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2020年01月16日

量子超越性とは? 1万年かかる計算が200秒でできる未来

Googleが米国時間の2019年10月23日、科学誌の「Nature」における論文で、「量子超越性」を達成したと発表しました。(※1)これは現在開発が進んでいる量子コンピュータが従来のスーパーコンピュータよりも計算能力が高いことを示す内容となっています。

 

しかしこれは単純に量子コンピュータの優位性を示すものではありません。では量子超越性とは何か、そしてそれは実際にどのように役立つのかを説明します。

量子超越性とは

「量子超越性」とは、量子コンピュータの計算能力が従来のスーパーコンピュータよりも優れていることを証明する、という内容のものです。(※2)この論文には、Googleが独自に開発した量子コンピュータが、スーパーコンピュータが1万年かかる計算をわずか200秒で解いたと示す内容が書かれています。(※3)

 

量子コンピュータとは、従来のコンピュータが根本的に0と1の2つで情報を表していることに対して、「量子ビット」という単位を扱うことで0と1両方の状態も表すことができます。

 

従来のコンピュータと量子コンピュータの違いは、テーブルに着く人の最適な組み合わせを計算する例でわかります。

 

テーブルに着く何人かの人はそれぞれ、仲の良い人とそうではない人がいて、どのような組み合わせにすればもっとも会話が盛り上がるのかを考えるとします。従来のコンピュータはあらゆる組み合わせを最初に計算し、それぞれにおける会話の状況を順番に計算して最適解を導き出します。

 

これに対して量子コンピュータは、そのすべての組み合わせにおいて同時にその会話の状況を計算し検証することができます。これを応用すれば、セキュリティの要である暗号キーもすぐに解読できるとさえ言われています。

 

ただし量子コンピュータは複数の計算を同時に行えますが、導き出す答えは実は完全なものではありません。あくまでも正解を「高い確率で」導き出すにすぎないのです。そこで量子コンピュータには、その精度を高めるためのアルゴリズムが必要になります。アルゴリズムとは、問題を解く手順を具体的にプログラムにするための流れのことです。

 

このままでは量子コンピュータは実用性があるのかどうかが不透明ですし、本当に従来のスーパーコンピュータを上回る計算能力を持つのかどうかがわかりません。そこで、量子コンピュータの計算能力という側面にのみ注視して高速性を証明するものが、量子超越性になります。(※2)

 

その手段として、スーパーコンピュータに量子コンピュータの動作をシミュレーションさせて双方の計算速度を測定するという形で能力を比較しています。

量子コンピュータとは

ここで量子コンピュータについて、もう少し詳しく説明します。

 

従来のコンピュータは基本的な仕組みはどれも同じです。スーパーコンピュータも会社で使うパソコンも、CPUと呼ばれる頭脳とメモリと呼ばれる作業領域があり、その性能が違うだけで根本的な動作の仕組みは変わりません。

 

これらのコンピュータは0と1の2つの数値を扱い、あらゆる計算を行っています。つまりコンピュータは2進数で、一度に1つずつ高速で順次計算をする仕組みとなります。

 

量子コンピュータの場合、量子力学の原理を基本動作としている点で、従来のコンピュータとはまったく異なるアプローチで計算します。量子力学における「重ね合わせ状態」や「量子もつれ状態」といったものをコンピュータ上で実現する形となっているのです。(※4)量子コンピュータは、量子ビットというものを実装してこれに量子力学的操作を行い、量子ビットの状態を測定する形で結果を得ます。

 

また従来のコンピュータで扱えるのは0か1のどちらかという二択しかありませんでしたが、量子ビットは0と1の両方の情報を持ち合わせることが可能となります。これが量子力学の重ね合わせと呼ばれる状態です。量子ビットの数を増やすと、それぞれが0と1の両方の状態でいるので、そのすべての組み合わせを同時に観測することが可能となります。

 

