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2020年03月02日

【教育改革】第24回:記述式問題導入見送りと『大学入学共通テスト』

教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第24回目は記述式問題導入見送りと『大学入学共通テスト』をお届けします。

 2019年12月17日に文部科学省は、 (2021年)”1月実施の大学入学共通テストにおける記述式問題の導入については、受験生の不安を払拭し、安心して受験できる体制を早急に整えることは現時点において困難であり、記述式問題は実施せず、導入見送りを判断 “し*¹、2021年1月16・17日に実施予定の大学入学共通テストからの『国語』、「数学Ⅰ」及び『数学Ⅰ・数学A』における記述式問題の導入見送りを決定しました。

 この決定を受けて、文部科学省は2020年1月29日に、2019年6月7日に公表した「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について」*²の変更を発表しました。*³

 

 

◆記述式問題導入見送りで、変更になった点

 

 2020年1月に実施された『大学入試センター試験』と2021年1月実施予定の『大学入学共通テスト』の比較と、『大学入学共通テスト』の出題方法等が2019年6月と2020年1月発表では、どこが変わったのかについて、以下の表にまとめてみました。前回のコラムでは、『英語』についてまとめていますので、今回は『英語』以外についてのまとめです。2019年6月と2020年1月発表による変更点については赤字で示しています。

 

 

令和2年度大学入試センター試験受験案内*⁶、令和2年度大学入学者選抜大学入試センター試験実施要項*⁵、

令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針(令和2年1月29日 一部変更)*³

令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等(令和2年1月29日 一部変更)*⁴

令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の見直し及び大学入学共通テストの出題方法等の変更のポイント(令和2年1月29日)*⁷ をもとに東京個別指導学院が作成

 今回の変更についてみてみると、『大学入学共通テスト』における記述式問題の出題については、採点体制(誰が採点者なのか、採点者に問題が事前に伝わってしまうのか)、採点の精度(採点者間で採点結果にブレが生じるのではないかという懸念)、自己採点結果と実際の結果の不一致率などの問題が指摘されていたため、記述式という「解答のしかた」に関する部分での変更がみられますが、「問題の出しかた」に関する変更はみられませんでした。

 ここでは、「数学Ⅰ」『数学Ⅰ・数学A』の解答時間が、記述式問題の出題見送りにも係わらず、当初発表されていた70分(『大学入試センター試験』では60分)のままであることは注意すべき点です。

 そして、今回変更された「問題作成方針」の『国語』では、”⾔語を⼿掛かりとしながら、⽂章から得られた情報を多⾯的・多⾓的な視点から解釈したり、⽬的や場⾯等に応じて⽂章を書いたりすることなどを求める”が “⽬的や場⾯等に応じて⽂章を書いたりするなどを求める”となっており、記述式での解答を求めないが、マーク式という解答方法の中で、間接的に記述力を問うことが予告されています。*³

 

 

◆記述式問題導入見送りで、変更にならなかった点

 

 そもそも『大学入学共通テスト』は、“⼤学(専⾨職⼤学、短期⼤学、専⾨職短期⼤学を含む。以下同じ。)への⼊学志願者を対象に、⾼等学校(中等教育学校及び特別⽀援学校⾼等部を含む。以下同じ。)の段階における基礎的な学習の達成の程度を判定し、⼤学教育を受けるために必要な能⼒について把握することを⽬的として”います。*³ 『大学入学共通テスト』の問題作成方針*³にも、“⾼等学校教育を通じて⼤学教育の⼊⼝段階までにどのような⼒を⾝に付けていることを求めるのかをより明確にしながら問題を作成する”と記されています。そして、2018年度に実施された試行調査も、その方針に沿って、作問・実施されました。*⁸

 大学入学共通テスト問題作成方針*³において、『大学入学共通テスト』は、 “⾼等学校教育の成果として⾝に付けた、⼤学教育の基礎⼒となる知識・技能や思考⼒、判断⼒、表現⼒を問う問題”を作成・出題すると記載されています。つまり、知識・技能だけではなく、思考力・判断力・表現力を問う問題も出題するということです。

 そして、“⾼等学校における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し、授業において⽣徒が学習する場⾯や、社会⽣活や⽇常⽣活の中から課題を発⾒し解決⽅法を構想する場⾯、資料やデータ等を基に考察する場⾯など、学習の過程を意識した問題の場⾯設定を重視する。”とも記されています。

 試行調査問題では、“授業において⽣徒が学習する場⾯”の問題として、様々な科目で生徒同士や生徒と教師が会話する問題が出題されました。また、「数学Ⅰ」の試行調査問題で小学校と高校の階段の違いという“社会⽣活や⽇常⽣活の中から課題を発⾒し解決⽅法を構想する場⾯”の問題が出題されています。また、「政治・経済」の試行調査問題のように、多量の”資料やデータ等を基に考察する“問題も出題されています。また、『国語』2018年度試行調査問題では、異なる種類や分野の⽂章などを組み合わせた、複数の題材による問題が、全ての大問で出題されました。*⁹

