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2020年08月15日

【てら先生コラム】第29回:「With コロナ」時代の学習の注意点

教育業界に携わり30余年の「てら先生」による月1コラム。
今月は「『With コロナ』時代の学習の注意点」についてお届けします。

 2~3カ月に及んだ「臨時休業」期間を経て、子どもたちの学校生活が再開されました。現在、多くの保護者が懸念しているのが、学習の『遅れ』ではないでしょうか。在籍校によっては、オンライン授業も行われず、家庭学習期間が1学期の半分にも及んだのですから、勉強は大丈夫なのかと保護者が心配になっても、それは当然です。

 

 

◆学習の『遅れ』はどの程度なのか

 

 まず、具体的にどの位の『遅れ』が生じているのかを確認してみましょう。

 子どもたちが学校で、学ぶべき授業時数については、「学習指導要領」*¹の中に年間の標準授業時数が示されています。教科ごと、学年ごとの総時数があり、小学校1年生は850時間、小学校2年生は910時間、小学校3年生は980時間、小学校4年生から中校3年生までは1015時間となっています。教科ごとの時数は、たとえば、算数・数学は、小学1年生は136時間、小学2校年生から6年生は175時間、中学校1年生と3年生は140時間、中学校2年生は最も少なく、105時間です。*²

 東京都練馬区では、区立小学校と中学校は2020年6月4週目以降から通常登校が再開しました。*³ 4月の新年度から約10週間『遅れ』ですが、中学校2年生の数学の場合は、およそ30時間分に相当します。年間105時間のうちの30時間ですから、これは年間時間全体の29%に相当します。

 

 文部科学省は、各学校で今年度に指導を計画している内容について学年内に指導が終えられるように、①1コマを 40 分や 45 分に短くしたうえで、一日当たりの授業コマ数を増やすなどの時間割編成の工夫、②長期休業期間の短縮、土曜日の活用、学校行事の重点化や準備時間の縮減等の工夫、などを行いつつ、学校における指導を充実させることが必要であるとの通知を出しました。*⁴ 

 この通知を受けて、東京都練馬区では、夏休み期間を短縮しての授業実施、都民の日や開校記念日の授業実施、7月以降月2回程度(合計14回程度)の土曜授業の実施、一部行事の縮減や中止により、授業日数を確保し、『遅れ』を取り戻そうとしています。*⁵ 

 

 

◆子どもたちの今後の学習への影響

 

 これにより、子どもたちの今後の学習にどのような影響があるのでしょうか。5点にまとめてみました。

 

【1】授業のスピードアップ

 文部科学省では、やり残した授業について、翌年度や翌々年度への繰り越しを認める決定を行い、最上級学年以外の児童・生徒(小学校1年生から小学校5年生まで、中学校1年生・中学校2年生、高等学校1年生・高等学校2年生等)は学習の『遅れ』を2、3年かけて取り戻すことを認めています。*⁴ しかし、これは、先の①②で挙げたような色々な工夫をしても、なお臨時休業及び分散登校の長期化などにより指導を終えることが難しい場合の特例*⁴ ですので、今後の学校での授業は、学習指導要領で定められている範囲をできるだけ終了できるように、『遅れ』を取り戻すべく、スピードアップがなされそうです。

 このスピードアップにより、従来の授業のペースならば支障なく学ぶことができていた子どもの中にも、ついていけなくなってしまう子どもが出てくる危険性があります。

 

 

