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2019年10月01日

【教育改革】第20回:早稲田大学の指定校制推薦入試変更にみる大学入試改革の方向性

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第20回目は「早稲田大学の指定校制推薦入試変更にみる大学入試改革の方向性」をお届けします。

本記事の掲載内容は、本記事執筆時点の情報に基づいています。

記事をお読みいただく際は上記を十分にご留意いただき、

入試制度関する最新の情報は、大学のWebサイト等ご確認いただきますよう、

お願い申し上げます。

 

 

 早稲田大学は、「早稲田大学で学びたいという高い勉学意欲と知的好奇心、および入学時点で最低限必要となる⽔準の知識・技能の有無を確認する」という方針に基づき、”2021 年度入学者を対象とした指定校制推薦入試から、『大学入学共通テスト』の英語、国語、数学(I・A)の受験を必須化する”と9月6日に発表しました。*¹

 

 早稲田大学では現在、指定校制推薦入試を社会科学部とスポーツ科学部を除いた、政治経済学部・法学部・文化構想学部・文学部・教育学部・商学部・基幹理⼯学部・創造理⼯学部・先進理⼯学部・⼈間科学部・国際教養学部の11学部で実施しています。このうち、国際教養学部は、英語資格・検定試験、英語での面接、志望理由書で合否を判断するため、『大学入学共通テスト』の受験は必要としませんので、10学部が『大学入学共通テスト』を必須とした指定校制推薦入試を実施する予定なのです。但し、『大学入学共通テスト』の成績は入学手続の一環として提出を求めるもので、合否には影響しません。

 ◇今回の発表は文部科学省の大学入試制度改革に沿っている

 

 文部科学省の「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」*²には、現在のAO入試や推薦入試の課題として、「一部のAO入試や推薦入試について、「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」を問わない性格のものとして受け取られ、本来の趣旨・目的に沿ったものとなっていない面があり、入学後の大学教育に円滑につなげられていないとの問題も指摘されている」と記載されています。

 

さらに、<推薦入試の課題の改善> の中で、

 

 ”大学教育を受けるために必要な「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を適切に評価するため、実施要項上の「原則として学力検査を免除し」との記載を削除し、調査書・推薦書等の出願書類だけでなく、各大学が実施する評価方法等(例えば、自らの考えに基づき論を立てて記述させる評価方法(小論文等)、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目に係るテスト、資格・検定試験の成績など)又は「大学入学共通テスト」のうち、少なくともいずれか一つの活用を必須化する”

 

としています。今回の早稲田大学の発表は、この方針に沿ったものであるといえます。

◇理系学部でも「国語」、文系学部でも「数学」の受験が必須に

 

 また、基幹理⼯学部・創造理⼯学部・先進理⼯学部といった理科系の学部では、『大学入学共通テスト』の「国語」の受験を課し、文学部や文化構想学部といった文科系の学部には、『大学入学共通テスト』の「数学」も必須化していることが注目されます。文部科学省の『Society 5.0 に向けた人材育成』 *³では「高等学校や大学において文系・理系に分かれ、特定の教科や分野について十分に学習しない傾向にある実態を改め、文理両方を学ぶ人材を育成するよう、高等学校改革と大学改革、高等学校と大学をつなぐ高大接続改革を進める必要がある」という方向性にも沿った入試改革であると言えます。子どもたちが実社会に出ていく頃には、AIに代替されない人間の強みを発揮するための基盤として、文章や情報を正確に理解し、論理的思考を行うための読解力や、他者と協働して思考・判断・表現を深める対話力等の社会的スキルなど、読み解き対話する力が必要です。 また、科学的に思考・吟味し活用する力が不可欠となるでしょう。それらの力の前提の国語・数学・英語の学力の基礎をつけて入学してきてほしいという大学からのメッセージが、今回の発表に込められているように感じます。

 