 そして、“教科書等で扱われていない資料等も扱う場合がある”*³ とも予告されていますが、その目的は“”⾼等学校における通常の授業を通じて⾝に付けた知識の理解や思考⼒等を新たな場⾯でも発揮できるかを問うため“にあります*³。ですから、教科書を丸暗記しただけでは対応できない問題も出てくると言えましょう。

 

 小・中・高等学校での教育そのものが変化し、「主体的・対話的で深い学び」*¹⁰ が、今後重視されるようになっています。ですから、高等学校まで学びがどれだけ身についているのかを把握するテストも変わります。ここまで『大学入学共通テスト』の作問方針をみてきましたが、作問方針には記述式問題出題見送りの影響はなく、『大学入学共通テスト』は、単なる知識の暗記や技能の定着だけではなく、実生活の場面や、未知の場面で、これまで身につけてきた知識の活用力や思考力まで問われるテストになるということになります。

 「解答のしかた」は、『大学入試センター試験』と同じく、全科目・全問題がマークシート方式なので、『大学入試センター試験』と『大学入学共通テスト』では内容に大差がないように思われるかも知れませんが、「問題の問われかた」は『大学入試センター試験』と『大学入学共通テスト』では違いがあることがわかります。『大学入学共通テスト』で記述式問題の出題が見送りになったからといって、『大学入試センター試験』の対策と同じ対策をしているだけでは、十分な準備とはならないでしょう。

 

 

◆大学受験生に求められる学習

 

 2021年実施の『大学入学共通テスト』は、⾼等学校学習指導要領に基づく学習範囲の中から出題されるという点では、2020年に実施された『大学入試センター試験』と変更はなく、『大学入試センター試験』よりも多くの知識量や多くの技能をもっていなければ対応できないということではありません。

必要な知識・技能の多さは変わらないのですが、『大学入学共通テスト』では、身につけた知識や技能をもとに思考・判断・表現する力が問われます。

 身につけた知識や技能を活用できるかどうかは、出題範囲の知識をどれだけ深くインプットできるか、そして、本番を想定したアウトプットの経験をどれだけ積んでいるかで左右されるでしょう。

 『大学入学共通テスト』では、“特定の事項や分野に偏りが⽣じない”ように留意することから、「理科」の専門科目では解答する問題を選択出来る問題は出題されないことになりました。*³ このため、「この単元はニガテなので学習を後回しにする」という学習は通用しなくなります。また、2018年の試行調査問題(「数学Ⅰ」の階段の問題)で問われたような、どの知識・技能を使うのかから考える問題への対応には、出題単元を早めに一通り学んでおくことが必要です。ということは、『大学入学共通テスト』に向けた受験勉強は受験学年になってから始めるのではなく、これまでの受験生よりも準備を前倒ししていくことが必要でしょう。

 そして、 “日常生活や社会の事象などを題材とする問題を共通問題において最低1題は出題することとする”“共通問題において、数学的な問題発見・解決の過程の全過程を問う問題は、大問もしくは中問1題程度”とされています。*¹¹ つまり、これまでの問題集ではあまりみられなかった、日常生活や社会の事象などを題材とする問題や、解答へのプロセスを問う問題は必ず出題されますので、このような問題への対応をするための演習量が必要になります。

 さらに、大学入試センター担当者は、「従来の試行調査問題を忠実に再現したような問題を参考書や模擬試験で見かけるが、試行調査を全てだとは思っていないし、今、まさに問題を作っている最中であるが、新しい問題を作ろうとして、トライしている」と述べており、*¹² 試行調査問題では見られなかったような問題の出題の可能性も示唆しています。ですから、全く見たこともないような問題に接しても、動揺せずに対処していく練習も必要になってくるでしょう。「この問題は学校や塾で習っていないから、出来ない」というような学習姿勢ではなく、「まだ習っていない問題でも、今まで身につけた知識や技能を工夫したり組み合わせたりして解いていく」ような学習姿勢が必要になってくるでしょう。

 

 

◆保護者のできること

 

 『大学入学共通テスト』では、当初記述式問題の出題が予定されていたため、大学入試センターから各大学への成績提供日程は、全てマーク式で出題されていた『大学入試センター試験』の成績提供日程よりも、1週間後ろ倒しになっていました。このため、特に私立大の入試日程に大きな影響を与える可能性があり、従来の試験の試験日程から変更した大学もありました。これが、『大学入学共通テスト』の記述式問題出題の見送り、全問マーク式での出題となったことにより、大学への成績提供日程は、現行と同様となりました。このため、既に入試日程を発表している大学の中には、入試日程を変更する大学が出てくる可能性があります。

