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PICK UP 一覧に戻る2020年07月01日
【教育改革】第28回:GIGAスクール構想と新型コロナウイルス禍
教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第28回目は「GIGAスクール構想と新型コロナウイルス禍」をお届けします。
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◆GIGAスクール構想とは
2020年4月7日、萩生田文部科学大臣は記者会見*¹で、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を受け、GIGAスクール構想を早期実現するための支援などを積極的に推進すると表明しました。GIGAスクール構想とは、『1人1台端末及び高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとともに、並行してクラウド活用推進、ICT機器の整備調達体制の構築、利活用優良事例の普及、利活用のPDCAサイクル徹底等を進めることで、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる』構想です*²。ここでのGIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略で、gigabyteのように内蔵メモリなど記憶媒体の容量やファイルサイズなど、基礎となる単位の10⁹(=十億)倍の量であることを示す単位の接頭辞gigaとは意味が異なります。
Society 5.0 *³における教育を見据えた条件整備は欠かせないものです。AI やビッグデータ等の先端技術が、教育の質の向上に影響を与えることを見据え、ICT 環境や新たな教育ニーズに対応できる学校施設など次世代の教育インフラを充実していく必要があると、2018年6月に文部科学省は『Society 5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会』のまとめとして、『Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~』*⁴で、ICT環境の整備や利活用の必要性に言及しています。
また、同じ『Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~』では、“技術の発達を背景として、Society 5.0 における学校は、一斉一律の授業スタイルの限界から抜け出し、読解力等の基盤的学力を確実に習得させつつ、個人の進度や能力、関心に応じた学びの場となることが可能となる。また、同一学年での学習に加えて、学習履歴や学習到達度、学習課題に応じた異年齢・異学年集団での協働学習も広げていくことができるだろう”と記しています。これらを持続的に実現させる構想がGIGAスクール構想なのです。
◆全国の公立学校のICT環境整備の現状
しかし、2019年3月時点での全国の公立学校のICT環境整備の現状*⁵は、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数が5.4人、普通教室の無線LAN整備率 41.0%、100Mbps以上のインターネット接続率が70.3%、普通教室での電子黒板、大型ディスプレイやプロジェクターなど大型提示装置の整備率が52.2%でした。教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数を都道府県別でみると、佐賀県では1.9人/台であったのに対して、愛知県は7.5人/台と、大きな差がありました。また、渋谷区は1人1台を実現していますが、練馬区では14人に1台と同じ東京都内でも大きな差がありました。*⁶ 私立学校間でも、1人1台の情報端末での教育がすでに行われている学校から導入ペースがゆっくりしている学校まで様々な状況でした。
そこで、文部科学省は2019年度補正予算*⁷で、1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想の実現」に2,318億円を計上して、学校での高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進し、義務教育段階では、2023年度までに、全学年の児童生徒ひとりひとりがそれぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指したのでした。
◆新型コロナウイルス禍で露呈した学校間格差とGIGAスクール構想の進展
そんな矢先の2020年の春に、新型コロナウイルス感染症の影響で臨時休校措置が長引き、オンライン授業への注目が急速に集まりました。そこで明らかになったのは、地域間や学校間での学校休業中の対応の格差です。
文部科学省の調査*⁸によると、2020年4月16日時点で、臨時休業中に「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」は回答した公立学校(教育委員会)全てが実施したのに対して、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」を実施した公立学校(設置者)は、回答数の5%にとどまりました。「教育委員会が独自に作成した授業動画を活用した家庭学習」は回答数の10%、「デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習」は回答数の29%ありましたが、複数回答のため、「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」以外の家庭学習の導入に積極的ではないところと、出来ることから積極的に取り入れたところに分かれたようです。*⁹ 同じ東京都立高等学校でも、生徒の情報端末を利用してZoomやYouTubeなどによる授業を、原則時間割に基づいて行った学校*¹⁰から、原則的に教科書や問題集等に基づいた家庭学習を続け、わからないところがあったらNHK高校講座*¹¹や文部科学省ホームページにある「子供の学び応援サイト」*¹²を参考にするようにという指導にとどまった学校まで様々でした。また、私立学校の中には、学校休業中に実技教科も含めて全教科オンライン授業を進め、平日は6時間授業、土曜日は4時間授業を続けた学校もありました。*¹³
このような、学校間での学校休業中の教育活動の格差が、2021年度の高等学校入学者選抜試験や大学入学者選抜試験にも大きな影響を及ぼしています。*¹⁴ 入学者選抜試験への影響については改めて詳しく述べたいと思います。