 早稲田大学では2019年度の指定校制推薦入試で1,500名以上の募集を行いました(2019年度指定校推薦の合格者は1,559名)。*⁴ 日本を代表する私立大学である早稲田大学のこの発表により、同様の方針を打ち出す大学が出てくる可能性があります。英語資格・検定試験結果を活用した一般入試が難関大学を中心に始まり、上位大学・中堅大学へと年々広がっていったように、難関といわれる大学から学校推薦型選抜の改革が進められる可能性があるのです。これからは、「私立文系志望だから数学や理科を学習しない」「私立理系志望だから国語や地歴・公民を学習しない」といった考え方では、難関大学への合格が難しくなってくる時代がもうすぐやって来るように思います。

◇受験勉強の終了時期が遅くなる

 

 指定校制推薦入試に向いている生徒は、志望大をめざす強い意思と意欲があることが前提で、日々の高校での授業を大切にして、高校での定期試験で1年生の時からコツコツと好成績をあげて、まんべんなく評定が高く、生活態度がよく積極的に高校で活動している生徒です。

 

 指定校制推薦入試では、概ね、10月までに高校内での選抜を行い、11月までに出願し、11~12月に合格発表が行われていますが、出願することになった場合、ほぼ100%合格するため、10月には受験から解放され、勉強に対する気持ちが楽になってしまう生徒が多いように思います。早稲田大学の2021年度入学者に対する指定校制推薦入試日程は、「概ね現⾏通り」とするということですが、『大学入学共通テスト』受験が必須となったために、『大学入学共通テスト』の成績は合否には影響しないとはいえ、1月中旬(2021年度入学者の場合は1月16・17日)に実施される『大学入学共通テスト』終了までは、受験が終わらないということになります。

◇保護者のできることは何か

 

 これからは、推薦入試(2021年度入学者選抜からは『学校推薦型選』)を希望する生徒は「学校の定期試験だけ頑張り、評定平均をあげれば良い」、AO入試(2021年度入学者選抜からは『総合型選抜』)を希望する生徒は「得意な活動だけ頑張れば良い」という姿勢では新しい大学入試には対応できなくなるでしょう。どのような入試方式でも対応できるように、子どもが「定期試験さえ頑張ればよい」「受験に必要な科目の入学試験対策だけ頑張ればよい」「生徒会活動や部活動などだけを頑張ればよい」といった偏った学習姿勢になっていないかどうか目を配り、その兆候がみられたら子どもとコミュニケーションをとっていくような対応が必要でしょう。

 

 また、早稲田大学の今回の発表のように、理系学部でも「国語」、文系学部でも「数学」を「大学入学共通テスト」で受験することが必要になる私立大学も出てくるでしょう。現状では高校3年生の履修科目は、文系を選んだ場合は「数学」、理系を選んだ場合は「古典B」は必修科目や必修選択科目ではなく、自由選択科目となっている場合が多いようです。

 

 今後、各大学から発表される入試情報を大学HPなどから積極的に収集して、次学年に高校で履修する選択科目の検討に注意を払っておく必要があります。また、学校で履修しない場合は、どのような方法で学習することができるのかを検討しておくことも大切です。

 

 

 

 

*¹ 早稲田大学 『2021年度 指定校推薦入試における 「大学入学共通テスト」の受験必須化について』

https://www.waseda.jp/inst/admission/assets/uploads/2019/09/2021ad_change3.pdf

 

*² 文部科学省 『平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告』

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/07/__icsFiles/afieldfile/2017/07/18/1388089_002_1.pdf

 

*³ 『Society 5.0 に向けた人材育成 ~ 社会が変わる、学びが変わる ~』2018年6月5日  文部科学省 Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会 新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405844_002.pdf

 

*⁴ 早稲田大学 学部入学案内 187p

https://www.waseda.jp/nyusi/ebro/ug/admissions_jp_2019/html5.html#page=191

https://www.waseda.jp/inst/admission/assets/uploads/2019/07/2019_AO.pdf

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 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110