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PICK UP 一覧に戻る2020年11月01日
【教育改革】第32回:令和の日本型学校教育
教育改革とその影響に関して、弊社個別指導総合研究所から継続的に情報を発信していきます。
第32回目は「令和の日本型学校教育」をお届けします。
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AIやビッグデータなど高度化した先端技術が産業や社会生活に取り入れられるSociety 5.0 時代*¹ の到来に向け、文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会において、「新しい時代の初等中等教育の在り方」について検討しています。同分科会は2020年10月7日に、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(中間まとめ)を公表しました。*²
この分科会は2019年4月17日に、当時の文部科学大臣の諮問を受け*³、これまでの各種議論*⁴ も踏まえて検討しているもので、2021年1月の答申を目指しています。
72ページにも及ぶ『中間まとめ』では、Society5.0時代の到来や新型コロナウイルス感染症拡大といった”「予測困難な時代」において、新学習指導要領*⁵ を着実に実施するためには学校教育を支える基盤的なツール”としてICT*⁶ は必要不可欠なものであるという前提で、学校教育の在り方を検討していくことが必要だとしています。
今回は、この『中間まとめ』で目指されている教育の方向性について、考えてみたいと思います。
◆決して誰一人取り残さない
この『中間まとめ』には”~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~”という副題がついています。
“全ての子供たち”とあるように、『中間まとめ』では、幼児教育の質の向上、不登校や病気療養中の児童生徒、いじめや虐待を受けている児童生徒、義務教育未修了の学齢を経過した人たち、一市町村一小学校一中学校等の自治体で暮らす子供たちへの対応、外国人児童生徒等への教育や特別支援教育の在り方なども盛り込まれ、様々な子どもたちに配慮した内容になっています。
特に、義務教育段階では”児童生徒が多様化し学校が様々な課題を抱える中にあっても、義務教育において決して誰一人取り残さないということを徹底”し、”我が国のどの地域で生まれ育っても、知・徳・体のバランスのとれた質の高い義務教育を受けられるようにすることが国の責務”だとして、一人残さず学べる機会を提供するように求めています。
そして、「質の高い義務教育」の実現のために、外部人材や専門スタッフ等、多様な人材が指導に携わることができるようにしたり、小学校での教科担任制を導入したり、ICTを積極的に活用した教育を行うことなどが掲げられています。
これは、今後社会がどう変化しようとも、自ら課題を見つけて解決できるような人の育成を目指し、何を学ぶかだけではなく、どのように学ぶか、何ができるようになるかを重視して見直された学習指導要領による学びの機会を提供し、学力の保証を全ての子どもたちに行うという表明であるといえます。
◆個別最適化された学び
『中間まとめ』では、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿は”多様な子供たちの資質・能力を育成するための、個別最適な学びと、社会とつながる協働的な学びの実現”だとしています。
「個別最適な学び」とは、文部科学省が目指す次世代の学校・教育現場として掲げた教育のスタイルを指します。『中間まとめ』では、「指導の個別化」と「学習の個性化」について触れられています。
子どもたちを、「誰一人取り残さ」ずに基礎的・基本的な知識・技能などを確実に修得させるためには、専門性の高い教師がより支援が必要な児童生徒により重点的な指導を行った方が良いでしょう。多様化が進む子どもたち一人ひとりの特性や学習進度などに応じ、教師が指導方法や学習時間などを柔軟に設定したり、子どもたちが自分の学習状況を把握したり、調整したりしながら粘り強く学習に取り組む態度を育成する、「指導の個別化」は欠かせません。
また、基本的な知識や、これからの時代に重要性が増す情報活用能力といった資質・能力を基に、専門性の高い教師が個々の子どもに応じた学習活動を提供することで、子ども一人ひとりが主体的に課題設定して、情報収集・整理・分析、まとめ・表現を行うなど、学習を最適化する「学習の個性化」も、今後重視されていく「探究的な学び」には重要です。
明治以来、日本の公立学校教育は、全国で皆が同じ教育内容、同じスピードで、いわゆる画一的な授業を行ってきました。しかし、これまでも、特に成長に個人差のある初等中等教育段階では、それぞれの子どもの成長過程に学校のシステムがマッチしていないケースもありました。そして、社会のグローバル化やユニバーサル化が進んでいる現在、様々な背景をもち多様化した子どもたちに対しては、これまでの画一的な教育を見直して、一人ひとりの能力、個性、成長のスピードに合った多様性のある教育が必要になってきています。
一人ひとりの理解状況や能力・適性に合わせた個別最適化された学びを行うことで、例えば、障がいを持つ子どもや日本語指導が必要な子ども、特異な才能を持つ子どもなど多様な子どもたちが今まで以上にイキイキと学べるようになると期待されます。
