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2020年04月01日

【教育改革】第25回:新学習指導要領での中学英語

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第25回目は新学習指導要領での中学英語をお届けします。

 新しい学習指導要領に基づく学校教育が、小学校で2020年の4月から始まりました。次いで中学校が2021年度、高等学校が2022年度に始まります。

 小学校では、外国語(『英語』)の教科化やプログラミング教育の必修化、高等学校では『公共』『歴史総合』『地理総合』『探究』『情報』といった新しい科目が加わり、報道される機会が多いのですが、今回は、中学校での英語についてみてみたいと思います。

 

 

◆四技能五領域の指導へ 

 

 中学校での外国語(『英語』)はコミュニケーション能力の基礎を養い、身近な話題について理解し、簡単な情報交換や表現ができる能力を養うのが目的です。

 これまでの学習指導要領では、『読むこと』『聞くこと』『書くこと』『話すこと』の四技能の学習内容でしたが、新しい学習指導要領では、『話すこと』が、『話すこと[やり取り]』と『話すこと[発表]』に細分化され、四技能五領域の学習となります。*¹

 これまでも、中学校の授業では『話すこと』として、スピーチやプレゼンテーションといった、あらかじめ話す内容を考え、整理し、英文にして、練習して発表するような活動はしばしば行われてきました。今回の新しい学習指導要領の解説*²では、“互いの考えや気持ちなどを伝え合う対話的な言語活動を一層重視する観点から、『話すこと[やり取り]』の領域を設定”したとあります。確かに、実際のコミュニケーションの場面においては、情報や考えなどを送り手と受け手が即座にやり取りすることが多く、英文を頭の中で組み立てる時間を長く取れません。

 学習指導要領の『話すこと[やり取り]』の目標として“関心のある事柄について、簡単な語句や文を用いて即興で伝え合うことができるようにする。”とあり、ニュース記事について自分の意見を発表したり、仲間の意見を聞いたり、その場で質問をしたり、質問に答えたりするような授業が、学校でも増えてくるでしょう。ですから、話す内容をあらかじめ考えおき、練習したり暗記したりした上でならば話せるということでは不十分ということになります。

 

 

◆学ぶ語彙数が増え、高等学校で学んできた文法事項の一部を中学校で学ぶことになる

 

 そして、五つの領域別の目標を達成するための言語活動に必要な語数は、1600~1800語程度と定められました。小学校で学習する単語*³を合わせると2200~2500程度の単語を学ぶことになります。旧学習指導要領では中学校で1200語でしたから、大幅な増加といえます。

 また、表現をより適切でより豊かにする目的で、これまでは高等学校の教育課程で学習していた現在完了進行形や仮定法、原形不定詞、直接目的語に節を取る第4文型といった文法事項が中学校に加わります。

 

 

小学校から高等学校における新旧学習指導要領での目標単語数の比較

学習指導要領をもとに東京個別指導学院が作成

◆授業は英語で行うことが基本となる

 

 さらに、“生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする”の一文が入りました。

 これは、子どもたちが授業の中で英語に触れる機会を極力確保することと、授業全体を英語を使った“実際のコミュニケーションの場面”とすることとを狙いとしています。“授業は英語で行うことを基本とする”は、子どもたちが日常生活において英語に触れる機会が限られていることを踏まえ、英語による言語活動を行うことを授業の中心にしようとしているのです。

 「全て英語で行うようなALL ENGLISHの授業を受けて、我が子が理解できるのか心配だ」との質問を保護者の方から受けることがあります。

 既に英語の授業を英語で行っている公立中学校の授業を見学したことがありますが、子どもたちが分かるように、使う語句や文などをより平易なものに言い直したり、繰り返したり具体的な例を挙げたり、聞き取りやすい発音や速度で話しかけるなどの様々な工夫がなされています。学習指導要領にも“生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにする”と書かれており、習ったこともない語彙を用いて指導することはありません。

 また、英語の授業時間内は一言も日本語を使用してはならないと学習指導要領に定められているのではありません。授業を英語で行うことを基本としている学校でも、授業の中で時折日本語を交えて実施している学校や1週間のうち一部の授業は日本語も使用している学校もあります。学習指導要領解説にも、“必要に応じて補助的に日本語を用いることも考えられる”と書かれていますので、必ずしも「ALL ENGLISH」の授業とはならないようです。

 

 

◆中学校での英語指導の現状

 

 “授業は英語で行うことを基本とする”の実現のためには、必要な意味内容をいかに英語で伝えることができるかを考えて英語教師が授業を工夫改善する必要があります。現状はどうなっているのでしょうか。

 平成30年度 英語教育実施状況調査(中学校)の結果*⁴ をみると、英語担当教師のうち、CEFR B2レベル(英検準1級)相当以上のスコア等を取得している教師は全体の36.2%にとどまっています。この調査結果は都道府県別・政令指定都市別にも発表されており*⁵、同割合は、福井県・東京都・沖縄県では50%以上が該当しますが、岩手県は16.4%と地域によって随分差異があります。

 授業の状況をみると、公立中学校で授業中に、概ね(75%程度以上)言語活動を生徒同士が行っている割合は、中学校1年生で27.6%、中学校2年生で24.9%、中学校3年生で25.1%です。この割合は、地域別にみると中学校1年生では、さいたま市は44.0%ですが岡山市では11.0%となっています。

 また、授業における英語担当教師の英語使用状況をみてみると、概ね(75%以上)英語で発話を行っている割合は、中学校1年生で18.0%、中学校2年生で17.2%、中学校3年生で17.7%にとどまっています。この割合は、中学校1年生で、横浜市は33.2%であるのに対して、大阪市は3.9%と、地域によって差異が大きいのが現状です。

