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2020年11月16日

【てら先生コラム】第32回:『メタ認知能力』を高めよう

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「『メタ認知能力』を高めよう」についてお届けします。

 『メタ認知』*¹という言葉をご存知でしょうか。『メタ認知(Metacognition)』の『メタ』とは『高次の』という意味です。つまり、認知(知覚、記憶、学習、言語、思考など)すること自体を、より高い視点から認知するということです。『メタ認知』は、何かを実行している自分の頭の中で働く「もう一人の自分」と言われたり、「認知についての認知」と言われたりすることがあります。今回は、この『メタ認知』について考えてみたいと思います。

 

 

◆『メタ認知能力』と新学習指導要領

 

 『メタ認知』については、2020年度に小学校から始まった新しい学習指導要領でも重視されています*²。

 文部科学省は、新しい学習指導要領において、学力を❶「知識・技能」❷「思考力・判断力・表現力」❸「学びに向かう力・人間性等」の3つに整理しています。*³ 

 このうち、❸については、❶❷の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であるとされ、”主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力など、いわゆる『メタ認知』に関するもの”が例示されています。*⁴

 そして、高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説総則編では、❸の「学びに向かう力・人間性等」について、“生徒一人一人がよりよい社会や幸福な人生を切り拓いていくためには,主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統制する力,よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等が必要となる。これらは,自分の思考や行動を客観的に把握し認識する,いわゆる「メタ認知」に関わる力を含むものである。こうした力は,社会や生活の中で生徒が様々な困難に直面する可能性を低くしたり,直面した困難への対処方法を見いだしたりできるようにすることにつながる重要な力である”と、記載されています。*⁵

 そして、学習指導要領では、これら❶❷❸を、『主体的・対話的で深い学び』によって身に着けさせるとしています。*⁶

 文部科学省では、『主体的』の定義として”見通しをもって”、”学習活動を振り返って次につなげる”などとしています。自分自身がこれからどうしたいのかという長期的な視点(“見通し”)をもって、「自分が何を学習して何を身につけたのだろうか」という振り返り(“学習を振り返って次につなげる”)ができることは、高い視点(『メタ認知』)がないとできないことです。*⁶

  このように、「主体的」に学ぶことを子どもに求めることで『メタ認知』を育もうと、新しい学習指導要領では求めているのです。

 

 

◆『メタ認知能力』と探究学習

 

 学習指導要領の改訂にともなって、高等学校では、「総合的な探究の時間」が新設されます。*⁷ 「探究」では、まず、”生徒自らが課題を設定し、仮説を立て、それに適合した検証方法を明示した計画を立案”します。次に、”目的に応じて臨機応変に適切な手段を選択し、情報を収集し、必要な情報を広い範囲から迅速かつ効果的に収集し、多角的、実際的に分析”します。

 そして、”複雑な問題状況における事実や関係を構造的に把握し、自分の考えを形成する”整理・分析を行います。最後に、”相手や目的、意図に応じて手際よく論理的に表現する”活動を通して、”学習の仕方や学習や生活に生かそうとする進め方を内省し、現在及び将来の学習や生活に生かそうとする”資質を養おうとしています*⁸ が、ここでも『メタ認知能力』が必要であることにお気づきでしょう。

 

高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説「総合的な探究の時間編」*⁹ より転載

 

 

◆『メタ認知能力』と受験勉強

 

 『メタ認知能力』が高い子どもは、例えば、受験勉強においても、模擬試験の結果をみて「計算問題で失点しているから、計算力を高めるために毎日計算問題練習をしよう」「英語の試験で後半の大問での正答率が低かったのは、英文を読むスピードが足りなかったからだ。速読力をつけよう」などと、もう一人の自分からのメッセージを受け取り、学習改善に生かしているように、私の経験上感じます。そして、このような子どもは、自分の現在の成績を過大評価も過小評価もせずに、客観的にとらえているように思います。また、目標としている志望校に合格するためにどんな力が求められているのか、入試までの残り日数や自分の日々の可処分時間を考えて、自分にあった学習計画を立てることができるように思います。そして、その計画を実行することもできます。『メタ認知能力』が高い子どもは、自分で課題を発見し、それを解決する方策をとって、自分が「こうなりたい」と思う目標に近づく力があるように思います。

 

 このように、これからの学習において『メタ認知能力』は重視されていくのですが、その重要性は、学校を卒業して、社会に出てからの方が、さらに重要になるのではないでしょうか。

 社会では、課題を発見して、情報を集め、整理して、解決策を見出し、改善計画を立て、実行して、その結果を振り返り、また新たな課題を設定していくことの繰り返しだからです。

 

 

◆保護者のできること

 

