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2020年06月01日

【教育改革】第27回:ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第27回目は「ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム」をお届けします。

 文部科学省は、これまで「スーパーグローバルハイスクール(Super Global High School、略称:SGH)事業」の取り組みを行ってきました。*¹

 「SGH事業」とは、国際的に活躍できる人材育成を重点的に行う高等学校を文部科学省が指定する制度で、語学力だけでなく、社会の課題に対する関心や教養、コミュニケーション能力、問題解決能力などを身に付けたグローバル・リーダーの育成を意図しています。指定期間は5年間で、対象となる「SGH」の指定は、2014年度から始まりましたが、2016年度の指定校が研究期間を終える2020年度末で「SGH事業」は終了となります。

 そして、これまでの「SGH事業」の取り組みをもとに、文部科学省は、2019年度から「ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム(World Wide Learning Consortium、略称:WWLC)構築支援事業」という新たな事業を開始しました。*² 今回は、この「ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業」について考えてみたいと思います。

 

 

◆ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業とは

 

 「コンソーシアム」とは、共同体という意味です。「ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム」は、複数の高等学校等と大学、国内外の機関や企業が、高校生に対してより高度な学びを提供する仕組みを共同で構築しようという共同体です。学校単位での取り組みを中心として進めてきた「SGH事業」と、「ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業(以下、WWLC構築支援事業)」の大きな違いはここにあります。

 実は、この「WWLC構築支援事業」は、「Society 5.0 に向けた人材育成~ 社会が変わる、学びが変わる ~」(2018年 6 月 5 日 Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会 新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース)で、新たな時代に向けた学びの変革、取り組むべき施策として挙げられていた施策です。*³

 Society 5.0とは、『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)』『狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、「第5期科学技術基本計画」において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。』*⁴

 この人類史上5番目の新しい社会である「Society5.0」に向けて革新的なグローバル人材を育成するため、「WWLC構築支援事業」では、文系・理系を問わず各教科をバランスよく学ぶ教育課程を編成し、グローバルな社会課題研究のテーマ(SDGs、経済、芸術等)を設定し、留学や海外研修等を含む先進的なカリキュラムを研究開発・実践し、他の高等学校や国内外の大学、企業、国際機関などと協働し、テーマと関連した高校生国際会議等を開催します。また、大学教育の先取り履修等により、学年や学校を超えてより高度な内容を学びたい高校生が学習できる環境整備を行ったり、留学生受け入れに向けた学校体制の構築を行ったりします。

 そして、高校生への高度な学びを提供する仕組み(「アドバンスト・ラーニング・ネットワーク」)は、高校生6万人あたり1か所を目安に各都道府県で国公私立高校等を拠点校として5年間で50校ほど整備し、すべての高校生が選抜を経てオンライン・オフラインで参加可能とするというものです。*⁵

 

 

WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業 「カリキュラム開発拠点校」(文部科学省)より*⁶

 

 

◆取り組む内容は

 

 「WWLC構築支援事業」で中心となるカリキュラム開発拠点校の取組要件としては、9項目が挙げられています*⁶が、以下のような内容になっています。

 『①事業実施にあたって,グローバルな社会課題研究としてテーマ(SDGs,経済,政治,教育,芸術等)を設定すること。 ②国内外の大学,企業,国際機関等との協働によるイノベーティブなグローバル人材育成に資する先進的なカリキュラムの研究開発・実践をすること。 ③カリキュラムの研究開発・実践において,外国語や文理両方の複数の教科を融合し,テーマと関連した「グローバル探究」等の新たな教科・科目を設定すること。また,その実施にあたっては,外国人講師等を活用すること。 ④大学教育の先取り履修を可能する取組を事業終了までに行うこと。 ⑤より高度な内容(例えば,微分方程式,線形代数,データマイニングや国際法等)を学びたい高校生が学習できる環境整備をすること。 ⑥海外の連携校等への短期・長期留学や海外研修等を,カリキュラムの中に体系的に位置づけて対象となる生徒が必ず経験するようにすること。 ⑦文系・理系を問わず,各教科をバランスよく学ぶ教育課程の編成をする(文系・理系のコース分け等を行わずに,または,コース分け等を行ったとしても,数学科,理科,地理歴史科,公民科等の教科 を幅広く学べるようにする等)こと。 ⑧国が実施するアジア高校生架け橋プロジェクトや海外の連携校等からリーダー,架け橋となる人材を受け入れ,日本人高校生と留学生が一緒に英語等での授業・探究活動等を履修するための学校体制を整備すること。 ⑨国内外の大学,企業,国際機関等と協働し,国内外の高等学校等との連携によるテーマと関連した高校生国際会議等を事業終了までに行うこと。』

 このように見ていくと、保護者の高校生時代には想像できなかったような取り組みが行われることになりますが、これは、「Society 5.0 に向けた人材育成~ 社会が変わる、学びが変わる ~」(2018年 6 月 5 日 Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会 新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース)で提言された内容に沿ったものなのです。*³

 

 

◆先進的なカリキュラム開発を行う

 