【2】演習不足が定着不足に繋がる

 文部科学省では、『新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における「学びの保障」の方向性等について』という通知で以下のように記載されています。“個人でも実施可能な学習活動の一部を ICT 等を活用して授業以外の場において行うことなどにより、学校の授業において行う学習活動を、教師と児童生徒の関わり合いや児童生徒同士の関わり合いが特に重要な学習への動機付けや協働学習、学校でしか実施できない実習等に重点化する“。*⁴  これをうけて、教科書会社からは、学習活動の重点化等に向けた年間指導計画資料が既に公表されています。*⁶ その資料には、学習内容ごとの目安となる時間数と、そのうち授業が必要な時間数が記されているのですが、例えば、中学2年生の数学の資料を見ると、教科書の知識や技能を指導する時間(インプットに必要な時間)はあまり削らず、「基本問題」「章末問題」を解く時間(アウトプットの時間)を、学校の授業からは大きく削り、家庭学習など学校の授業以外の場での学習で取り組むような指導計画になっています。

 これらの年間指導計画資料を参考に、学校での授業が進んでいくとすれば、例えば中学校2年生の数学の場合、「連立方程式」の解き方は学校で教えてくれますが、学校の授業時間内では「連立方程式」を解く演習の時間が削られ、子どもが速く正確に「連立方程式」を解けるようになる演習は、学校の授業以外の場で行う必要が出てくるのです。

 演習が不足しますと、「解き方は知っているけれど、正解が出せない」という定着不足状態に陥ります。

 

【3】定着不足が以後の学習内容に影響する

 国語や算数・数学、英語など学習内容の積み重ね性が強い教科では、既習学習内容の定着が不足している場合、以後の学習内容の習得が難しくなる場合があります。例えば、「連立方程式」の学習内容が未定着であった場合、次に学習する「一次関数」の学習に影響します。「一次関数」の学習内容が未定着であれば、中学校3年生で学ぶ「二次関数」に、中学校3年生の「二次関数」の学習内容が未定着であれば、高校1年生で更に学ぶ「二次関数」にも影響します。これは、例年でも起きていたことですが、コロナ禍の今年は該当する子どもが増える可能性があります。以前、本コラムで触れたとおり、学習の定着にはアウトプット練習が不可欠です。*⁷  【2】の通り、今年はインプット中心で学校の授業が進みますので、特に、今年度の学習内容の関連単元を、来年度になってから学習する際に、この定着不足による支障が出てくるように思います。

 

【4】夏休み等の短縮による、キャッチアップの機会の損失

 苦手な教科や単元がある子どもは少なくありません。例年でしたら、夏休みや土曜日などは、既習事項の学び直しをしたり、理解不十分だった事項の補習を行ったりすることで、学校の授業の進度に追いつく機会とすることができました。また、【3】で挙げたような、既習事項の未定着から生じる以後の学習内容理解への悪影響を断ち切ることもできました。

 しかし、2020年の夏休みは短縮され、土曜日等も授業が実施され、学校の授業が駆け足でどんどん進んで行くわけですから、学校の授業に追いつくのは、例年以上に難しくなってくるでしょう。

 

【5】学力差が更に拡大する可能性

 これまでも、同一学年の子どもたち間での学力差はありました。また、2020年春の学校「休業」中にも、オンライン授業などで学びが止まらなかった学校の子どもたちと、学びが停滞した子どもたちの間で大きな差が生じました。それらに加えて、駆け足で進む「休業」明けの学校の授業の変化に対応できた子どもと、そうではなかった子どもとの学力差は開くのではないかと思います。

 このような学力差は、学校での評定にも影響するでしょう。中学生の場合は、在住する都道府県によっては、今の学年評定が高校入試での内申点にも影響するでしょう。*⁸ また、特定教科に対して抱いた苦手意識の払拭には時間がかかることが多く、その苦手意識が学習の妨げとなることもあるでしょう。

 

 

◆保護者のすべきこと

 

 【1】のように、学校の授業は、インプットを中心に駆け足で進みます。駆け足で習ったことを、【2】で触れたように、ご家庭など学校以外の場でアウトプット演習をすることが前提に進んでいきます。このため、今まで学校の授業についていけていた子どもでも、ついていけなくなっている危険性があるということを、理解しましょう。ですから、学校の授業について子どもが「わからない」「難しい」「大変だ」と言うことは、決して恥ずかしいことでもないし、子どもが悪いということでもないということは、子どもにしっかりと話しておきましょう。それは、子どもが学校の授業を真面目に聞いていても起きうることなのです。叱ってしまえば、子どもはSOSを発信できず、理解があやふやなまま先に進んでしまう危険性が高まるばかりです。「わからない」と言いやすい環境を、ご家庭内で作ることが、まず必要です。