 この調査は2018年の12月に実施されたもので、中学校での新学習指導要領開始までは2年数ヶ月あるものの、新学習指導要領開始当初は、どの地域でどのような先生に習うのかによって、英語の授業内容に違いが出てくるかもしれません。

 

 

◆保護者のできること

 

以上のような状況を踏まえて、保護者の出来ることは4点あります。

 

❶既習事項の確認を早めに行う

 中学校の教科書は2021年に改訂になり、2020年度の中学校2年生が中学校3年生になった2021年に、新しい学習指導要領で学びます。その時に使用する教科書は以前の語彙数より増えている教科書になります。そして、高校受験を迎えることになるのです。

 また、2020年度の中学校1年生は中学校2年生になった時から、新しい学習指導要領の教科書で学びます。

 新しい学習指導要領では、学ぶ語彙数や文法事項も増加していますから、学習内容が急に難しくなったと感じる子どもが増える可能性があります。英語は既習事項をもとに学習を積み重ねていく教科です。既習事項の定着度を把握するために、子どもに塾で模擬試験を受験させたり、問題集のまとめの問題を解かせてみたりすることを、新学年を迎えるこの時期にお勧めします。その結果、心配な点があれば、学校や塾の先生に相談しておくことをお勧めします。

 

❷学校での取り組みを確認し、不安があれば対策をとる

 中学校の学習指導要領では、“即興で”話すことができるようになることが求められています。興味・関心のある事柄であれば、既習の知識や技能を生かしてその場で話せるようになる必要があります。即興で話す力については簡単に身に付くものではありません。しかし、学校での取り組みは地域間や教員間で差異が出る可能性があるでしょう。まずは、子どもが通う学校でどのような指導が行われているのか、子どもに聞いてみたり、学校の公開授業を見学してみたりして、確認することをお勧めします。

 そして、学校での取り組みに不安があれば、子どもが興味・関心をもっている事柄の英語動画をYouTubeなどで一緒に視聴し、ご家庭で英語を使って話してみたり、英会話学校やインターネットを使った英語講座を受講させてみたり、英語資格・検定試験の受験を勧めたりといった、子どもたちが日常生活において英語に触れ、英語を使う機会を創出することも必要でしょう。

 

❸完璧ではなくても、上達しているところがあれば褒める

 “授業は英語で行うことを基本とする”指導スタイルに変わり、即興で自分の考えや気持ちを表現することが重視されることについて、「ウチの子には出来るはずがない」「レベルが高すぎる」「間違えてばかりになってしまうのではないか」と不安に思う保護者もいるかもしれません。しかし、言語の学習では、初めは出来なくて当たり前ですし、表現に誤りがあることも普通です。継続的に学んでいくことで上達していくものです。それは、子どもが日本語を上達させていく過程を間近で見守っていた保護者には、よくお解りのことではないでしょうか。「ウチの子には無理だ」と決めつけてしまうことは、子どもの可能性を低く見積もってしまうことに繋がります。まず、保護者が「ウチの子は出来るようになる」と、子どもの可能性を信じることが第一歩です。そして、以前よりも上達しているところがないかどうか探してみましょう。成長が感じられる面があれば、その点を褒めましょう。そのようなご家庭での接し方が、自分の考えや気持ちを臆せずに伝えようとする姿勢を醸成します。

 

❹情報収集と相談先の確保

 また、東京都では2020年度の中学校2年生からは都立高等学校入学者選抜でスピーキングテストの導入が予定されています*⁶。そして、この学年の子どもたちが高等学校での新しい学習指導要領で初めて学ぶことになり、大学受験を迎える時から、大学入試における新しい英語の試験が導入される予定です*⁷。その内容は2019年11月から1年を目途に検討、結論を出すとされており、今後の情報収集が重要になります。文部科学省や教育委員会から発信される情報をインターネットなどでチェックしたり、学校の先生や塾の先生などから信頼できる質問先を確保したりしておくことも保護者のできることです。

 

 今回取り上げた英語は、高等学校に進学しても引き続き学ぶ教科です。その高等学校でも新学習指導要領では学ぶ語彙数は増えます。また、高等学校は“授業は英語で行うことを基本とする”指導スタイルに既になっています。ですから、上記4点を参考にして、取り組めるところから対策をとっていくことは、高等学校での英語学習の対策にも繋がっていくのです。

 

 

*¹ 中学校学習指導要領(平成29年告示) 文部科学省  2017年3月告示

https://www.mext.go.jp/content/1413522_002.pdf

 

*² 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編  文部科学省  2017年7月告示

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_010.pdf

 

*³ 小学校学習指導要領(平成29年告示)  文部科学省  2017年3月告示

https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf

 

*⁴ 平成30年度 英語教育実施状況調査(中学校)の結果  文部科学省 

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415043_03_1.pdf

 

*⁵ 平成30年度 英語教育実施状況調査の結果  都道府県・指定都市別  文部科学省 

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415043_05_1.pdf

平成30年度 中学校等における英語教育実施状況調査 【集計結果】  文部科学省

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415043_08_1.pdf

 

*⁶ 「東京都中学校英語スピーキングテスト」について  東京都 教育庁  2019年02月14日

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/02/14/12.html

 

*⁷ 萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和元年11月1日)「大学入試英語成績提供システム」の導入の延期  文部科学省  2019年11月1日

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1422393.htm

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 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110