たとえば4つのビットの組み合わせを考えてみると、2進数の場合は0000から1111まで2の4乗、つまり16通りの組み合わせができます。従来のコンピュータはこの16通りを1つずつ順番に検証していきます。しかし量子コンピュータは4つの量子ビットそれぞれが0と1の両方の状態になるので、1度に16通りの組み合わせが検証できるというわけです。

 

つまり量子コンピュータは一瞬にしてあらゆる答えのパターンを表示し、その中からもっとも正解に近い可能性がある答えを観測する、という仕組みになっています。

 

あとは求める答えにもっとも近いものを観測するためのアルゴリズムを構築することが、量子コンピュータには必要になります。

 

量子超越性は何の役に立つのか

量子超越性はGoogleが公開した論文により発表されたものです。そこでは、最速のスーパーコンピュータが1万年かかる問題を、53の量子ビットを搭載する量子コンピュータがわずか200秒で解けることを示しています。

 

しかしこれは量子コンピュータが単純に従来のスーパーコンピュータよりも高性能であるということを証明するものではありません。

 

そもそもスーパーコンピュータと大きな性能差を生み出せる量子コンピュータには、数千から数万という量子ビット数が必要になります。わずか数十量子ビットの量子コンピュータでこれまでのスーパーコンピュータとの明確な差を示すことは難しいとされます。

 

そこで、スーパーコンピュータよりも量子コンピュータが高速で計算できるような問題を設定することが必要になります。そのような視点から生み出した問題を使って計算能力の高さを示したのが、量子超越性ということです。

 

このように量子コンピュータの優位性を前提とした問題を作り上げて、スーパーコンピュータとの差を示すことに何の意味があるのでしょうか。実はここに、量子コンピュータをどのように活用するのかというヒントを見いだすことができます。(※5)

 

何かしらの問題を解くためのアプローチは、いろいろな方法が考えられます。その中で量子コンピュータが得意とする方法があれば、スーパーコンピュータでは時間がかかるところを、量子コンピュータですぐに解決できるかもしれません。

 

量子コンピュータはまだ実用化まで時間がかかりそうですし、はたしてスーパーコンピュータを超える存在になるのかも不透明です。しかし量子超越性が実証されたことで、少なくともアプローチによってはスーパーコンピュータを超える計算能力を持つことが示されたということは、これからの実用化に向けての大きな進展と言えます。

まとめ

量子超越性はあくまでも実験のようなものであり、量子コンピュータの実用性を示すものではありません。しかし今回の量子超越性が実証されたことにより、これから量子コンピュータを活用することは、使い方によってはスーパーコンピュータでも時間のかかる複雑な問題でも、すぐに簡単に解決できる可能性を見出したということになります。圧倒的な情報処理能力を持つ量子コンピュータは、子どもたちの生きる未来の社会をどう変えてしまうのか。引き続き各研究開発機関の動向に注目が集まります。

 

 

参照資料

※1 「米グーグル、「量子超越性」を実証か ライバルは懐疑的」

BBCニュースジャパン (2019/10/24)

https://www.bbc.com/japanese/50162705

 

※2 「Googleの「量子超越性」実証とは何なのか?」

つくば科学万博記念財団 (2019/10/15)

http://www.tsukuba-sci.com/?column01=googleの「量子超越性」実証とは何なのか?

 

※3 「スパコンで1万年かかる計算、200秒で グーグル実証」

朝日新聞 (2019/10/23)

https://www.asahi.com/articles/ASMBR6KWTMBRULBJ00R.html

 

※4 「量子コンピュータって何? 動作の仕組みや開発ロードマップ、未来像を解説」

CodeZine 渡部 拓也 (2019/7/18)

https://codezine.jp/article/detail/11616

 

※5 「Googleが量子超越を達成 -新たな時代の幕開けへ(後編)」

Qmedia (2019/10/24)

https://www.qmedia.jp/google-supremacy-2/

 

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