PICK UP

PICK UP 一覧に戻る

2020年09月01日

【教育改革】第30回:東京都立小中高一貫教育校

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第30回目は「東京都立小中高一貫教育校」をお届けします。

◆公立初の小中高一貫教育校

 

 2020年7月28日に東京都教育委員会は、東京都立小中高一貫教育校を2022年4月4日に開校すると正式に発表しました。*¹

 小中高一貫教育とは、初等教育(一般の小学校で行われている教育)と中等教育(一般の中学校や高等学校、中等教育学校で行われている教育)の教育課程を調整したり、重複する内容等を省いたり一貫性を持たせた体系的な教育方式のことです。

 学校の教育理念に基づき、小中高一貫教育を行っている私立学校は、これまでもいくつかの学校が存在しましたし、国立大学附属の小・中・高等学校などがあります。

 公立では、中高一貫教育校や小中一貫教育校(義務教育学校)は珍しくない存在になっていますが、東京都が今回開校を発表した小中高一貫教育校は、公立学校としては初めての学校となります。

 

 

◆豊かな国際感覚を養い、世界で活躍し貢献できる人間を育成

 

 この学校は、2008年4月に開校した東京都立立川国際中等教育学校の今までの教育実績を踏まえ、小中高一貫教育校としてスタートします。このため、立川国際中等教育学校に隣接するグラウンドに附属小学校を新たに設置します。

 小学校では男女各40人の募集を行い、7年生(中学1年生)段階で、新たに男女各40人程度の募集を行う*²、ということですので、中学校1年生相当時点で新しい生徒が加わることになります。

 立川国際中等教育学校の教育目標は「国際社会に貢献できるリーダーとなるために必要な学業を修め、人格を陶冶する」*³ とあります。「学業」は物事の本質を見抜くための力の基盤となるものです。国際社会で活躍するためには、コミュニケーションツールとしての英語も使いこなし、真の教養も持った人となる必要があるということです。また、「人格を陶冶する」とは、物事を正しく適切に判断できるよう、心身を鍛錬することです。

 新しい学校の教育理念は、「次代を担う児童・生徒一人一人の資質や能力を最大限に伸長させるとともに、豊かな国際感覚を養い、世界で活躍し貢献できる人間を育成する」とあります。また、育てたい生徒の将来の姿は「高い言語力を活用して、世界の様々な人々と協働するとともに、論理的な思考力を用いて、諸課題を解決し、様々な分野で活躍する人材」*⁴となっており、立川国際中等教育学校の教育目標と通ずるものがあります。

 そのため、以下の特色のある教育が用意されています。*¹

(1)全ての学習において探究的な学びを重視

(2)世界で通用する語学力と言語能力を育成

 

 

◆全ての学習において探究的な学びを重視

 

 探究的な学びとは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のことです。2020年度から小学校で実施されている新しい学習指導要領*⁵ でも強調されている学び方です。

 

 

探究的な学習における生徒の学習の姿

文部科学省 中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総合的な学習の時間編*⁶ より引用

 

 

 都立小中高一貫教育校では、小学校段階の生活科・総合的な学習の時間、中学校段階の総合的な学習の時間、高等学校段階の総合的な探究の時間の各プログラムを関連付けて12年間を通して探究プログラムを実施することになっています。*⁶

 詳細は決まっていませんが、10年生(高校1年)では全員がリーダーシップ・アクション・プログラム(仮称)として、海外で研究、インターンシップ、ボランティア等の活動に参加するなど特別プログラムに参加します。ここでの経験を、11年生(高校2年)での成果発信、12年生(高校3年)での進路実現に向けて活用する予定になっています。*⁷

 

 

◆ 世界で通用する語学力と言語能力を育成

 

 都立小中高一貫教育校では、義務教育期間の小中学校に相当する9年間で、英語の授業で通常の学校より1,000時間以上多く学習します。*¹ 学年別の外国語教育(英語)の授業時間数と到達目標を表にまとめてみました。小学校1年生から外国語学習を前倒しして学習するだけではなく、一般的な公立小中学校よりも学ぶ時間数が2倍になっている学年が多いことがわかります。

 そして、都立小中高一貫校では、英語の到達レベルを小学校終了段階で英検3級相当、8年生(中学2年)段階で英検準2級相当、10年生(高校1年)段階で英検2級相当、12年生(高校3年)段階で、英検準1級相当としています。

 

 

外国語教育の年間授業数と到達目標

東京都教育委員会「都立小中高一貫教育校教育内容等検討委員会報告書」*⁸、

文部科学省「第3期教育振興基本計画」*⁹、文部科学省「学習指導要領」*¹⁰ 

をもとに東京個別指導学院が作成。

 

 文部科学省が『第三次教育振興基本計画』で目標としている英語力は、「中学校卒業段階で英検3級)相当以上,高等学校卒業段階で英検準2級相当以上を達成した中高生の割合を5割以上にすること」ですので、都立小中高一貫教育校では高い目標を掲げていることがわかります。