 公募・審査の結果、先進的なカリキュラム開発の拠点校として文部科学大臣が指定する高等学校等(中等教育学校、併設型・連携型中学校・高等学校を含む)として、2019年4月3日に2019年度10校(申請17校)、2020年4月10日に2020年度として12校(申請18校)が指定されました。*⁸

 

 

2019年度・2020年度の拠点校分布

文部科学省発表の資料*⁹ から東京個別指導学院が作成

 

 

 拠点校を中心に他の高校、国内外の大学、企業や国際機関と協働して研究開発・実践の体制を整備する事業内容のため、この指定校の他に、共同実施校として拠点校のカリキュラム開発に共同で取り組む高等学校等や、カリキュラム開発を拠点校と連携して取り組む国内外の連携校も紹介されており、これらの学校を含めると、関連する学校は34都道府県に広がっています。*⁹

 このように、「SGH事業」が学校単位での取り組みを中心に進められていたのに対し、「WWLC構築支援事業」は複数の連携校や関連機関が 「アドバンスト・ラーニング・ネットワーク」を形成し、共同体として研究開発に取り組むという特色を持っています。

 

 

◆具体的な取り組み内容

 

 拠点校のひとつである埼玉県の筑波大学附属坂戸高等学校*¹¹ は、特別支援学校や愛知県の私立高等学校やインドネシア・タイ・フィリピンの学校と学校設置区分や地域を越えて連携し、多様な背景を持つ生徒たちが共に学ぶ構想になっています。*¹² *²¹

 この学校では、「国際フィールドワーク」を通して持続可能な国際社会を創る人材育成システムの構築という構想の下、SDGs の課題解決、広い視野と専門性、新たな分野同士の融合によりイノベーションを起こす、世界の架け橋となる人財育成をしようとしています。

 管理機関である筑波大学のもと、国内提携校として、筑波大学附属高等学校や中部大学春日丘高等学校など8校、国外提携校として、インドネシアのボゴール農科大学コルニタ高等学校やフィリピン大学附属ルーラル高等学校など4校、事業協働機関としてボゴール農科大学・インドネシア環境林業省・東南アジア教育大臣機構・JICA(国際協力機構)・日本オリンピックアカデミー(NPO)など10機関と事業を進めます。

 具体的には、社会課題の発生している現場での「国際フィールドワーク」(インドネシアに3週間滞在し、現地の高校生と混合チームで、課題設定・調査・計画立案・実行を、全て生徒たちで行う)を積極的に取り入れた体系的な探究型カリキュラムを開発し、国際社会において文化の異なる海外の人々と協働して社会的問題に取り組み、問題提起から解決に至る過程でリーダーシップ及びフォロワーシップを発揮できる人材を育成するシステムの構築を行おうとしています。*¹³ 

 それらの成果を高校生が主体的に発表し、共有し、世界に発信する場として、国内外連携校・国内外の大学と研究機関・ASEANの国際機関や企業等がネットワークを形成し、国内外の高校生が一堂に会する高校生国際会議が2019年11月に開催されました。

 さらに10年後には、SGU(スーパーグローバル大学*¹⁴)として海外に13のオフィスを持つ筑波大学の世界展開力を附属学校として活用し、アジアから世界にネットワークの輪を広げ、世界の舞台で活躍できるグルーバル人材の育成システムの構築を目指すということです。*¹⁰

 

 

 このような学びを行うカリキュラムが整備され、広がっていけば多くの学校で学びの姿が変わっていきそうです。

 学校だけで教師が一方的に教え込むような教育から、様々な選択肢の中で、自分自身の答えを生徒が自ら見いだすことができるような学びが進みそうです。また、生徒一人一人の興味や関心に沿って、学校だけではなく、地域社会、企業、NPO、高等教育機関といった多様な学びの場を活用し、異なる年齢や背景を持つ相手とコミュニケーションしながら「社会に開かれた教育課程」による学びにより、問題発見・解決能力等を伸ばしていくことも出来そうです。

 教科内容も、文理両方を学び、幅広い教養や思考の基盤となる STEAM(Science、 Technology、 Engineering、 Art、 Mathematics)教育や、学びたければ微分方程式や線形代数・ベイズ統計、データマイニングなど、より高度な学びが期待できます。また、海外提携校等へ短期・長期留学したり、海外からの留学生と一緒に英語での授業・探究活動等を履修したりすることが珍しくなくなることでしょう。

 

 

◆保護者のできることは何か

 

 子どもたちは、5年後、10年後に社会を築いていく人材です。子ども自身がそのことに気づき、自分はどうしたいのか、大学で何を学びたいのかを考えられるような教育や、これからの社会で求められる力を身につけて伸ばしていく教育を受けさせたいと考える保護者もいるのではないでしょうか。

 国内の拠点校・共同実施校・連携校は、200校を超えていますが、これらの学校は未来を拓くモデル校の集団とみることも出来ます。WWLCの取り組みは、新学習指導要領(高校は2022年度入学生から)が目指す資質・能力の育成を高いレベルで実現しようとしているものとも言えるのです。*¹⁷