 

 次に、何につまずいているのか、何がわかっていないのか、何ができないのかということをできるだけ早めに見つけて、解決することが重要です。授業は駆け足で進んでいき、【4】で触れたようにリカバリーの機会は例年よりも限られているのが、今年の特徴です。子どもの状況に合わせて、学習塾やオンライン学習、学習アプリなどを取り入れるなど、早期に必要な対策を検討することが必要です。

 

 そして、保護者も子どもも不安な点や困っている点を相談し、アドバイスをもらい、解消できるような相手(相談先)を、確保しておくことも、保護者のできることです。

*¹ 学習指導要領とは、日本全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省が定める小学校、中学校、高校などで教える学習内容の基準となるもので、およそ10年に1回程度改訂されています。

 

*² 新学習指導要領について  文部科学省

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/044/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2018/07/09/1405957_003.pdf

 

*³ 区立小中学校および区立幼稚園は6月1日から段階的に再開します  東京都練馬区  2020年7月28日更新

https://www.city.nerima.tokyo.jp/kosodatekyoiku/kyoiku/oshirase/korona.html

 

*⁴ 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における「学びの保障」の方向性等について(通知)  文部科学省  2020年5月15日

https://www.mext.go.jp/content/20200515-mxt_kouhou01-000004520_5.pdf

 

*⁵ 練馬区立学校(園)の教育活動再開の4つのポイント  東京都練馬区   2020年7月28日更新

https://www.city.nerima.tokyo.jp/kosodatekyoiku/kyoiku/oshirase/korona.files/poinnt.pdf

 

*⁶ 例えば、中学校2年生数学の文部科学省検定済み教科書発行全会社から、以下のような資料が公表されています。

東京書籍 新編 新しい数学 2 令和2年度 中学校 学習活動の重点化等に資する年間指導計画参考資料   2020年6月5日

https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/spl/keikaku/data/chu_keikaku_sugaku2_202006.pdf

教育出版  令和2年度用「中学数学」2年 年間指導計画作成資料(案) 2020年6月5日

https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/textbook/chuu/sugaku/files/sugaku2_r2plan.pdf

学校図書  中学校 数学2 年間指導計画案  2020年6月5日

https://www.gakuto.co.jp/docs/download/pdf/H28c_sugaku2_new_nenkan.pdf

大日本図書 新版 数学の世界2 年間指導計画案  2020年6月30日

(学校での授業と,学校の授業以外の場で取り組む学習活動の併用版)

https://www.dainippon-tosho.co.jp/math/files/pdf/r2plan_math2nd_ex.pdf

 

*⁷ アウトプット演習の大切さについては、以下を参考にしてください。

【てら先生コラム】第4回:「漢字や単語の暗記がニガテです」というご相談  東京個別指導学院 コーポーレートサイト  2018年6月15日

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=475

 

*⁸ 例えば、東京個別指導学院の教室のある、埼玉県・千葉県・京都府・大阪府・兵庫県は中学1年生から3年生の成績が内申点に計算される。また、神奈川県は中学2年生と3年生の成績が内申点に計算される。

 

【てら先生コラム】バックナンバーはこちらから

 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2111

 

 

~【てら先生】プロフィール~

教育業界に携わり30余年。
何千人もの子どもたち・保護者に学習・進路相談を行う。
現在は株式会社東京個別指導学院 進路指導センター 個別指導総合研究所にて同学院のブレインとして活動。
文部科学省・各学校に足を運び、様々な情報を収集し教室現場への発信・教育を行っている。