個別最適化された学びの実現には、子どもの学習状況を的確に把握することも大切です。そのための基盤となるのもICTです。例えば、スタディ・ログ(学習履歴)を含む教育ビッグデータを活用し、電子化・蓄積すれば、教師が一人ひとりの子どもの現時点での理解状況や能力、適性を把握することができるだけでなく、子どもが自分のデータを活用したり、学力定着の学習をしたりするといったことができるようになります。また、一人ひとりの子どもに合わせた教材での学習も可能になり、より個別最適化された学びの実現が可能です。
『中間まとめ』では、学習履歴(スタディ・ログ)の活用以外にも、全国学力・学習状況調査のCBT化、デジタル教科書・教材の普及促進などについても触れられています。
◆履修主義と修得主義の組み合わせ
履修主義は、出席日数に不足がなければ成績に関係なく進級や卒業を認める考え方です。これに対して、修得主義は、教育の目標に照らして一定の成績を修めていることを条件として進級・卒業を認める考え方です。
『中間まとめ』では、”履修主義・修得主義等を適切に組み合わせる”としています。特に、高等学校教育については、義務教育よりも”修得主義・課程主義の要素がより多く取り入れられている”として、”高等学校教育の特質を踏まえて教育課程の在り方を検討していく必要がある”と指摘しています。今回の『中間まとめ』では、これまでよりも修得主義を重視していく方向性を示し、実質的に習得主義の立場に近づいたのではないかと考えています。
私見ですが、文部科学省のこれまでのスタンスは履修主義の立場をとっていると感じていました。
しかし、ICTの活用により学習の個別最適化が進めば、今までの標準授業時間数の半分の時間で一定以上の成績を修めることができる子どももいれば、標準授業時間数の1.5倍かければ一定以上の成績を修めることができる子どもも出てくるでしょう。
誰一人取り残さないためには、学ぶべき内容は全員が学ぶべきですし、そのために学ぶ時間は、人それぞれで違います。それぞれの子どもにあったペースで学べる方が、「誰一人取り残さない」学びが実現できると思います。
◆多様な実情・ニーズに応じた学びの実現
『中間まとめ』では、学びの「個別最適化」によって、一斉一律の学びから、子ども一人ひとりの興味関心や適性に応じた多様化した学びへと変化させていく方向性も示されています。
英語力に応じた異年齢・異学年集団の協働学習のように、年齢や学年ではなく、子どもの能力に合わせた学習環境の提供、飛び級や飛び入学、早期卒業等も検討されています。
また、特異な才能を持つ子どもに対し、大学や研究機関等の社会の多様な人材、リソースを活用したアカデミックな知見を用いた指導に係る実証的な研究開発の推進も挙げられています。これらも、より一人ひとりの子どもに寄り添い個別最適化された学びを進めるうえでも必要でしょう。そして、以前の本コラム*⁷ で触れたような、高等学校普通科の再編の動きや学校ごとに特色を持たせる方針(【教育改革】第31回:高等学校「普通科」再編)や、WWLC(【教育改革】第27回:ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム)は、この「多様な実情・ニーズに応じた学びの実現」のための方策のひとつであると考えられますし、東京都立小中高一貫校(【教育改革】第30回:東京都立小中高一貫教育校)開設も、同じ考えに基づいたものだと言えましょう。
本コラムの冒頭に記しました通り、「新しい時代の初等中等教育の在り方」の最終的な答申は2021年の1月ですので、今後、『中間まとめ』から内容の変化があるかもしれません。しかし、『中間まとめ』で示された方向性は、日本経済団体連合会(経団連)が2020年7月に発表した「Society 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言~with コロナ時代の教育に求められる取組み~」*⁸ や、文部科学省が進める「GIGA(ギガ)スクール構想」*⁹とも、同じ方向性ですので、あくまで私見ですが、「答申」内容は『中間まとめ』の内容から大きな変更はないと考えています。
◆保護者のできること
これまで以上に、学校ごとに学ぶ内容が変わり、同じ学校の中でも学ぶ内容が変わる時代がそう遠くない時期にやってくるということを意識しておくことです。保護者が受けてきた学校教育とは、異なる学校教育が始まるのです。「全員が、同じ場所で、同じ時間に、同じ内容を学ぶ」から、「各人が、場所を問わず、必ずしも同じ時間ではなく、異なる内容を学ぶ」へ転換されます。
例えば、同じ学校で同じ授業時間中に、解いている数学の問題が生徒一人ひとり全く異なるという光景も珍しくなるでしょう。そして、その授業に出席している生徒の年齢も異なるということも当たり前になる日がやってきそうです。
また、ICTの活用によって知識・技能のインプットにかける授業時間が大幅に削減された時、空いた時間をより発展的な内容の学びに充てる学校も出てくるかもしれませんし、より幅広い分野を学ぶ(例えば理系・文系分野とも全員が学ぶ)学校が出てくるかもしれません。協働的な学びについても、学校内だけに留まらず、地域や企業、大学、国内外機関と協働した学びを進める学校が今まで以上に出てくるでしょう。
では、保護者がすべきことは何でしょうか。2点あります。
1点目は、子どもにとって最適な学びが受けられるように、子どもの一番身近で、子どもの成長を見守り続けてきている保護者が、子どもの特性や個性や、子どもの興味・関心がどこにあるのかを、把握することです。これは、保護者にしかできないことです。しかし、保護者は子どもの身近で毎日接しているだけに、かえって子どもの成長を見過ごしてしまっていたり、欠点ばかりが目についてしまったりすることも、よくあることです。
ですから、保護者以外で、子どもの成長を見守り、特性や個性、興味関心を把握している第三者からも話を聞き、子どもについての情報を収集しておくことを合わせてお勧めします。