 大学入学試験においても、 関西学院大学では、SGH やSGH アソシエイト(SGH事業を踏まえたグローバル・リーダー育成に資する教育の開発・実践に取り組む高等学校等)に指定された高等学校等で課題研究に取り組んだ生徒を対象に「スーパーグローバルハイスクール対象公募推薦入学試験」を行っています。*¹⁵

 また、多くの大学で実施される総合型選抜では、受験生本人が記載した活動報告書、入学希望理由書、学修計画書などの資料を積極的に活用することとしています*¹⁶ し、学校推薦型選抜では、本人の学習歴や活動歴を踏まえた「学力の三要素」*²⁰ に関する評価を記載すること、大学が選抜でこれらを活用することのどちらも必須化しています*¹⁸ ので、高校時代にWWLCで学んだ内容を存分に活かすことができるでしょう。

 首都圏地区や京阪神では、WWLCに関係する学校も少なくありません。高校だけではなく、中学校から生徒募集している学校や、高校からは生徒を募集しない中高一貫校も含まれています。

各校の研究開発構想内容は多様ですが、各校の活動の様子が紹介されているサイトもあります。*¹⁹

 他の拠点校がどのような取り組みをしているのか、保護者や子どもが気になっている学校がWWLC事業に参加しているかどうか、情報収集してみると良いでしょう。

 WWLCの拠点校・共同実施校・連携校をみると、様々な模擬試験業者が設定しているいわゆる「合格可能性偏差値」層は様々であることがわかります。それは、従来の偏差値で測りやすい「知識・技能」の習得度が、WWLCの選定基準ではないからです。

 中学生以下の子どもの保護者は、「WWLC参加校かどうか」という視点を、進学を目指す中学・高校選びの一つのポイントとして加えてみても良いのではないでしょうか。

*¹ スーパーグローバルハイスクールについて  文部科学省 

https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/sgh/

SGH専用ホームページ http://www.sghc.jp/

 

*² WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業  文部科学省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/__icsFiles/afieldfile/2019/04/03/1415094_02.pdf

 

*³ 「Society 5.0 に向けた人材育成~ 社会が変わる、学びが変わる ~」  Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会 新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース  2018年6月5日

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405844_002.pdf

 

*⁴ Society5.0  内閣府 

https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

科学技術基本計画   内閣府   2016年1月22日内閣決定

https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf

 

*⁵  WWLとは ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業ウェブサイト 

 https://b-wwl.jp/about/

 

*⁶  WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業 文部科学省

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/07/22/1419157_01.pdf

*⁸  2019年度「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」の採択機関について 文部科学省  2019年4月3日

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1415094.htm

令和2年度WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業における「カリキュラム開発拠点校」の決定について  文部科学省  2020年4月10日

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/mext_00177.html

 

*⁹ 令和元年度及び令和2年度「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」カリキュラム開発拠点校 一覧  文部科学省  2020年4月20日

https://www.mext.go.jp/content/20200420-mxt_koukou02-000006636.pdf

 

*¹⁰ 【てら先生コラム】第23回:SDGsと学校教育  東京個別指導学院

https://www.tkg-jp.com/tkg_movie/detail.html?id=3254

 

*¹¹ 筑波大学附属坂戸高等学校

http://www.sakado-s.tsukuba.ac.jp/

 

*¹² 2019年度WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業拠点一覧  文部科学省  2019年4月12日

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/__icsFiles/afieldfile/2019/04/12/1415094_01.pdf

 

*¹³  2019年度WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業 構想計画書(概要)  筑波大学附属坂戸高等学校  2019年7月22日

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/07/22/1419162_01.pdf

 

*¹⁴  スーパーグローバル大学創成支援事業 日本学術振興会

https://www.jsps.go.jp/j-sgu/

 

*¹⁵ 関西学院大学  スーパーグローバルハイスクール対象公募推薦入学試験要項 2020年度 訂正版   2019年7月1日

https://www.kwansei.ac.jp/cms/kwansei/admissions/pdf/0000178639.pdf

 

*¹⁶ 「高大接続改革」に係る質問と回答(FAQ) 文部科学省  

「総合型選抜」(現行 AO入試)における評価方法の改善点を教えてください。

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/detail/1402201.htm

 

*¹⁷ 平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等  文部科学省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

 

*¹⁸ 「高大接続改革」に係る質問と回答(FAQ) 文部科学省

「学校推薦型選抜」(現行 推薦入試)における評価方法の改善点を教えてください。

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/detail/1402203.htm

 

*¹⁹  ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム構築支援事業ウェブサイト

https://b-wwl.jp/

 

*²⁰ 【教育改革】第1回「学力の3要素」  東京個別指導学院

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=233

 

*²¹  「国際フィールドワークを通じて持続可能な国際社会を創る人材育成システムの構築(研究報告書 第1年次)

拠点校 筑波大学附属坂戸高等学校 管理機関 筑波大学附属学校教育局   2020年3月

http://www.gakko.otsuka.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/2019_WWL_report3.pdf

 

 

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 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110