないでしょうか。

 

 そこで、保護者の関わり方のポイントについて、まとめてみました。

【1】どんなときでも味方であることを伝える

 

 子どもは、勉強やスポーツなどで思うようにできず、うまくいかないことや子ども同士の人間関係で悩んでしまうこともあります。そのような場合に、保護者は決して頭ごなしに子どもが悪いと決めつけたり、否定したりしないことが大切です。まずは、子どもの話をよく聞いてみましょう。

 

 そして、子どもがうまくいかないときでも、いつも子どもの味方であることを伝えましょう。子どもが良いことをしたとき成功したときだけでなく、失敗したり困っていたりするときでも、どんなときも味方であることがしっかり伝わるようにしましょう。長所も短所も含めて存在そのものを認めることで、子どもは無条件の愛情で受け入れられていることを感じとるでしょう。

【2】子どもの話は真剣に聞く

 

 子どもが何か話したがっているときは、途中で口をはさんだり否定したりせずに、最後まできちんと話を聞くことが大切です。保護者が子どもの話を真剣に聞く姿勢を積み重ねていくと、子どもは無条件に受け入れられていると実感できます。保護者がどうしても、その場で真剣に聞く時間が取れないときは、「明日学校から帰ってきたら是非聞かせて欲しいな。あなたの都合はどう?」などと、約束をしましょう。

【3】子どもの言い分を聞いて、認めるべき点は認めてから叱る

 

 叱るときは、まず子どもの言い分を真剣に聞いて、認めるべき点が認めてあげてから、叱るようにしましょう。そうすることで、子どもにも伝わるように愛情をこめて叱ることができるようになるでしょう。この順番が反対になってしまうと、子どもが自分は不要な人間だと思ってしまったり、愛されているという実感も持てなくなったりします。

【4】挑戦する前から失敗すると決めつけない

 

 失敗したときに子どもが傷つかないようにという親心のあまり、「どうせ無理よ」「失敗するに決まっている」などと言って予防線を張ってしまう保護者もいます。子どもを思っての発言なのですが、子どもは「自分は信頼されていない」と感じてしまうため、自己肯定感の低い子どもにしてしまいかねません。子どもが何かに挑戦しようとしているときは、はじめから「失敗する」と決めつけず、「あなたが決めたことならば、応援する」といったように、あたたかく見守ってあげましょう。

 

【1】~【4】は、なかなか実際に行動に移すのは難しいと感じる保護者もいらっしゃるかもしれません。しかし、以下は、今日からでもできるのではないでしょうか。

【5】感謝の言葉を発し態度で表す

 

 ささいなことであっても「ありがとう」と感謝の言葉を発し態度で表すことで、子どもは自分が必要とされていると感じることができます。感謝とは、あなたがいてくれて良かったということですから、自分に存在価値があるとも感じるようになるのです。「伝わっているだろう」ではなく口に出して(言語化して)、子どもに伝わるようにすることが大切です。片付けやごみ出しを手伝ってくれた時だけではなく、「ごはんを美味しそうに食べてくれてありがとう」「弁当を残さず食べてくれてありがとう」「遅刻せずに学校に行ってくれてありがとう」「おはよう!と挨拶をしてくれてありがとう」など、日常生活の中には、「ありがとう」を言う場面はたくさんあるのです。

 

 自己肯定感を高める「あなたがいてくれて良かった!ありがとう」を、今日から始めてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

*¹ 【てら先生コラム】第16回:「結果期待」と「効力期待」

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2595

 

*² 田中道弘(2008).Rosenbergの自尊心尺度をめぐる問題と自己肯定感尺度の作成と項目の検討 常磐大学博士学位請求論文
      田中道弘(2008)自尊感情における社会性、自尊感情形成に際しての基準 ― 自己肯定感尺度の新たな可能性 下斗米淳(編)自己心理学6社会心理学へのアプローチ 金子書房 pp.27-45

 

*³ 「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上」(第十次提言)(平成29年6月1日)17p

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai10_1.pdf

「自分の親から愛されていると思う」「(親が)自分のことをよく理解してくれる」という項目と、自己肯定感との 相関が強い「長所」 「家庭生活への満足度」という項目の間には強い相関があることが示されている(平成 25 年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(内閣府)

https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 

*⁴ 『成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか』 ポール・タフ (著), 高山真由美 (翻訳) 英治出版

 

*⁵ 第38回教育再生実行会議(平成28年10月28日)の参考資料 出典 平成27年(独)国立青少年教育振興機構「高校生の生活と意識に関する調査」

http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/98/

 

*⁶ 平成26年「青少年の体験活動等に関する実態調査」(独)国立青少年教育振興機構 

http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

 

*⁷ 新しい学習指導要領の考え方(文部科学省)

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf

 

*⁸ 平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告(文部科学省)

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/07/__icsFiles/afieldfile/2017/07/18/1388089_002_1.pdf

 

*⁹ 自己評価の心理学-なぜあの人は自分に自信があるのか クリストフ・アンドレ/フランソワ・ルロール (著) 高野優(翻訳) 紀伊国屋書店

 

*¹⁰ 学習指導要領改訂の方向性(案)平成28年7月7日教育課程部会総則評価特別部会資料

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/061/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/20/1374453_1.pdf

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。