文部科学省では、新型コロナウイルス感染症対策が長期化(数ヶ月単位、数年単位)するとみており、今回のような事態にも対応可能な遠隔教育など Society 5.0 の実現を加速していくことが急務と判断し、2020年度補正予算で、「1人1台端末」の早期実現や、家庭でも繋がる通信環境の整備など、「GIGAスクール構想」におけるハード・ソフト・人材を一体とした整備を前倒しする総額2,292 億円を計上しました。*¹⁵ 新型コロナウイルス感染症の広がりにより「1人1台端末」の実現が前倒されたということです。
また、新型コロナウイルス感染症問題から、遠隔授業を取り入れた学校からは、それまで不登校だった子どもがオンライン授業に参加し、学校休業開け後には学校に登校するようになった事例や、教室内では大人しかった生徒がオンライン授業では積極的に発言をするようになり、教員自身が今まで気づかなかった生徒の側面を知ることができた事例、それぞれの学習進度に応じた学びが可能になった事例なども報告*¹⁶されており、「GIGAスクール構想」が目指す、「子どもたち1人1人に個別最適化された教育」が始まっていることがわかります。
◆文部科学省の姿勢の注目点
新型コロナウイルス感染症問題は、緊急事態であったことは誰もが認めることでしょう。文部科学省でも、一律の規格化されたルールにとらわれては、今は対応できない状況だと判断し、「児童生徒に家庭学習を課す際や学習状況の把握を行う際には、ICTを最大限活用して遠隔で対応することが極めて効果的であることを踏まえ、今回が緊急時であることにも鑑みると、学校設置者や各学校の平常時における一律の各種ICT活用ルールにとらわれることなく、家庭環境やセキュリティに留意しながらも、まずは家庭のパソコンやタブレット、スマートフォン等の活用、学校の端末の持ち帰りなど、ICT環境の積極的な活用に向け、あらゆる工夫をすること」(下線部は筆者)という通知を出しています。*¹⁷ また、「学校の情報環境整備に関する説明会」*⁹で、文部科学省の初等中等教育局情報教育・外国語教育課長は「家族のPCやスマホなど使えるモノは何でも使うように。出来ることから、出来る人から取り組む。5%の児童生徒が出来ない事情があっても、”一律にやる”必要はない。緊急時なのに一律じゃないからできないというのは、やろうという取り組みから逃げているとしか見えなくなる。それは大きな間違いです。」(下線部は筆者)という主旨の発言をしています。
◆保護者のできること
3点あります。
1点目。我が国の現状での平日の学校外でのデジタル機器の活用は、コンピュータを使って宿題をする(日本3.0% OECD平均22.2%)、学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る(日本6.0% OECD平均23.0%)、ネット上でチャットをする(日本87.4% OECD平均67.3%)、一人用ゲームで遊ぶ(日本47.7% OECD平均26.7%)*¹⁸と、学習目的の活用場面は少なく、遊び目的で使用されており、保護者もその印象が強かったと思います。しかし、政府は、”Society 5.0時代を生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムであり、1人1台端末環境は令和の時代における学校の「スタンダード」“*¹⁹と位置づけている以上、家庭でのPCやスマートフォンの学習目的の利用も進むと考えて良いでしょう。文部科学省では、全国学力・学習状況調査をコンピュータで行う検討*²⁰を始めていますし、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS;Trends in International Mathematics and Science Study)*²¹は、これまでは筆記型中心でしたが、TIMSS 2023(次期調査)から、コンピュータ使用型の調査(eTIMSS)に完全移行することを予定しています。また、国内の入学者選抜試験にコンピュータで解答する試験を導入する大学も出てきました。*²²
このような動向からも、今のうちから端末操作に慣れたり、メデイア・リテラシー*²³を育成しておいたりするという点で、家庭内で使用ルールを設けた上でのPCやスマートフォンの利用を検討した方が良いでしょう。家庭内での使用ルールについては、こちらの記事(『子どもがスマートフォンばかり見ていて勉強しません』というご相談*²⁴)も参考にしてください。
2点目。学校休業期間中、通信環境の問題で学校から配信された資料のダウンロードに時間がかかったり、動画視聴に支障が出たりした家庭があったと学校関係者から聞いています。1点目で触れたように、今後は家庭学習でPCやスマートフォンを利用する機会が増えることが予想されます。家庭内の回線環境を見直し、必要であれば可能な範囲で契約プランの変更を行っておくと良いでしょう。
3点目。これまでご紹介してきたとおり、オンライン授業への取り組みには学校間格差があり、文部科学省は諸事情がある家庭や児童生徒への支援は行い、一定程度の環境整備は行いますが、全国一律・一斉にという考え方から、一律にやる必要は無く、できるところから進めるという考え方を取るように変わりつつあるようです。そうなってくると、進学する学校選びは今まで以上に重要になってきます。2020年6月時点では各学校とも学校での学校説明会は中止していますが、オンライン説明会は活発に行われています。*²⁵ オンライン説明会では、学校休業中にどのような対応をしていたのかを説明する学校もありますし、オンライン個別相談会で対応状況を質問できる学校もあります。「GIGAスクール構想」が目指す方向性に先んじている学校もあれば、名門と言われる学校の中にも取り組みに遅れの見える学校もありますので、気になる学校については、積極的にオンライン学校説明会に参加して最新の学校情報を入手することをお勧めします。新しい学校選びの指標のひとつとなると思います。
また、現在通っている学校の休業中の教育活動に不安があれば、学校以外の場での教育も検討の必要があるでしょう。子どもが抱えている不安点や疑問点を解消してくれたり、相談に乗ってくれたりする先を確保しておくことも保護者の出来ることです。
*¹ 萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年4月7日) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00050.html
*² GIGAスクール構想の実現 文部科学省 2020年2月20日
https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_403.pdf