2点目です。子どもにとって最適な教育環境がどのような環境なのかについては、個々の学校の教育の内容が具体的にどのように変わっていくのかという学校情報も必要になってくるでしょう。これは、保護者だけの力ではなかなかできないことだと思います。そんな時に、子どもの個性や特性を尊重し、各学校の強みや特色等を踏まえ、子どもの将来の夢や目標の実現を支援するという観点から、子どもにとって最適な学習環境や進路選択をアドバイスしてくれる相談先を確保しておくことも保護者のできることです。
大変な時代がやってくると感じる保護者もいらっしゃるかもしれませんが、無理に『みんな』と同じに学ぶ時代から、子どもの特性やタイプを尊重して、個性を伸ばしながら学ぶ時代がやってくるのです。保護者が子どもに「『みんな』に合わせなさい」と言うような機会が減り、子どもの個性に寄り添っていけるようになるのです。そんな「令和の日本型学校教育」に期待しましょう。
〇「教育改革コラム」掲載終了のお知らせ〇
「教育改革コラム」は、今回の更新をもって、全32回の連載を終了いたします。
これまでご愛読いただいた皆様、誠にありがとうございました。
*¹ Society 5.0 とは 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
*² 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(中間まとめ) 中央教育審議会初等中等教育分科会 2020年10月7日
https://www.mext.go.jp/content/20201007-mxt_syoto02-000010320_2.pdf
*³ 「新しい時代の初等中等教育の在り方について」諮問 中央教育審議会 2019年4月17日
*⁴ 例えば、
第3期教育振興基本計画(2018年 6 月 15 日閣議決定)
https://www.mext.go.jp/content/1406127_002.pdf
中央教育審議会「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(2019年1月答申)
教育再生実行会議「第11次提言中間報告」(2019年1月公表)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai11ji_1.pdf
教育再生実行会議では、「技術の進展に応じた教育の革新 新時代に対応した高等学校改革について」(2019年5月)に高等学校教育の在り方について類似した提言を行っている
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai11_teigen_1.pdf
*⁵ 平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
*⁶ Information and Communication Technology
コンピュータなどのデジタル機器、その上で動作するソフトウェア、情報をデジタル化して送受信する通信ネットワーク、およびこれらを組み合わせた情報システムやインターネット上の情報サービスなど
*⁷ 東京個別指導学院
【教育改革】第31回:高等学校「普通科」再編 2020年10月1日
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3489
【教育改革】第27回:ワールド・ワイド・ラーニング・コンソーシアム) 2020年6月1日
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3421
【教育改革】第30回:東京都立小中高一貫教育校 2020年9月1日
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3470
*⁸ 「Society 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言~with コロナ時代の教育に求められる取組み~」 日本経済団体連合会 2020年7月14日
http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/063_honbun.pdf
「自ら学ぶ力を育てる初等・中等教育の実現に向けて~将来を生き抜く力を身に付けるために~」 経済同友会 2019年4月
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/190403a.pdf
*⁹ 【教育改革】第28回:GIGAスクール構想と新型コロナウイルス禍 東京個別指導学院 2020年7月1日
https://www.tkg-jp.com/pickup/detail.html?id=3431
経済産業省も2019年6月に、令和の教育改革に向けた、「未来の教室ビジョン」を発表している。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mirai_kyoshitsu/pdf/20190625_report.pdf
経済同友会も2020年6月に「小・中学校の子供の学びを止めないために~遠隔教育の推進に向けた意見~」
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/200617a.pdf
で、『中間まとめ』と方向性が同じ意見表明や提言を行っている。
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