 全員が10年生(高校1年)時に、海外で研究活動を行う予定になっている学校ですから、その時点で英検2級相当(CEFR B1)である 「仕事、学校、娯楽などで普段出会うような身近な話題について、標準的な話し方であれば、主要な点を理解できる。その言葉が話されている地域にいるときに起こりそうな、たいていの事態に対処することができる。身近な話題や個人的に関心のある話題について、筋の通った簡単な文章を作ることができる」*¹¹ レベルまで英語力を伸ばしておく必要があります。

 

 また、小学校段階から第二外国語に触れる機会を設け、中学校段階からはフランス語、中国語、スペイン語等から必ず選択して履修する構想になっています。*² *⁷ 確かに、国際社会ではバイリンガルは当たり前で、母国語も含めた3か国語以上を話せる人は珍しくない時代であり、時代の要請に応じた教育を目指していると言えましょう。

 

 

◆ 都立中高一貫教育校は高倍率となった

 

 首都圏や近畿圏など私立中学入試が盛んな地区においては、子どもの家庭環境や保護者の経済力によって、私立学校を進路選択候補に加えられるかどうかの判断が分かれることもあり、教育機会が大きく異なります。そこで、文部科学省は1999年に学校教育法を一部改正し*¹²、中学校・高等学校の中等教育を一貫とする教育を選択的に導入することが出来るようにして、私立や国立附属だけでなく公立中高一貫教育校という選択肢を設けることが出来るようになりました。これを受けて、東京都では2005年4月に白鷗高等学校附属中学校を14.26倍の応募倍率を集めて開校*¹³ して以来、2010年までに計10校を開校しました。一般の公立中学校よりも特色ある教育が受けられるだけではなく、大学合格実績も好調なことからも2020年度入学者選抜でも、応募倍率5.74倍と高い人気を維持しています。*¹⁴

 東京都教育委員会は、中高一貫教育校だけではなく、2013年に小中高一貫教育校開校に向けた準備委員会を設置し、公立で小中高一貫校を設けることで、経済的な困窮があっても、児童の能力を高める先進的な教育を受けられるチャンスを広げる検討をしてきました。*¹⁵ そして、2022年4月に公立小中高一貫教育校開校となったのです。

 今回の公立小中高一貫教育校は、「学校までの所要時間が40分以内にある鉄道の駅やバス停を含む区市町村又は地域を予定」*¹⁶ と居住地域に制限が設けられていたり、抽選と適性検査*¹⁷(受検者が一定の応募倍率を超えた場合に抽選を実施し、その後適性検査を実施して、一定の基準を満たした受検者を合格者として決定し、適性検査の合格者が募集人員を上回っている場合に再度抽選を実施して、最終合格者を決定する)によって入学者を決定したりするため、都立中高一貫教育校ほどの倍率にはならないかもしれませんが、発表されている教育内容の魅力から高い倍率となることが予想されます。

 

 2022年4月に附属小学校へ入学した1期生が、小中高一貫教育校を卒業するのは、2035年の3月です。今回開校する小中高一貫教育校の成果次第では、公立中高一貫教育校のように公立小中高一貫教育校が他の自治体でも設置されるかもしれません。

 

 

◆ 小中高一貫教育校の課題

 

 中高一貫教育校の場合は、在学中に生徒間での学力差の拡大、人間関係の固定化や、いわゆる「中だるみ」といった課題が指摘されてきました。*¹⁸ これらは、都立中高一貫教育校で実際に指導にあたっている先生方にお話を伺うと、殆どの先生が感じていることのようです。

 今回の公立小中高一貫教育校は、「小学校から中等教育学校への進学については、本人の日常の成績等を基に、学校が進学者を決定する」(進学可能な人数の定員は設けない)と検討されており*²、附属小学校の児童全員が内部進学できるとは明記されていませんので、附属小学校に入学出来れば無条件で高等学校卒業段階まで進めるとは限らないようです。また、中学校段階から入学者選抜を突破してきた生徒が半数加わっていくということですので、小学校1年生段階で入学した80名の同級生が12年間固定化されるわけでもないようです。しかし、中高一貫教育の6年間の2倍にあたる小中高一貫教育での12年間で、これらの課題が更に深刻化する可能性がないとも限りません。

 公立教育機関における12年間の中で、どのように6歳という段階から目的意識を持たせるのか、それを18歳までどのように伸ばすのか、早期からの英語教育は本当に有効なのかどうか、学力面での強みや弱みが顕在化していく中でどのような指導の工夫をしていくのか、生徒一人ひとりの興味関心が変わっていく初等中等教育段階で進路変更への対応をどのように行うのかといった都立小中高一貫教育校が解決していかなければならない課題は少なくありません。

 小中高 12 年間を一体とした教育課程の大枠を今後決定する段階ですので、2020年10月から始まる学校説明会*¹ などでの、今後の発表内容が注目されます。

 

 

◆ 保護者が考えるべきこと

 

 保護者が小・中・高等学校の児童・生徒だった頃と比較して、公立学校の中でも、高等学校間、中学校間・中等教育学校間で行われている教育内容は大きく異なってきています。それは、文部科学省が、日本全国均質な教育内容を提供する方針から、児童・生徒一人ひとりの個性をより重視した教育内容を提供する方針へと変化しているからです。