*³ Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。(内閣府 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html )
*⁴ Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~ Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会
新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース 文部科学省 2018年6月5日
*⁵ 平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要) (平成31年3月現在) 〔確定値〕文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20191224-mxt_jogai01-100013287_048.pdf
*⁶ 平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要) (平成31年3月現在) 〔確定値〕東京都
https://www.mext.go.jp/content/20191224-mxt_jogai01-100013287_013.pdf
*⁷ 令和元年度文部科学省補正予算(案) 文部科学省 2020年1月30日
https://www.mext.go.jp/content/20191213-mxt_kaikesou01-100003387_1.pdf
*⁸ 新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について 文部科学省 2020年4月21日
https://www.mext.go.jp/content/20200421-mxt_kouhou01-000006590_1.pdf
*⁹ 学校の情報環境整備に関する説明会(動画) 「GIGAスクール」ch 【主催】文部科学省 2020年5月11日
*¹⁰ 東京都立立川高等学校
*¹¹ NHK高校講座
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/
*¹² 子供の学び応援サイト
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/index_00001.htm
*¹³ 鷗友学園女子中学高等学校では2020年4月13日から高校生のオンライン授業を先行実施し、4月21日からはオンライン授業を本格実施した。
*¹⁴ 中学校等の臨時休業の実施等を踏まえた令和3年度高等学校入学者選抜等における配慮事項について(通知) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20200514-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf
高等学校等の臨時休業の実施等に配慮した令和3年度大学入学者選抜における総合型選抜及び学校推薦型選抜の実施について(通知) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20200514-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf
など
*¹⁵ 令和2年度文部科学省補正予算(案)(抜粋) 文部科学省 2020年4月7日
https://www.mext.go.jp/content/20200408-mxt_jogai02-000003278_412.pdf
*¹⁶ 未来の教室 オンラインキャラバン キックオフDay 経済産業省 2020年6月11日更新
https://www.learning-innovation.go.jp/covid_19/case20200605/
*¹⁷ 「新型コロナウイルス感染症対策のために小学校、中学校、高等学校等において臨時休業を行う場合の学習の保障等について(通知)」 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20200421-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf
*¹⁸ 令和2年度補正予算概要説明 ~GIGAスクール構想の実現~ 文部科学省 2020年5月11日
https://www.mext.go.jp/content/20200509-mxt_jogai01-000003278_602.pdf
*¹⁹ GIGAスクール構想について 文部科学省 2020年2月21日
https://www.mext.go.jp/content/20200221-mext_syoto02-000005120_2.pdf
*²⁰ CBT化をめぐる状況について 文部科学省 2020年5月21日
https://www.mext.go.jp/content/20200605-mxt_chousa02-000007680-5.pdf
*²¹ 国際教育到達度評価学会(IEA)が4年に1度実施する教育分野の国際調査で、初等中等教育段階における児童生徒の算数・数学及び理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し、さまざまな要因との関係を明らかにすることが目的。これまで我が国は、8回の調査すべてに参加し、 また、直近の調査(TIMSS 2019)では、世界64か国 /地域が参加。
https://www.mext.go.jp/content/20200605-mxt_chousa02-000007680-7.pdf
*²² 2020年(2021年入学者)入試に向けて 現・高校1,2年生対象 CBT入試問題体験会を実施 千葉商科大学 2019年8月6日
https://www.cuc.ac.jp/news/2019/mstsps000001gr3r-att/cuc_press190806_cbtnyushi.pdf
*²³ メディア・リテラシー(media literacy):世の中に存在する膨大な量の情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力。
*²⁴ 【てら先生コラム】第2回:『子どもがスマートフォンばかり見ていて勉強しません』というご相談
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=380
*²⁵ 【てら先生コラム】第27回: 2021年度の中学校選びでやっておきたいこと
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