 では、保護者の出来ることは何でしょうか。

 ご家庭での子どもとのコミュニケーションにおいて、『メタ認知能力』を高める声かけはできます。子どもが問題解決で行き詰まった時(例えば、算数の問題で解き方が分からなくなった、どうしていいかわからない 、解けない時)に、解き方や答えを教えるのではなく、「先月同じような問題を勉強したから、その時のことを思い出してみようか」と声掛けをするのは有効でしょう。「現状をあなたはどのように思う?」と、子どもに考えさせるように働きかけるのです。ある受験生の保護者は、子どもの知らないところで様々な学校の情報や入試制度を自分で調べているにも関わらず、「お母さんの時代とは、学校の中身も入試制度が全然違うから、どんな学校がいいとあなたが思うのか、教えてくれない?」と子どもに調べさせ、考えさせる声掛けをしていました。

 また、模擬試験や定期試験の返却があった際、「テストを受けている時には、どう考えたの?どう感じていた?」「今のあなたなら、どう考える?今ならどうすれば良いと思う?」また、子どもに対して「お父さんはこう思うが、あなたはどうしたら良いと思う?」といった声掛けも、子どもの脳裏に「もう一人の自分」を登場させて、客観的に自分を見つめさせる習慣付けに有効でしょう。

 子どもが問題にぶつかっている時に、解決策や答えを保護者が教えた方が、その場では、問題の解決ができるかもしれませんが、長い目でみれば、そのような接し方では、子どもが自ら考え、諸問題を解決する力を育む機会を失ってしまいます。そして、いつまでも保護者が手助けできるわけでもありません。いつかは、子どもは独り立ちして巣立っていくのですから。

 

 本コラムで何度か保護者と子どものかかわり方について触れてきました。保護者と子どもという最も近い間柄だからこそ、接し方や距離の取り方が難しいことは事実で、これは昔も今も保護者からよく受ける相談のひとつです。

 保護者もまた同様に、「あれこれ過干渉ではないだろうか」「子どもに任せると言って、実は放任しているのではないだろうか」ともう一人の自分として自身を見つめる姿勢が大切でしょう。保護者自身が『メタ認知能力』を高めていくことで、「放任」も「過干渉」も防ぐことができるのではないでしょうか。

 

 

〇「てら先生コラム」掲載終了のお知らせ〇

「てら先生コラム」は、今回の更新をもって、全32回の連載を終了いたします。

これまでご愛読いただいた皆様、誠にありがとうございました。

 

*¹ メタ認知とは自己の認知過程についての認知と知識を指す。自己の認知過程に対する意識的なコントロールcontrolとモニタリングmonitoring過程が関与する。

「メタ」とは、認知過程の水準よりも「上位」水準として、認知過程をモニターしコントロールすることを意味する。すなわち、メタ認知の機能は、目標や状況、自分の限られた処理資源に基づいて、プランニングを行ない、現在の認知活動の状態を評価しながら、認知活動を調整して効率的情報処理を行なうことである。

メタ認知の構成要素は二つに分かれる。第1は、自分の認知過程をモニタリングしコントロールするためのメタ認知的活動とそれを支える方略に関するスキルである。第2は、メタ認知的知識であり、(1)方略の有効性、(2)認知過程(課題要求や学習材料など)、(3)自己の認知能力や動機づけに関する知識、および(1)~(3)の相互作用に関する知識である。(後略)〔楠見孝〕(藤永保監修『最新心理学事典』平凡社、2013年、p.707)

育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(平成26年3月31日)より

https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/07/22/1346335_02.pdf

 

*² 2020年度から小学校で全面実施、2021年度から中学校で全面実施、高等学校では2022年度入学者から学年進行で実施。  「学習指導要領改訂に関するスケジュール」より 平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等  文部科学省

 https://www.mext.go.jp/content/1421692_3.pdf

 

*³ 「学習指導要領の考え方」 平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等  文部科学省

 https://www.mext.go.jp/content/1421692_6.pdf

 

*⁴ 新しい学習指導要領等が目指す姿  初等中等教育分科会「資料1 教育課程企画特別部会 論点整理」  文部科学省  

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1364316.htm

 

*⁵ 高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説  総則編  文部科学省

https://www.mext.go.jp/content/20200716-mxt_kyoiku02-100002620_1.pdf

 

*⁶ 新しい学習指導要領の考え方  平成29年度 小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文部科学省説明資料 文部科学省  

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf

 

*⁷ 高等学校学習指導要領(平成30年3月告示) 文部科学省

https://www.mext.go.jp/content/1384661_6_1_3.pdf

 

*⁸ 探究のプロセスと育成すべき資質・能力・態度の関係(案) 教育課程部会 生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ 資料3  文部科学省  2016年2月23日

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/064/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/05/23/1370765_2.pdf

 

*⁹ 高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 「総合的な探究の時間編」  文部科学省  2018年7月

https://www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf

 

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~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。