 例えば、国立大学では、2021年度の『大学入試センター試験』を課す推薦入試及びAO入試の結果発表を、『大学入試センター試験』実施日の21日後の2月9日に行いました(2月12日まで)が、2021年度の『大学入学共通テスト』を課す学校推薦型選抜及び総合型選抜の結果発表は、『大学入学共通テスト』実施日の28日後の2月14日(2月16日まで)と、一週間後ろ倒しになっています。*¹⁴ 

 また、私立大学の明治大学法学部法律学科の2020年度の大学入試センター試験利用入試(前期3科目型)の合格発表日は、『大学入試センター試験』実施日の25日後の2月13日でした。2021年度の大学入学共通テスト利用入学試験(3科目型)の合格発表日は2月21日と、『大学入学共通テスト』実施日の35日後と後ろ倒しされていました。*¹³

 これらの大学が、全て入試日程を変更するとは限りませんが、今回の大学への大学入試センターからの成績提供日の変更の発表により、影響が出てくる大学も予想されることから、気になる大学に関しては、HPを参照するなどして最新の情報を収集しておくことは、保護者のできることです。

 チェックしていかなければならないのは、試験日程だけではありません。2021年1月実施の第一回目の『大学入学共通テスト』の実施まで1年を切りましたが、『大学入学共通テスト』の科目ごとの配点の公表が行われていない大学も少なからずあるのです。

 大学入試制度改革の初年度ということに加え、2019年11月以降に文部科学省から大きな発表(『大学入試英語成績提供システム)と『大学入学共通テスト』での記述式問題導入の見送り)が続いたことにより、大学側も入学試験に関する決定と発表が遅れているのが現状です。だからこそ、最新の情報を収集していくことが、保護者のできる子どもへの支援です。

 とはいえ、保護者の力だけでは、情報収集が十分に行えないこともあるでしょう。そのような場合、情報源として信頼できる学校の先生や塾の先生などの相談先を確保しておくことも、保護者のできることだといえるでしょう。

 

 

*¹ 萩生田文部科学大臣の閣議後記者会見における冒頭発言 文部科学省 2019年12月17日

https://www.mext.go.jp/content/20191217-mxt_kouhou01-000003280_2.pdf

 

*² 令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について 独立行政法人 大学入試センター 2019年6月7日

https://www.dnc.ac.jp/news/20190607-03.html

 

*³ 令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針  独立行政法人 大学入試センター  2020年1月29日一部変更

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00038189.pdf

 

*⁴ 令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等 独立行政法人 大学入試センター 2020年1月29日一部変更

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00038188.pdf

*⁵ 令和2年度大学入学者選抜大学入試センター試験実施要項  独立行政法人 大学入試センター  2019年6月5日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035969.pdf

 

*⁶ 令和2年度大学入学者選抜大学入試センター試験受験案内  独立行政法人 大学入試センター  2019年9月発行

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00036163.pdf

 

*⁷ 令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の見直し及び大学入学共通テストの出題方法等の変更のポイント(令和2年1月29日) (大学入試のあり方に関する検討会議(第2回)配布資料1-1) 文部科学省  2020年2月7日

https://www.mext.go.jp/content/20200207-mxt_daigakuc02-000004565_2.pdf

 

*⁸ 「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨について 独立行政法人 大学入試センター  2018年6月18日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035410.pdf

 

*⁹ 平成30年度試行調査_問題、正解等  独立行政法人 大学入試センター

https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html

 

*¹⁰ 【教育改革】第21回:小学校学習指導要領改訂と「主体的・対話的で深い学び」

https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3016

 

*¹¹ 大学入学共通テスト導入に向けた試行調査(プレテスト)(平成30年度(2018年度)実施)の結果報告(科目別分析)  独立行政法人 大学入試センター  2019年4月18日

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm00035898.pdf

 

*¹² 大学入試センター試験・研究統括補佐官兼審議役 白井俊氏発言  2019年9月30日

 

*¹³ 明治大学 2020年度一般入学試験要項

https://www.meiji.ac.jp/exam/information/guidelines/pdf/2020-meiji_guidelines.pdf

2021年度(令和3年度)入学者選抜の概要について

https://www.meiji.ac.jp/exam/info/2019/6t5h7p0000237crm-att/6t5h7p0000237csk.pdf

 

*¹⁴ 国立大学の入学者選抜についての 2020年度実施要領 国立大学協会 入試委員会 2018年6月12日

https://www.janu.jp/univ/exam/pdf/2020_1.pdf

国立大学の2021年度入学者選抜についての実施要領 国立大学協会 入試委員会 2019年6月11日

https://www.janu.jp/univ/exam/files/2021.pdf

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 https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=2110