 今回の都立小中高一貫教育校は、児童・生徒や保護者が12年間の一貫した教育課程や学習環境の下で学ぶ機会も選択できるようにすることによって、初等・中等教育の多様化を推進し、児童・生徒一人ひとりの個性をより重視した教育の実現を目指すモデル校となるでしょう。児童・生徒や保護者のニーズや教育方針等に応じて選択する教育内容や教育環境の選択肢が増えることになります。

 かつては、地元の公立小学校に通い、地元の公立中学校に進み、学区制度の中である程度絞り込まれた公立高等学校の中から志望校選びを行い受験するルートを歩む子どもの割合が多かった訳です。しかし、今後は公立学校の中だけでも、6歳で小中高一貫教育校を受検するのか、12歳で中高一貫教育校を受検するのか、15歳で(多くの都府県では学区制度が廃止・縮小されている中で)どの高校を受験するのかというように、進路の複線化により、いつ、どの学校に進学させるのかという判断が必要になってきます。つまり、進路選択が必要な時期が早期化するということなのです。

 では、子どもの個性を活かす進路をどのように判断していくと良いのでしょうか。

 保護者自身が、Webサイトなどで教育情報を収集していくことは、もちろん大切なのですが、それだけではなく、各学校で現在行われている教育内容や今後行われる教育内容に詳しく、子どもの個性や保護者の教育方針を良く知っている人のアドバイスを受けながら検討することをお勧めします。そのような相談相手を確保しておくことは、保護者が今からできることなのです。

 

*¹ 都立小中高一貫教育校(令和4年4月開校予定)について  教育庁  2020年7月28日 

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2020/release20200728_02.html

 

*²  都立小中高一貫教育校教育内容等検討委員会報告書  都立小中高一貫教育校教育内容等検討委員会  2017年3月

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/consistent_school/files/about/h29_houkokusho.pdf

 

*³ 令和2年度 東京都立立川国際中等教育学校 学校経営計画  

http://www.tachikawachuto-e.metro.tokyo.jp/site/zen/content/000426751.pdf

 

*⁴ 令和2年度 東京都立立川地区小中高一貫教育校開設準備室 経営計画

http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/principal/pdf/keikaku.pdf

 

*⁵ 【教育改革】第21回:小学校学習指導要領改訂と「主体的・対話的で深い学び」  東京個別指導学院 オウンドメディア  2019年12月1日

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3016

新学習指導要領 リーフレット「生きる力 学びの、その先へ」 平成29・30年改訂 文部科学省 

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/02/14/1413516_001_1.pdf

 

*⁶ 文部科学省 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編  2017年3月

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_012.pdf

 

*⁷ 東京都立小中高一貫教育校 教育内容  東京都立小中高一貫教育校 開設準備室

http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/information/kyouiku.html

 

*⁸ 「都立小中高一貫教育校教育内容等検討委員会報告書」  東京都教育委員会   2017年3月

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2017/files/release20170427_01/pr0427a2.pdf

 

*⁹ 「第3期教育振興基本計画」  文部科学省  平成30年6月15日閣議決定

https://www.mext.go.jp/content/1406127_002.pdf

 

*¹⁰ 小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 平成 29 年7月 総則編  文部科学省

https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2032121.pdf

中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 平成 29 年7月 総則編  文部科学省

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_001.pdf

 

*¹¹  各資格・検定試験とCEFRとの対照表 文部科学省  2018年3月

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/03/__icsFiles/afieldfile/2019/01/15/1402610_1.pdf

東京都立小中高一貫教育校の10年生の到達英語レベルは CEF R B1レベル(英検準2級)となっています。

 

*¹² 中高一貫教育制度の導入に係る学校教育法等の一部改正について(通知) 文部省  1998年6月26日

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ikkan/3/980601.htm

 

*¹³ 白鷗高等学校附属中学校入学者選抜結果(一般枠)  東京都立白鴎高等学校・附属中学校

http://hakuo.ed.jp/web/?page_id=383

 

*¹⁴ 令和2年度 東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定応募状況(一般枠募集及び特別枠募集)  東京都教育委員会  2020年1月20日

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/admission/secondary_school/past/files/release20200120_01/oubo.pdf

 

*¹⁵ 平成25年 第6回東京都教育委員会定例会会議録  東京都教育委員会  2013年3月28日

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/administration/general/regular_meeting/until2016/files/past_meeting_minutes/2506teirei.pdf

都立小中高一貫教育校の設置について  2015年11月26日

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/administration/action_and_budget/plan/secondary_school/release20151126_02.html

 

*¹⁶ 東京都立小中高一貫教育校 通学区域  東京都立小中高一貫教育校 開設準備室

http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/admission/kuiki.html

 

*¹⁷ 東京都立小中高一貫教育校 入学者決定方法  東京都立小中高一貫教育校 開設準備室

http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/admission/houhou.html

 

*¹⁸ 都立中高一貫教育校検証委員会報告書 東京都教育委員会  2018年6月28日

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2018/files/release20180628_01/02.pdf

【教育改革】コラム バックナンバーはこちらから

 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110